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P.L.A.M. | LIGHTING STYLE Vol.5

LightingStyle

山種美術館/東京都渋谷区

山種美術館メイン写真
学ぶ環境に適した光の質を変える提案で、明るさ感を取り入れた教室リニューアル。
  • 建物種別:美術館・博物館
    竣工:2009年07月
    地域:関東
    所在地:東京都
    施主:山種美術財団
    設計:日本設計
    展示コンサル:スタジオレガロ
    施工:鹿島建設
    電気工事:きんでん
対談 お客様の声 ディテール紹介 ライティングデータ

Cross Talk/対談:日本設計山下氏×EC藤原工

山下様
山下 博満様

株式会社 日本設計
プロジェクト統括本部部長
チーフ・アーキテクト

藤原
藤原 工

パナソニック株式会社
照明デザインEC
美術館・博物館担当
照明デザイナー

建物設計の基本的な考え方

日本画を最良の状態で見せる「静やかな空間」づくり
山下様
山種美術館の機能の本質は、お客様に日本画を中心とした山種コレクションを、できる限り最良の状態で見ていただくということです。あくまでも美術作品とお客様が主役。そのために建築ができることは、ゆったりと時間をすごせる、「静やかな空間」をつくることだと考えました。「静やか」とは、心が静かになるようなという意味です。具体的には、空間の連続的な広がりをつくること、うるさくないデザインとすること、つまり決して建物が主張し過ぎないこと。
また、もうひとつ欠かせないのが、地球環境の視点です。温度の安定している地下に展示室を設けたことは地球環境を守る手法の一つでもありました。照明の一部にLEDを使用していることも、もちろん環境配慮の一環です。

展示室への導線、照明計画のポイント

心と目を鑑賞の世界に緩やかに導く明るさ感の設定
山下様
美術館は入る前から作品に到達するまでのプロセスも非常に重要です。劇場などでも言えることですが、明るい日常の世界から別の世界に入っていく、そのシークエンスを大事にしたい。期待感を演出するアプローチが必要だと考えます。そのためには、メリハリのある明るさ感の設計が大変重要です。今回は建築空間の考え方と照明計画を一体化することができました。
藤原 
日中、外から入ってすぐ暗がりになると不安感を与えることがあります。必要な明るさ感を得るためにFeuの考え方を取り入れて鉛直面を明るくしています。目から入る明るさ感を、エントランスからホール、階段へ変化をつけていきます。徐々に暗さに目を慣らしていき、心が落ち着いてくる。階段を下りると、そこには豊かな空間が広がり、展示室に自然に引き入れてくれるかのような光の動線です。
これまではそれを照度という考え方のみで設計していました。今回、Feuという概念を用いることで、明るさ感でのシークエンスを作りだす新しいアプローチを行えたと思います。

日本初とも言える展示室の照明

複数光源を組み合わせた見上げても見えない照明へ
山下様
展示ケースを見上げても照明が見えない照明手法は、多分日本初と言ってもいいと思います。大きな展示ケースでは照射範囲が広く、均一に照らすためには充分な光量が必要で、単純に考えると照明が見える構成になってしまいます。そこで、展示ケースの設計をかなり最初の段階から並行的に検討を加えていきました。
藤原 
複数でかつ多種の照明を入れて、光源が見えない展示ケースはおそらく世界でもほぼ例がないでしょう。上部にハロゲンとLEDのスポット、白色と電球色の2種類の蛍光灯ケース照明、下部にも2種類のLEDを仕込み、合計6種類の光源が入っています。
山下様
パナソニック株式会社さんの協力も得て実験を何度もやりましたね。本当に見上げても見えないか、光色をどうするか、実際の照明を入れて壁紙などの色を比較するといった検証の連続でした。
藤原 
施工者、ケースメーカー、展示コンサルの皆様と共に、当社の実験室に実寸大モックアップを作りました。また展示作品の複製品を入れて検討。照明の実験だけでなく、実際の操作性やランプなどのメンテナンスのしやすさ、寸法、ケースの壁紙、ガラス、仕上色などすべての実験をやったという形です。一度実験すると必ず課題が出てくる、その検証に実験をまた重ねる繰り返しで、社内検討も含めれば10回以上行っています。
山下様
壁クロスもガラスも実際の照明のもとで見て決めました。設計側と照明側と、山?館長と、それぞれのこだわりがあったからこそこの空間が実現できたのでしょうね。

これからの美術館展示に果たす照明の役割

作品・空間・照明が一体となる総合芸術への道
山下様
展示室は、ただ歩くためだけの照明はやめようと考えました。作品を照らす灯りの反射を活かすことで、余計な光を使わずにすませるというのが理想的だからです。天井も明るめの色調にして空間の明るさ感を得られるようにしました。
藤原 
展示室の照明もFeuの考え方を取り入れて、作品だけでなく空間の明るさ感も大切にし、作品を中心にやわらかく包み込むような照明を行っています。
日本画を見せるための光というコンセプトとも相まって、器具灯数を最小限に抑えて省エネ化も図っています。
山下様
例え話で言うと、交響曲は作曲家と指揮者とオーケストラがいてはじめて成り立ちます。 美術館で言えば絵を描く画家だけでなく、美術館の設計者がいて、学芸員の展示計画があり、そこにさらに照明をどう当てるかという演出が相まって、はじめて芸術として完成するのではないでしょうか。美術館展示は作家だけでなく作品に関わる全ての人の力で成り立つ総合芸術と言えるでしょう。
照明という味付けで、絵の表情は、がらりと変わります。例えば展示の期間や時間帯によって、照明の演出を変えていくのも面白いかもしれません。今回のノウハウを今後、ぜひ活かしていきたいですね。

お客様の声

山? 妙子様
山崎 妙子様
山種美術館 館長
日本画が主役の美術館ということをコンセプトに、約1800点の作品を所蔵しています。それをより良い光環境の下でお客様に見ていただけるように、力を入れていただきました。 来館された方の感想で、非常に照明が良かったという声も多く、以前に見た同じ作品が、ここではもっとよく見えたとおほめの言葉をいただいています。とくに展示ケースの、見上げた時に光源が目に入らない照明は、落ち着いてじっくり作品を鑑賞できるという点で、大きな役割を果たしていると思います。
日本画はもともと展示室で見るものではありません。掛け軸なら座敷の床の間にかかっているものを、普通に自然光の中で見るものです。したがって、そういう環境に近づける光の演出が重要です。例えば屏風の展示では、下からろうそくの灯りのように照らし、上からは月の光のように照明を当てる演出をしましたが、非常に好評でした。どんなにバーチャル技術が進んでも、やはり本物だけにしか分からないことがあります。その出会いを大事にしたいと考えています。

ディテール紹介

Lighting Data

展示ケース

鑑賞者が近づいて作品を見上げた姿勢でも照明器具が目に入らない展示ケースを実現。さらに複数の光源を組み合わせることで、展示作品に対して最適な照明効果を与えられる。
ベースとなるウォールウォッシャーは白色と電球色の美術・博物館用蛍光灯(Hf32W)。スポットはハロゲン(JDR50W)と高演色9WLEDを2段に配置。下部からは赤外線・紫外線をほぼ出さない高演色LED照明で作品を照らし上げる。
最大照度は約350lx、調光により作品ごとの制限照度に設定できる。

展示ケース内側:
鑑賞者の視線から隔離された位置関係で照明器具を配置。器具自体がコンパクトなLEDの特性が活かされている。
また上部照明はスライド機構により外側からランプ交換ができ、メンテナンス面での配慮がされている。

LED下部照明:
高演色タイプの白色と電球色を50mmピッチで交互に配置している。

Feu

1階入口から地下展示室に至る光のシークエンスを、照度ではなく明るさ感の連続性と変化で作り出し、自然に展示室に導いている。展示室も作品を照らす灯りをそのまま空間に活かせるように器具を開発。いずれもFeuの考え方を取り入れた建築と一体化した照明手法で充分な明るさ感を確保している。
LEDは優れた省エネ効果とともに、熱線・紫外線を出さないため、とくに展示ケース内で近距離からの照射にも美術作品に優しい光源として適所に配置。環境配慮と作品保護に大きな役割を果たしている。

納入商品

特注照明

シーンマネージャーG(調光システム)