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オフィスに潜む密を回避する方法。産業医が指摘するリスク

オフィスに潜む密を回避する方法。産業医が指摘するリスク

密回避が新型コロナウイルス感染リスクを抑える重要なポイントであることは周知の事実だ。しかし、毎日の何気ない行動パターンの中に、意外な落とし穴があることが分かってきた。オフィス空間も同様だ。産業医として多くのワークスペースを見てきたOHサポート株式会社代表の今井鉄平氏が、オフィスで密を生みやすい空間や、見過ごされやすい瞬間を解説する。

密回避の意外な落とし穴

企業にさまざまな産業保健サービスを提供するOHサポート株式会社代表であり産業医の今井鉄平氏は、オフィス空間において誰もが気を付けているはずの密状態について、思わぬ死角があると警鐘を鳴らす。

今井氏は、「新型コロナウイルス感染症の拡大により、密空間におけるさまざまな課題が浮き彫りになっています。広く知られているように、新型コロナウイルスは『接触感染』『飛沫感染』『マイクロ飛沫感染』によって感染します」と、改めて「3密」の危険度を次のように示す。

密集 一部屋に集まる人数が増えるほど危険
密接 距離が近いほど/声が大きくなるほど危険
密閉 屋内で換気が悪いほど危険

これを基に、オフィス空間における密回避としては、「レイアウトを変更、2m以上の身体的距離を確保する」といった対策が有効とされているものの、ここに死角があると指摘する。

「レイアウト変更で自席の密回避ができても、それ以外の場所、例えば打ち合わせスペースなどでは、どうしても“密”な状態が生じてしまいがちです。オフィスにおける密回避の意外な落とし穴は他にも、更衣室・休憩室・食堂・喫煙室・外国人実習生の寮などが挙げられます」

今井氏は、各エリアにおける課題と対策を以下のように整理して、注意を喚起する。

●更衣室における課題と対策
【課題】退勤時間に人が密集/換気設備が不完全/集団感染が発生しやすい
【対策】滞在時間の抑制/利用時間を分ける/会話を控える

●食堂・休憩室における課題と対策
【課題】昼食時に人が密集/マスクを外した会話が起こりやすい
【対策】席配置の工夫/利用時間を分ける/会話は食事後にマスクを着用した状態で行う

●喫煙室における課題と対策
【課題】休憩時に人が密集/マスクを外した会話が起こりやすい/接触感染も起こる
【対策】喫煙室の閉鎖/利用人数の制限/手指消毒・共用部消毒の徹底

●寮における課題と対策
【課題】複数人が同居するケースもある/密になりやすい環境がある/共用設備が多い
【対策】なるべく個室にする/集会などは避ける/共用設備の消毒を徹底

このように今井氏は、企業の管理部門やコロナ対策班に対し、上記のような課題の洗い出しと対策の実施を求めている。

企業が対策すべき「集団感染リスクの管理」

上記のような具体的な課題と対策が示された一方で、オフィスの集団感染リスクを高めかねない次のような意識にも注意を払うべきだと今井氏は言う。

「マスクさえ付けていれば、ソーシャルディスタンスは不要ではないか」
「反対に、ソーシャルディスタンスが確保できていればマスクは不要ではないか」
「換気をしていればソーシャルディスタンスが保てなくても大丈夫ではないか」

正解が見えにくい感染防止対策だからこそ、このような考え方が生じることはある程度やむを得ないとしながら、次のようなモデルを考え方の基礎に置くことが重要だと、今井氏は助言する。

「私はこうした質問に対し、安全管理・リスク管理の領域で広く用いられている『スイスチーズモデル』で説明しています。スイスチーズモデルでは、穴の空いたチーズの断面をリスク回避の「防御壁」に見立てます。穴の空き方が同じチーズが何枚も重なれば、事故要因は穴を簡単に貫通してしまいます。しかし、穴の空き方が異なっていれば、貫通のリスクは防げます。すなわち一つひとつの防御壁が完璧でなくとも、いくつもの対策を重ね合わせることによってリスクが低減できる、というものです。

皆さんの普段の生活を思い返してみてください。職場ではマスク着用が義務付けられているところも多いと思いますが、誰かと短時間でも会話したときマスクがあごに掛かってはいないでしょうか。他にもソーシャルディスタンスの重要性について十分に分かっていても、常に一定の距離を保っているのは簡単ではありません。

ただ、感染源というリスクを貫通させない防御壁が『マスク着用』『ソーシャルディスタンス』『従業員の症状チェック』『定期的な職場の換気』と何層にも重なれば、それぞれが完璧ではなくても安全性が向上します。これが重要なのです」

「感染者発生後の対処」には企業主体の仕組みが必要

今井氏は、「オフィスでの感染リスク管理」には、「防止」の側面以上に、万一感染者が出た場合の「対処」が重要とする。しかし、実際にオフィスで感染者が出たケースは多いものの、今井氏は「企業側が『1m以内・15分以上』の接触をした可能性のある濃厚接触者を把握する仕組みは不完全」と指摘する。

企業内に発生した濃厚接触者の追跡のためには「感染者がいた場所の座席表」「オフィス内の接触記録(ヒアリング)」などの施策が今も主流だが、「そうしたアナログな作業には大変な手間が伴う上、社員の記憶に依存する部分が大きいため、錯誤や漏れが発生しがち」であることを認識すべきと言う。

また、厚生労働省が提供する新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」が徐々に普及しているものの、「企業内での情報の共有や連携には向いていません。社員の行動をトレースするには企業主体の仕組みが必要であり、それがないと従業員の行動履歴の管理は難しい」と課題を挙げる。

まとめとして今井氏は、新型コロナウイルス感染防止や、感染者が出た場合の対処において属人的な対応には限界があり、テクノロジーの活用が欠かせないと締めくくった。

屋内位置情報システムとデータ活用による密回避

今井氏は新型コロナ感染症対策にテクノロジーの関与が欠かせないとしたが、実際にオフィスビルで密状態を避けるため、パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社では、オフィスビル内の混雑の把握など、既存のテクノロジーの活用で効果を上げる施策を提案している。その中核的技術と言えるのが、屋内位置情報ソリューション「POSITUS(ポジタス)」だ。

屋内位置情報ソリューションは、GPS(全地球測位システム)の信号が届かないオフィスや地下街で位置情報を測定できるテクノロジーだ。スマホの地図アプリやカーナビゲーションシステムに使われているGPSでは、屋外にいる対象者の居場所は正確に把握できるが、対象者が建物の中に入ってしまうと、建物のどの位置にいるのか捕捉できなくなってしまう。一方のPOSITUSでは、衛星電波の届かない屋内空間や地下空間にいても、屋内の天井などに設置されたスキャナが対象者の持つタグやビーコンをBluetoothで検知して位置を特定する仕組みだ。それによって誰が、何階の、どの場所にいるのかという位置データを取得でき、取得した屋内位置情報を他のアプリケーションと連携させれば、さまざまな感染リスクのヘッジが可能となる。

例えば、全社員の屋内位置情報が把握できれば、スマホアプリを通じて建物内の特定場所(食堂など)の密集度を、誰でも事前に確認可能になり、密状態を避けることができる。また、BIツール「Tableau(タブロー)」を併用すれば、屋内位置情報はエリアの滞在状況(使用率)、あるいはオフィスへの出勤状況(出勤率)が可視化・数値化でき、特定のエリアが密集状態にあるとき、管理者がユーザーのスマホに「密集警告アラート」を配信するといった情報発信も可能になる。さらにこのシステムでは、社員の屋内位置情報をログとして記録するため、仮に社員の中から感染者が発生した場合でも、出勤率・席の利用率・各エリアの利用率など履歴の把握から、即座に感染拡大防止措置を講じることができる。

また、こうした屋内位置情報システムとは別に、各種データの活用によっても混雑の把握が可能だ。例えば防犯対策に活用されている監視カメラシステムは、カメラの魚眼映像上の指定ラインを通過した不特定多数を対象に、人の動き・動線(通過量の多い場所)や滞留・滞在時間(平均滞留時間が長い場所)などをヒートマップとして可視化、混雑状態の把握・抑制のみならず、感染者発生時にも直ちに情報提供が可能だ。

他にも「入退出管理システム」(eX-SG)は、入退室管理ゲートや顔認証システムと連動して入退出者のID管理を行う統合型セキュリティシステムであり、入退出履歴データが密回避にも活用できる。

先述のBIツール「Tableau」は、屋内位置情報システムのみならず、監視カメラシステムや入退出管理システムとも連携が可能であり、3つのシステムで取得したそれぞれのデータを活用すれば、感染者発生時の濃厚接触者のトレースも可能となる。

プロジェクターとロボットによる密回避施策の提案

一方、視点を変えて、照明によるサインやロボットを活用した密回避の方法もある。

Space Playerは、既存の照明レールや配線ダクトなどに簡単に設置できるスポットライト型プロジェクターとして、ロゴマッピングなどの空間演出に活用されているが、床面に投影して一定距離を保つよう促したり、壁面に投影してマスク着用や対面での会話回避の注意喚起を行ったりするなど、光と映像による注意喚起・空間誘導で密回避の徹底が図れる。

また、ロボティクス技術によって労働力不足を補う業務用の次世代ロボット掃除機「RULO Pro」は、4種のセンサーと独自の自律走行制御が実装されており、オフィスビルの清掃作業などの人的リソースを削減、空間における人の密度を下げ、接触防止に寄与することが期待できる。

突然の対応を迫られた新型コロナウイルス感染症対策だが、このように既存のテクノロジーの組み合わせによって密状態を回避、リスクの低減によって安全なオフィス空間を実現することができるだろう。

今井 鉄平氏

今井 鉄平氏

OH サポート株式会社 代表

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