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空間の明るさ感に関連した既往研究では、空間の明るさ感と相関の高い物理的な量の提案はしているものの、空間の明るさ感を数値で表現する定量化法の開発までには至っていないものが多かったのです。すなわち、各研究で提案されている輝度分布から算出される物理的な量を上げることにより、空間の明るさ感を高めることは明らかにされてきたのですが、その明るさ感の増加の程度を、照度や輝度などのような物理的な値で表現することはできなかったのです。
実際の照明設計での活用を考えますと、照度や輝度と同様、物理的な値での定量化が不可欠なのです。そこで注目したのが、立命館大学の篠田博之教授の研究室で開発された色モード境界輝度法による空間の明るさ感評価法4)であります。
ここで、色モード境界法による空間の明るさ感評価法の概要を述べたいと思います。図2に示す明るさ感の高い空間A(図2左)と低い空間B(図2右)の中央部の位置のそれぞれに、輝度を自由に変えられる視対象(以下、パッチと呼ぶことにします)を配置します。この時、図2に示すように、パッチの輝度を同じにしても、人間の目には、明るい空間Aではパッチが暗く見え、逆に暗い空間Bでは明るく見える現象が生じます。すなわち、パッチの見え方は空間全体の明るさの影響を受けることを図2は示しているのです。さらに、このパッチの輝度を高めていくと、物体のように見えていた(物体色モード)パッチが、発光しているような見え方(光源色モード)に変化する現象を観察することができます。これは視覚心理物理学の分野で「色の見え方のモード変化」と呼ばれています。
この現象を利用して、空間A・Bに配置されたパッチの輝度を上げながら、見え方が物体色モードから光源色モードに変化する境界の輝度(これを色モード境界輝度と呼ぶ)を測定してみます。その結果は、明るい空間Aでは色モード境界輝度は高く、暗い空間Bでは低くなるという結果になります。すなわち、空間の明るさ感と色モード境界輝度は高い相関関係にあるのです。この色モード境界輝度で「空間の明るさ感」を評価する方法が、色モード境界輝度法による空間の明るさ感評価方法です。すなわち、「空間の明るさ感」を「色モード境界輝度」という輝度の絶対値に置き換えることで、空間の明るさ感を輝度と同様に定量的に扱えるようにしたことが、色モード境界輝度法の最大の特徴なのです。