照明設計の手順
照明設計とは
照明設計とは、分野を問わずその施設の使用目的、立地条件などに応じて、そこで人が行う活動を、安全・快適に行えるような照明要件を備える光環境を、合理的・経済的な手段で実現する計画及び過程を言います1)。以下に、照明設計の手順の事例を示します。
照明設計の手順
1.所要照度の決定
部屋の規模・内装の状態、作業の内容を把握します。
2.照明方法の決定
JIS Z 9110照明基準総則の推奨値を参考に、設計照度、平均演色評価数、不快グレアの程度などを決定します。
JISには、以下のことが述べられています2)。
- (1)推奨照度値は、作業領域又は活動領域に対するものを、推奨範囲の中央値で規定しています。1つの分野に1つの照度という意味ではなく、選択を容易にする観点からです。また、照度均斉度も、作業領域又は活動領域に対する値で規定しています。
- (2)もし、視覚条件が通常と異なる場合には、設計照度の値は、推奨照度の値から、照度段階で少なくとも1段階.上下させて設定できます。なお、照度段階は、照度の違いを感覚的に認識できる最小の照度の差異を、ほぼ1.5倍間隔として規定しました。
- (3)屋内照明施設に対する不快グレアの評価は、屋内統一グレア評価方法(UGR)に基づいて、屋外照明施設に対する不快グレアは、屋外グレア評価方法(GR)に基づいて規定しています。
【設計照度について】
-
1)
この規格で規定する推奨照度は維持照度です。例えば、これまでは事務所は300~750 lxと範囲指定でしたが、具体的にどの値を採用するか分かりにくかったのですが、これからは、事務所は、単一値の750 lxが推奨されています。
これには、「視覚条件が通常と異なる場合には、設計照度の値は、推奨照度の値から、照度段階で少なくとも1段階上下させて設定できる」ことで対応しています。この「1段階」という本文中の表現を具体的に表す、推奨照度と設計照度の範囲(追補2011)を、表1に示します3)。
-
2)
照度均斉度
JISで推奨されているのは、「ある面の視作業領域」の照明要件です。雰囲気を重視する場所以外では、照度の変化は緩やかでなければなりません。
照度均斉度は、作業領域、又は活動領域における平均照度に対する最小照度の比とされています。
作業領域は、設計者が依頼主と協議して決めます。JISの推奨表では照度均斉度の最小値を示しています。照度均斉度は、この値未満としてはいけません。
-
3)
これらの内容は、JIS基準の本文に記載されています。これからは、JISの推奨表のみでなく、大切な内容が記載されている本文も熟読してください。
表1:推奨照度別の設計照度範囲3)
推奨照度(lx) | 照度範囲(lx) |
---|---|
3 | 2~5 |
5 | 3~7 |
10 | 7~15 |
15 | 10~20 |
20 | 15~30 |
30 | 20~50 |
50 | 30~75 |
75 | 50~100 |
100 | 75~150 |
150 | 100~200 |
200 | 150~300 |
300 | 200~500 |
500 | 300~750 |
750 | 500~1000 |
1000 | 750~1500 |
1500 | 1000~2000 |
2000 | 1500~3000 |
3000 | 2000~5000 |
【明るさ感について】
視作業域が水平面のみの場合はまれです。視作業には、空間の情報を得るため鉛直面であることが多いといえます。
このような場合は、壁面の照度を考慮したり、明るさ感尺度Feuを活用したりすることを検討してください。それによって、より省エネルギーが図れます。
詳しくは、【Feu】の解説をご覧ください。
3.照明方法の選定
JIS基準には、具体的な照明手法は記載されていません。従って、部屋全体を照明範囲とするなら全般照明方式がふさわしいでしょう。もし、作業範囲が特定できるなら、タスク・アンビエント照明の検討が可能です。
4.光源の選定
蛍光ランプ
効率が高く、まぶしさ・発生熱が少ない最も一般的なランプで、オフィス・工場・店舗・住宅などに適しています。
Hf蛍光ランプ
高周波点灯専用の蛍光ランプ。専用器具で使用することにより、従来の蛍光ランプより高効率で点灯し、消費電力を大幅に削減できます。
コンパクト形蛍光ランプ
コンパクトな専用ランプとインバータ点灯回路を一体化し、電球と同じ口金をつけた蛍光灯。一般電球に比べ、高効率、長寿命で、光色も豊富に揃っています。
セラミック・メタルハライドランプ
セラミック発光管採用のコンパクトなHIDランプです。点灯時の色シフトが少なく高効率・高演色で光色のばらつきを低減。長寿命でランプ交換の手間が少なくなります。UVカットガラスの採用により、紫外放射を大幅にカット。展示商品等の変色・色あせを抑制します。
メタルハライドランプ
効率が高く、演色性も蛍光灯の白色よりも良く、色の見え方が重視される高天井のオフィスや玄関ホール・体育館・工場・グラウンドなどに適しています。
高演色形メタルハライドランプ
メタルハライドランプを小型にし、演色性もさらに良くしたランプで、店舗などに適しています。高Wタイプはスポーツ施設にも使用されます。
高演色形高圧ナトリウムランプ
白熱電球に似た暖かみのある光色を放つランプで、白熱電球と比べて効率は約3倍、寿命は約9倍と高効率で長寿命なので、白熱電球の代替として高天井の玄関ホールや店舗などに適しており、省電力化が図れます。
高圧ナトリウムランプ
最も効率の高い経済的なランプなので、演色性をあまり重視しない高天井の工場やグラウンド・広場・道路などに適しています。
演色改善形高圧ナトリウムランプ
効率を高く維持しながら、演色性の改善を図った高圧ナトリウムランプで工場などに適しています。
水銀ランプ
高天井の工場や体育館には、一般的に蛍光灯よりも経済的になります。
白熱電球
暖かい雰囲気や集光性の光がほしい場合、また局部的に明るくしたい場合や照明器具を小さくまとめたい場合に適しています。
LED
省エネ・省資源時代に適した光源です。点光源、面光源のいずれも対応ができます。発光面からの赤外線や紫外線が少ないので、変退色が少ないといえます。白色、色光を選ぶことができ、応答時間が短いので演出にも適します。
5.照明器具の選定
照明方式、光源の種類に応じて、照度、設備費を考慮して選定します。
6.所要灯数の計算
2・4・5によって決めた照明器具を用いて、1の所要照度を得るために必要な灯数を計算します。計算の方法については、平均照度の計算法を参照してください。
7.照明器具の配置の決定
前記6によって求めた灯数を、柱、梁などを考慮して配置します。全般照明の場合は、照明器具の取り付け間隔(S)は等間隔とし、壁際の照明器具と壁との間隔は、
あるいはそれ以下とします。(右図参照)
この場合、一般に計算した所要灯数と配置した灯数とは完全には一致しませんので、実際に配置する灯数で平均照度を計算し、これを設計照度とします。
8.照度分布の検討
照明器具の間隔が広すぎると、器具と器具との中間で照度が低くなり、照度分布が悪くなります。照度分布を均一にするためには、器具間隔の最大限(配光特性資料の解説参照)以下になるようにします。器具間隔が広すぎる場合は、照明器具1台当たりのワット数を減らし、器具台数を増やして、器具間隔が狭くなるようにします。
9.グレアの検討
部屋の用途、作業の種類により、どの程度のまぶしさまで許容するか、すなわち、グレアの評価指数(UGR)をどの程度にするか設定します。
「グレアの評価」を参照してください。
10.省エネルギー
節電、省エネルギーの効果を検証するために、照明設備の電力を計画的に計測できるような配慮をしてください。
11.検証
照度や平均演色評価数、不快グレアの状態を確認してください。また、照明器具や光源の保守の計画をしてください。
省エネルギー計画を実践するために、省エネルギー対策案を検討した結果としての照明設備の電力を検証してください。
(参考文献)
- 1)照明学会:照明ハンドブック(第2版)(2003).
- 2)日本規格協会:JIS Z9110-2010 照明基準総則(2010).
- 3)日本規格協会:JIS Z9110-2010 照明基準総則(追補1)(2011)