近年「健康経営」というキーワードが注目されるようになり、具体的な取り組みとしてオフィス環境の整備・改善に着手するケースが増えています。本記事では、健康経営とは何かについて解説するとともに、オフィス移転や改装時の環境整備において重要なポイントや取り組みの例などを紹介します。
1. 健康経営とは?
まず、「健康経営」とはどのようなものなのでしょうか。
経済産業省は以下のように説明しています。
「従業員の健康保持・増進の取組みが、将来的に収益性等を高める投資であるという考えの下、従業員の健康管理を経営的な視点から考えて、戦略的に取り組むこと」
出典:経済産業省「健康経営オフィスレポート」
kenkokeieioffice_report.pdf (meti.go.jp)
少子高齢化が進むなか、日本における生産年齢人口は減少を続けています。そんななか、自社で働いてくれる社員が健康を損ない働けなくなってしまえば、企業の存続や成長にまで影響がおよぶことでしょう。
かつては自分の健康管理も仕事のうち…と言われていましたが、経済産業省は「従業員の健康づくりは、企業の存続と成長のための投資です」とも説明しています。
社員ひとりひとりが健康で、能力を存分発揮して働ける取り組みである「健康経営」は、企業価値や業績の向上にもつながる非常に重要な取り組みなのです。
健康経営とESG経営はどう違う?
健康経営と同じく注目されているキーワードに「ESG経営」がありますが、実は両者には似た部分があります。
ESGとは、「環境(Environment)」「社会(Social))」「ガバナンス(Governance)」の頭文字を取ったもの。ESG経営とは、目先の利益だけを追求するのではなく、環境へ配慮し、人権問題や労働環境への適切な対応を行い、公正な経営を行うことが、企業の中長期的な成長につながるという取り組みです。
ESG経営も健康経営も、中長期的な視点のもとに、環境や社会、人を尊重することで企業の成長を図るものと言えるでしょう。
2. オフィス環境の整備・改善によって企業が得られるメリット
健康経営の実現にとって大きな役割を持つのが「オフィス」です。経済産業省の「健康経営オフィスレポート」でも、その重要性が説明されています。
企業の健康経営の実現のためには、オフィス環境の整備は重要な取り組みの一つです。オフィスは従業員が日々、多くの時間を過ごす場所であり、そこでの働き方が従業員の健康に及ぼす影響は少なくありません。企業は従業員の余暇活動の支援を行うだけでなく、オフィス環境を整備し健康的な働き方を促進させることによって、より大きな投資効果を期待することができます。
出典:経済産業省「健康経営オフィスレポート」
kenkokeieioffice_report.pdf (meti.go.jp)
ではオフィス環境を整備することで期待できるメリットには、どんなものがあるのでしょうか。
社員のWell-Beingの実現
Well-Being(ウェルビーイング)とは、身体的・精神的・社会的に幸福を感じ、満たされた状態のことを指します。慶應義塾大学大学院・前野隆司教授の研究によると、幸福度の高い社員はそうでない社員に比べて、生産性が1.3倍、創造性が31%も高く、エンゲージメントやモチベーションも向上するといった結果も出ています。
出典:お役立ち資料「社員の幸福度を高めるワークプレイスをどう作るか?」
欠勤・休職・離職の減少
仕事が辛い・楽しくないと感じていると徐々にストレスが蓄積され、それが欠勤の増加や休職・退職につながるリスクもあります。オフィス環境の改善によって働きやすい環境が整備されれば、仕事におけるストレスが軽減され、欠勤・休職・離職を抑制できる可能性も高まります。
生産性向上
働きやすいオフィス環境へと改善できれば、従業員が仕事に集中できるようになり業務の効率化につながります。これにより、企業や組織全体の生産性も向上していくと期待できます。
企業イメージの向上
オフィス環境が改善されると社内の雰囲気も変わり、前向きに仕事に取り組める従業員も増えていきます。従業員ひとりひとりがいきいきと仕事に取り組むことで、取引先や求職者から見た企業イメージが向上するといったメリットも得られるでしょう。
3. 健康に配慮したオフィスが経営・業績に与える効果
健康的なオフィスを設計することは、経営コンサルタントなどさまざまなプロの目線から見てもメリットや効果があるとされています。
カルダー・コンサルタンツ・ジャパン 奥氏の分析によると、グローバルな空間評価基準であるWELL認証の要件を満たすオフィス空間を整備できれば、従業員のウェルビーイングが年々向上。その結果、2年目の途中段階で初期投資分を回収できるほどの生産性向上が見込めると紹介しています。
出典:お役立ち資料「WELL認証はESG経営にどうつながる?」
さらに、従業員満足度が向上することで心身ともに健康で長く働き続けられ、企業にとっても従業員にとってもお互いがメリットを生む好循環を実現できるでしょう。このように、オフィス空間への投資は経営・業績へのリターン期待できます。
4. 健康経営を実現するオフィスはどうつくる?
オフィス環境改善で考慮すべき10のポイント
オフィス移転や改修を機に、 社員が働きやすいオフィスを作りたいけれど、具体的にどんなことをすればよいのかわからないとお悩みの方も多いことでしょう。ここからは、「WELL認証」の考え方に基づいて、心身ともに健康的に働ける空間の作り方を紹介していきます。
WELL認証とは?解説はこちら
WELL認証では、以下の10の項目で環境を評価します。
- 空気
- 水
- 音
- 光
- 材料・素材
- 熱快適性
- 食物
- 運動
- コミュニティ
- こころ
たとえば「空気」。感染症の蔓延をきっかけに、室内の換気が求められるようになりました。新鮮な空気を定期的に取り入れることはもちろんですが、空気の状態をモニタリングする仕組みや、自然風に近い気流空間の設計などもオフィスづくりにおいて重要なポイントです。
次に「音」です。オフィスの雑音や騒音は、仕事への集中を妨げ生産性低下を招くもの。人は集中状態を邪魔されると、元の状態に戻るには23分かかるという研究結果もあります。オフィスの設計にあたっては、防音・吸音型の設備を整えたり、鳥や川などの心地よい自然音を流したりすることで生産性を高められます。
「運動」面では、デスクワークが中心の職種では運動不足に陥りがち。座っている時間が1日4時間未満の人と比較すると、11時間以上座っている人の死亡リスクはなんと約40%も増加することが分かっています。
オフィス内の動線を検討して移動を促進する、運動量を可視化するウェアラブルデバイスを貸与する、リフレッシュスペースに運動器具を設置するといった取り組みがおすすめです。
こちらのebookでは、このように、10の項目についてファクトとともにオフィスへ取り入れるポイントを詳しく説明しています。
WORKPLACE FOR WELL-BEING
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ウェルビーイングな働き方/オフィスとは?
オフィス環境改善を検討するための7つのステップ
オフィス環境の構築・改善に向けては、一足飛びに効果を得ようとするのではなく、自社にとってWell-Beingな働き方とはなにか、中長期的にどのように取り組んでいくか等を考えてから取り組むことが重要です。
パナソニックでは、以下の7つのステップで自社オフィスの環境改善を実施しました。
オフィス環境の改善に向けた7ステップ
STEP 1)ビジョニング
はじめに、どういったオフィス環境を構築したいのか、具体的なビジョンを策定します。
どういった働き方が理想なのか、例えば「部署やチームを問わず、社内のあらゆる従業員同士の交流が生まれるような働き方」というのもビジョニングの具体例です。
STEP 2)現状把握
ビジョンとして掲げたオフィス環境を実現するために、何が課題となっているのか、現在の働き方を振り返りながら現状を把握します。全部門・部署の代表者に参加してもらい、グループワークを実施するなどの方法も検討しましょう。
STEP 3)方針の決定
現状把握によって解決すべき課題や取り組む方向性が見えてきたら、オフィス環境の改善に向けた方針を策定します。
STEP 4)オフィスの要件や仕様を具体化
大まかな方針が決定したら、さらに細かくオフィスの要件や仕様として具体化していきます。
STEP 5)運用方法を工夫
Well-Beingを実現できるオフィス環境を定着させるためには、運用方法を工夫していくことも重要です。
例えば、経営層と管理職の間でオフィス運用の意図と認識を合わせておき、従業員同士でルールを合意する「チェンジ・マネジメントプログラム」もひとつの方法です。これにより、経営者のトップダウンではなく、従業員全員の手によって理想的なオフィスを作り上げることができます。
STEP 6)WELL認証の取得もおすすめ
本記事前半でも紹介したWELL認証を取得することも検討してみましょう。
国際的な認証プログラムであるWELL認証を取得することで、オフィス内の感染症対策やBCP、レジリエンスにも有効であり、災害発生時に備えた計画を立てておくことで万が一の際にも適切な対応がとれるようになります。
STEP 7)継続的にアップデート
オフィス環境を一通り整備できたからといって終わりではなく、その後も継続的にアップデートしていくことが重要です。
動画で解説
5. オフィス環境の整備にはパナソニックの「WELL認証取得支援サービス」がおすすめ
従業員満足度を高め生産性を高めたい、ESG経営の一環としてオフィス環境を整備したいと考えている企業にとって、WELL認証の取得は有効な手段のひとつです。しかし、WELL認証は国際的な空間評価システムであり、評価項目に対してどういった対策を講じれば良いのか分からないという企業も少なくありません。
パナソニックでは、できるだけ早期に最小限のコストでWELL認証を取得したいという企業に対して「WELL認証取得支援サービス」を提供しています。
WELL認証の取得をサポートする専⾨資格である「WELL AP(WELL Accredited Professional)」を持つスタッフが、申請手続きから取得後のフォローまで万全にバックアップし、迅速かつ効率的な申請を万全の体制でサポートします。
WELL認証を詳しく知りたい人はこちらの資料をダウンロード
オフィスは1日の大半を過ごす空間でもあるため、オフィス環境を整備することは従業員の健康維持にも直結する重要な取り組みです。働きやすいオフィスと一口にいってもさまざまな定義や基準がありますが、国際的な認証であるWELL認証を取得することで、ESG経営にも貢献できるでしょう。
オフィス移転や改装を考えている方は、健康経営実現のために、ぜひこの機会にWELL認証の取得を検討してみてはいかがでしょうか。