監修者金 英範(KIM HIDENORI)
ワーク・ライフ・バランスに配慮した企業では従業員エンゲージメントが高く、離職を防ぐとともに企業価値を高めていることが明らかになっています。コロナ禍でテレワークを導入する企業が増え、新たな働き方を経験した人の意識に変化をもたらしました。
社会的・経済的環境が変化し、ライフスタイルも多様化するなか、働く人が能力を発揮し、生き生きとした生活を送るためには、仕事とそれ以外のさまざまなことのバランス、調和を図りながら働ける組織、社会が必要です。
そもそもワーク・ライフ・バランスとは、どのようなことでしょうか。本記事ではワーク・ライフ・バランスに関する定義やメリット、実現に向けた施策について解説した上で、ワーク・ライフ・バランスの新たな考え方や推進方法を紹介します。
ワーク・ライフ・バランスとは
このテーマでは、ワーク・ライフ・バランスの定義やよくある誤解、歴史や社会的な役割について説明します。
ワーク・ライフ・バランスの定義
ワーク・ライフ・バランスの概念は理解しにくく、定義もさまざまなものが存在します。「仕事と生活の調和憲章」では、ワーク・ライフ・バランスが実現した社会の姿を次のように記載しています。
「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」
ワーク・ライフ・バランスとは、個人が仕事上の責任を果たすだけでなく、キャリア形成、リスキリング、結婚や育児、介護、地域活動への参加など、それぞれの背景や生活環境、ライフステージに応じた希望を実現できるようにすることだと捉えることができます。
「仕事と生活の調和憲章」とは
日本には長時間労働など、仕事と生活が両立しにくい問題がありました。こうした状況では結婚や子育てがしにくく、それが少子化の大きな要因になっています。また、生産年齢人口が減少する状況では、女性や高齢者などの多様な人材が経済活動に参加し、能力を発揮する必要があります。
近年、国民一人ひとりの仕事と私生活のバランスに関する希望が実現しやすい環境を整え、社会を持続可能なものにする施策が急務でした。そこで、2007年に政策検討が行われ、ラーク・ライフ・バランスの実現に向けた提言がなされました。
その提言を受け、「仕事と生活の調和推進官民トップ会議」が発足し、各作業部会で検討を重ねました。そして、2007年12月に策定されたのが「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(以下、「憲章」)と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(以下、「行動指針」)です。
「憲章」には、仕事と生活の調和を推進するための大きな方向性が示されています。また、「行動指針」には、企業や働く人の効果的な取り組みと国や地方公共団体の施策の方向性が提示されています。
<参考>
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)総括文書―2007-2020―」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/07-20/h_pdf/zentai.pdf
働き方の見直しや環境整備に関わる判断は、それまで個々の企業の取り組みに任されていましたが、「憲章」や「行動指針」の策定は社会全体を動かす大きな契機になりました。実際に、ワーク・ライフ・バランスの概念が発信され、働き方改革のさまざまな動きへと発展しました。
ただ、「行動指針」に示されている指標のすべてが達成されたわけではありません。2021年に発表された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)総括文書―2007-2020―」(以後、「総括文書」)によると、達成された、あるいはほぼ達成された指標は以下の3点のみです。
- 週労働時間60時間以上の雇用者の割合
- 3歳未満児の保育所等利用児童数
- 20~64歳男女、20~34歳男女、25~44歳女性、60~64歳男女の就業率
一方、未達成の指標は10点に上ることから、日本のワーク・ライフ・バランスに向けた取り組みは途中段階といえます。
ワーク・ライフ・バランスでよくある誤解
ワーク・ライフ・バランスは「ワーク」が先頭にきていること、「バランス」という言葉のイメージから誤解を生みやすい現実があります。
仕事と生活を天秤にかけるものではない
よくある誤解は、天秤のように仕事と生活の両方が同じ重さでなければならないという解釈をしてしまうことです。しかし、仕事と生活の丁度いいバランスは人によってさまざまです。
また、ワーク・ライフ・バランスは仕事と生活の比重を常に一定に保つものではありません。ライフステージによって仕事に重点を置く時期もあれば、生活に重点を置く時期があるように、その時々で調整しバランスを図るものです。
犠牲を伴うものではない
これまでは仕事のためにそれ以外を犠牲にする、あるいは仕事以外のことのために仕事を犠牲にするといった働き方や生き方を強いられるような社会環境がありました。しかし、ワーク・ライフ・バランスはそうした犠牲を伴うものではありません。どちらかを犠牲にして無理やり均等なバランスを図るのではなく、どちらも犠牲にせず、その時々で丁度いいバランスを個々が社会的な理解を得ながら調整することが基本です。
ワーク・ライフ・バランスの歴史
1980年代後半、世界の国々に先駆けてワーク・ライフ・バランスの取り組みを始めたのはアメリカの企業だといわれています。はじめはワーキング・マザーが仕事と家庭責任とを両立させること、特に育児を支援する施策でした。
次第に介護支援や従業員の私的な悩み、健康のためのフィットネスセンター、生涯学習などに施策の幅が広がり、ワーキング・マザーだけでなく、従業員一般の仕事と私生活との両立を目指すものへと変化していきました。
日本では、1985年に男女雇用機会均等法が制定され、働く人の意識に変化が見られるようになりました。1990年代には共働き世帯数が男性片働き世帯数を上回り、2000年代も増加する一方で、女性が大きな家庭責任を担うケースが多く存在していました。
結婚・出産の際に仕事を続けたくても、あるいは働き方を柔軟に変えたくても、就業継続や希望する形での再就職が難しい状況が生じ、それが少子化を進行させた要因となりました。人手不足が深刻化しつつあるため、その解決が急務となり、2007年の「憲章」策定へとつながりました。
ワーク・ライフ・バランスの社会的な役割
ワーク・ライフ・バランスは人間の生活を有償労働とそれ以外の私生活に分け、個人が丁度いいバランスで両立できる状態を指しています。ただ、それは個人の問題だけにとどまりません。
社会を見渡せば過労死、少子化、男女間の不平等など、さまざまな社会現象と密接に関わる問題です。一人ひとりが希望する働き方で健康に生き生きと生活をすることが、そうした問題を解決に導き、持続可能な社会の構築につながります。
<参考>
「仕事と生活の調和とは(定義)」(内閣府「仕事と生活の調和」推進サイト))
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/towa/definition.html
「仕事と生活の調和(ワークライフ・バランス)憲章」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html
「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/indicator.html
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)総括文書-2007-2020-」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/07-20/h_pdf/zentai.pdf
「ワーク・ライフ・バランス実現への課題」(独立行政法人経済産業研究所)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rd/067.html
「平成17年度少子化社会対策に関する先進的取組事例研究報告書>第4章欧米諸国におけるワーク・ライフ・バランスへの取組」(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/cyousa17/sensin/hokoku41.html
ワーク・ライフ・バランスに取り組むメリット
ワーク・ライフ・バランスに取り組むことは、どのようなメリットをもたらすのでしょうか。このテーマでは、企業と社員とそれぞれの視点でメリットを紹介します。
企業にとってのメリット
2023年に、内閣府男女共同参画局は多様で柔軟な働き方推進に向けて顕著な取り組みをしている企業10社にヒアリング調査を行いました。その結果から、ワーク・ライフ・バランスに配慮した取り組みが企業にさまざまなメリットをもたらしていることがわかりました。
人材の確保・定着
「離職率減少/従業員満足度向上」については、すべての企業から効果があったと回答がありました。柔軟な働き方が人材確保や定着に寄与していることが見て取れます。
- 「柔軟な働き方ができる制度があるので仕事を辞めずに続けられた」という声が聞かれる企業では、離職率が1%台で推移している
- 従業員の意識調査で「当社で働き続けたいと考えている」が67%に上った
- 新卒採用の書類選考応募数が年平均で約4割増加した
- 社外副業ができることに魅力を感じて入社してくる人が多い
- 副業をしたいからエントリーしたという求職者がいる
生産性向上
「業務効率化/総労働時間の減少」に効果があったと回答した企業は10社中9社に上ります。
- 2021年度の総労働時間を2016年比で11.2%削減した
- スーパーフレックス制度を導入した翌年、前年度と比べて残業時間は8%減少し、1人当たり売上高は6%増えた
- 働きやすい環境で地方の優秀なプログラマーを獲得できていることが生産性向上に寄与している
また、2023年に日本生産性本部が行った「テレワークに関する意識調査」でも、テレワーカーの36.6%、管理職の37.9%がテレワークによって、自身の仕事効率が「より上がった」と回答しています。
コスト低減
コスト低減については、企業が次のように答えています。
- 交通費(ガソリン代含む)がコロナ禍前に比べて3~4割削減できた
- 離職者が減ることで採用コストが削減され、休暇の取得が増えることで残業代も減少した
- 全国のシェアオフィスを活用する一方で、2021年に本社の専用オフィスを移転させ、余分な固定スペースをなくした
企業価値のアップ
ヒアリング調査の回答から、ワーク・ライフ・バランスの取り組みは従業員満足度を向上させ、柔軟な働き方ができる制度が雇用状況を改善するとともに離職を防ぐことがわかりました。
このようにさまざまな働き方の選択肢があることは個人の意欲や能力を高めます。そして、その結果、生産力をアップさせ組織の成果を向上させるという相乗効果を生み出し、企業価値の向上につながります。
従業員にとってのメリット
次に従業員にとってのメリットは、多様な働き方からその時々で最適な方法を柔軟に選択可能であるということ自体に尽きます。ただ、そこから副次的に産まれるメリットもあります。
モチベーションアップと成長
2023年に行った内閣府男女共同参画局の「ヒアリング調査」の結果を企業ごとにまとめた「多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取り組み事例集」には、次のような記述があります。
- 社員の自発的な貢献意欲を表す社員エンゲージメントは標準的な水準を上回り、年々向上している
- 従業員の働きがい調査では、社員の評価は5段階評価の3.5前後で推移している
- 社外チャレンジは自身がやりたいことをやっているので、本人の充実感が大きく、社内でも活躍するなど、個人の成長に寄与している
こうした働く環境が社員のモチベーションアップや成長につながります。
生活活動の充実
経済産業省の「令和4年度 テレワーク人口実態調査」によると、テレワークを実施する意向を持つ従業員に、テレワークをきっかけにやりたいことを尋ねたところ、もっとも割合が高かったのは副業・兼業でした。それ以外にも、家庭事情への対応、ワーケーション、個人の事情への対応の実施意向も高い傾向が見られました。
ワーク・ライフ・バランスを実現することによって、一人ひとりの事情や意志に応じた活動に充てる時間が持てるのは、社員にとって大きな魅力です。
<参考>
「仕事と生活の調和推進のための調査研究
~多様で柔軟な働き方推進に向けた 企業の取組に関する調査~
報告書」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_r0503/1.pdf
「多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取組事例集」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_r0503/2.pdf
「テレワークに関する意識調査 結果概要
テレワーカー対象の調査・管理職対象の調査」(公益財団法人
日本生産本部)
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/appendix01_tele-work_report.pdf
「令和4年度 テレワーク人口実態調査
-調査結果(概要)-」(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001598357.pdf
ワーク・ライフ・バランスを実現するための取り組み
ワーク・ライフ・バランスを実現するためには、さまざまな取り組みがあります。2023年に行った内閣府男女共同参画局の「ヒアリング調査」では次の項目を挙げています。
- 転勤制度の廃止・縮小
- 場所にとらわれない働き方
- 退職者の就業継続支援
- 休日・休暇制度の柔軟化
- 社内外の副業・兼業
また、日本生産性本部の「意識調査」によると、テレワーク以外で利用している働き方制度と割合は以下のグラフのようになっています。
<参考>
「テレワークに関する意識調査 結果概要
テレワーカー対象の調査・管理職対象の調査」(公益財団法人
日本生産本部)
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/appendix01_tele-work_report.pdf
「仕事と生活の調和推進のための調査研究
~多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取組に関する調査~
報告書」(内閣府)
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_r0503/1.pdf
新しいワーク・ライフ・バランスの考え方
近年、ワーク・ライフ・バランスをめぐる状況に変化が生じ、それを企業で推進する総務にも転換期が訪れています。そうした状況を戦略総務の専門家・金英範氏の意見を交えて解説します。
現状の課題
まず、ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、総務視点から現状は3つの課題を抱えていると、金氏は語っています。
総務の守備範囲が広がったことを認識できていない
最近まで総務の舞台はオフィスが定番でした。ところが、2015年頃からテクノロジーの進化とともにリモートワーカーやハイブリッドワーカーが増え、社員に対してオフィス外でのケアが必要な状況が出現しました。とはいえ、まだ総務の仕事の大部分はオフィス内に意識が向いていました。
しかし、コロナ禍がそうした状況を変化させました。現在、社員の働く場所は自社のオフィスに限りません。在宅ワーク、シェアオフィス、サテライトオフィス、またはワーケーションも選択肢の1つとなり、ライフとワークの境界線がなくなってきています。本来なら総務の仕事に変化をもたらしますが、企業も個人もまだ意識変革が追いついていない状況があるのではないかと、金氏は指摘します。
総務が施策実行のため、企業に予算確保の提案ができてない
ワーク・ライフ・バランスを実現するためには予算が必要です。これまで総務は原資を生むというより、予算を使う立場でした。しかし、コロナ禍を契機にテレワークを導入する企業が多く、労働環境は大きく変化しています。
<参考>
「テレワークに関する意識調査 結果概要
テレワーカー対象の調査・管理職対象の調査」(公益財団法人
日本生産本部)
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/appendix01_tele-work_report.pdf
以下は、日本生産本部による「テレワークに関する意識調査」の結果で、テレワーカーの直近1週間の勤務日数を表しています。このグラフを見ると、テレワーカーの直近1週間の勤務日数でもっとも割合が高いのは、1~2日で33,3%、次いで3~4日で27.0%、これらを合計すると約6割になり、テレワークを導入している企業ではハイブリッド型が主流であることがいえます。
こうした状況を分析すると、現在はコロナ禍以前に比べてファシリティコストが低減していることがわかります。1つの考え方として、総務部門はそれを原資に「ワーク・ライフ・バランスをより推進する」という方向性を提案できる立場ですが、まだそうした認識を持つに至っていないのが現実ではないかと、金氏は主張します。ちなみにファシリティコストとは、簡単に説明すると本社オフィスの運用など「場所」にかかるコストのことです。
総務が社員の働き方や会社のフェーズに応じたペルソナを想像できていない
ここまで紹介したように、ワーク・ライフ・バランスの形は個人によって異なります。また、企業の成長段階によっても推進の仕方が違うため、一律に進められるものではありません。自社が現在どのフェーズにあり、社員のワーク・ライフ・バランスをどうしたらいいのか。現実は、自社独自の戦略がまだ描けていない総務部門が多いのではないでしょうか。
新しいワーク・ライフ・バランスを推進する上での取り組み
新しいワーク・ライフ・バランスを推進する上で、総務は具体的にどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか。戦略総務の専門家・金英範氏の意見を交えて紹介します。
社員の働き方をマーケティングする
企業の経営陣や他部署との連携を通じてワーク・ライフ・バランスを実現させるためには、マーケティングが必要だと、金氏は説きます。その理由を「総務の役割が社員の幸せを支援することだから」といいます。
顧客によりよいサービスを提供するためにマーケティングが必須であるように、総務部門も社員を対象にしたマーケティングが必要不可欠です。そこで、その具体的な手法を説明します。
社員を類型化し、ペルソナをつくる
ビジネス・パーソンにとって、顧客のペルソナを設定するのは常套手段です。それと同じように、総務部門が社員のペルソナを設定することは大切なことです。その際、部門で分類するのではなく、働き方で分けるのが基本です。
ペルソナの数は4~6つ設ければ8割程度の社員はカバーできるでしょう。まず、ほぼオフィスに来る必要がない人とデスクワーカーを対極に置きます。その間をどう区切るかはケースバイケースですが、社員は「自分がどのペルソナに当てはまるのか」を理解できるように設定するのがポイントです。
ただし、設定したペルソナは更新することが大事です。もちろんペルソナは社会変化に応じた企業のバージョンアップ、また個人の事情やライフステージなどで変化する可能性があるため、社員全体の働き方の変化を定期的に把握し、更新する必要があります。
それぞれのペルソナに応じたサービスを考案する
ペルソナが設定できたら、それぞれに合ったルールやカルチャーをつくっていきますが、総務だけで構築することはできません。人事やテクノロジー部門など、他部署と連携することにより多様な働き方の実現に向かいます。
総務部門の仕事は、基本的に社員にサービスを提供することです。個別的な働き方や休暇制度などの見直し、オフィスの再構築など、社員サービスのフロントとして総務部門の守備範囲が広がっていることを理解し、行動を起こすことが大事です。
社員のために行う具体的な取り組み
次に、総務部門が行う社員のための具体的な取り組みについて紹介します。
ファシリティコストを下げ、社員の働き方に還元する
これまでの総務は予算を使う側でしたが、今後は原資を生むことにも取り組むことができます。それはワーク・ライフ・バランスを推進する過程で、ファシティ・コストが低減できる企業もあるからです。
オフィスコストには不動産系コスト(賃貸借)、光熱費や空調、清掃、セキュリティなどさまざまな費用がかかっています。働き方が多様化する中で、本社に必要なオフィス面積やコストは自然に下がっているため、それを最適化し原資にすればワーク・ライフ・バランスを実現するための費用に割り当てることが可能になっています。それのに、大半の組織は部門の壁をまたぐ取り組みになるので、そのことに気づかないケースも多々あります。
これからの総務は経済的な根拠をベースに他部門も交えた戦略的な予算確保の提言することができなければ、社員が本当に求めているサービスを提供することは難しいでしょう。例えば、オフィス改善によって削減できたコストを原資にして、情報セキュリティの高めるサービスやテレワークに必要な機材を整備することもできます。
近年はオフィスにカフェを常設している企業もあります。一見、公私混同だと思われるかもしれませんが、今は公私融合という言葉が使われる時代です。福利厚生ではなく、社員サービスの枠で総務が原資を確保し、そのようなサービスを社員に還元することが新たなワーク・ライフ・バランスの取り組み方です。
オフィス以外のワーキングポイントを用意する
働き方が多様化している今、総務部門の支援も多様化が必要です。例えば、オフィス以外に社員が集まれる場所を用意したり、研修施設を自由に使ったりできるようにすることも多様な働き方の支援です。
最近では、全社員の自宅から徒歩10分以内のところにワーキングスペースを用意している企業もあります。その契約や支払いもすべて総務部門が手配することで、社員が心地よく働き、私生活の時間をとることができます。そのような社員サービスは従業員エンゲージメントや生産性の向上へとつながります。
心地よい空間づくりはワーク・ライフ・バランスの向上につながる
社員の働き方の多様化によってオフィスの意味は変化しつつあります。ワーク・ライフ・バランスの推進によってオフィスは働く場所から、社員の生産性を高める場所として、コミュニケーションやアイデアを生む場所として、さまざまな職場環境づくりが試されています。
緑を取り入れたり、リフレッシュできるスポットを設けたり、仕事に集中できるスペースをつくったりと社員のその時々の気分や用途に合わせたオフィスづくりが進んでいます。そういったフレキシブルなオフィスの構成も、それぞれに応じた働き方に対するサービスの一環です。
社員が快適で健康的に働けるオフィスに”リチャージ”できる場所を。
その中に、オフィスや自宅以外のサードプレイスとしてコワーキングスペースなどのワーキングポイントを設けるなど、総務が実践できるワーク・ライフ・バランスの向上への取り組みがあります。
大切なことは、社員一人ひとりのワーク・ライフ・バランスに向き合い、心地よく働ける環境をつくっていくことです。そのために総務がこれまでの価値観にとらわれず、柔軟に守備範囲を広げて社員の多様な働き方を実現することがワーク・ライフ・バランスにつながります。
監修者
金 英範
早稲田大学理工学部建築学科卒。オフィス設計事務所勤務を経て、米国大学院にて「ファシリティマネジメント修士」を取得。帰国後、モルガン・スタンレー・グループ株式会社、ゴールドマンサックスJapan、メリルリンチ日本証券株式会社、米ジョンソンコントロールズ、日産自動車など、25年以上にわたって総務・ファシリティマネジメント業務にたずさわる。現在は「株式会社Hite&Co.」の代表取締役社長として戦略総務、ファシリティマネジメント業務に関するコンサルティング、および総務組織の専門性向上やリスキリングなどの業務を受託する。
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