企業にとって優秀な人材を確保することは非常に重要です。自社に対して高い信頼や愛着を持つ社員がいる企業は、組織として成長し業績も向上します。近年、テレワークの推進によってコミュニケーションの難しさが叫ばれるなか、離職率の高まりや優秀な人材確保に課題を抱いています。
そこで、企業が取り組み始めているのが「従業員エンゲージメント」を高めることです。企業がさまざまな従業員に対して多様でよりよい環境を提供し、それぞれが持てる能力を発揮することで信頼関係を築くことが大きな目的です。従業員エンゲージメントが高まれば生産性が上がり、社員のウェルビーイングの向上にもつながります。
この記事では、従業員エンゲージメントのメリットや具体的な施策、マネジメントサイクルを回すための効果検証方法について解説します。
従業員エンゲージメントとは
エンゲージメント(engagement)の言葉の意味は「誓約」「約束」「契約」です。ビジネスにおいては「企業と従業員の関係性」を表現するために使用され、従業員エンゲージメントとは「会社に貢献したい」という自発的意欲のことを指しています。このテーマでは、従業員エンゲージメントの具体的な定義や構成要素などを紹介します。
従業員エンゲージメントの定義と3つの構成要素
従業員エンゲージメントの定義について簡潔に説明すると「どれだけ企業の理念に共感し、信頼を持って自発的に貢献したいと思っているか」ということです。ただ、この定義は広く捉えた内容なので、各企業は独自に従業員エンゲージメントを定義し、働く環境づくりとして取り組んでいます。
従業員エンゲージメントを構成する3つのポイントとして、消費者庁とも関わりを持つウイリス・タワーズワトソン社は下記を挙げています。
理解度
企業が持つ理念や経営ビジョンを従業員が理解しなければ、会社に対する信頼感や愛着は育まれません。理解度は従業員の企業に対する共感や信頼を深める上での大切な要素です。そのため、企業は従業員が同じゴールに向かって努力できるように目標やビジョンを明確に伝えることが重要です。
帰属意識
帰属意識とは、「ある特定の団体に対して持つ一体感」のことです。ビジネスにおいては、企業や組織の一員だという自覚を指す言葉として使用されます。帰属意識が強いほど、企業の持つ課題を主体的に解決しようとしたり、従業員同士のつながりや共感が高まったりするため、従業員エンゲージメントは向上します。
行動意欲
従業員が自らの役割を理解し、自主的に行動することが行動意欲です。企業の業績は従業員の行動意欲の高さによって大きく変化します。従業員のモチベーションを維持するために、企業は適切な評価や満足感が高まるフィードバックを行い、個人の達成感やチームの一員として実感を強化することが大切です。
<参考>
「消費者志向経営と従業員エンゲージメント」(ウイリス・タワーズワトソン社)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/assets/consumer_partnerships_cms201_20220721_01.pdf
従業員エンゲージメントが重要視される背景
従業員エンゲージメントが重要視される背景を、次の3つの視点から紹介します。
離職率の向上
従業員エンゲージメントが重視される背景には、近年の離職率の高まりなどが挙げられます。厚生労働省の報告によると令和4年上半期の離職率は8.7%で、前年度と比較して0.6ポイント上昇しています。
業種別では「医療・福祉」「卸売業・小売業」「宿泊業・飲食サービス業」の順で増加しています。人々の生活に身近に関わる業種は、より従業員エンゲージメントが重要だといえそうです。従業員エンゲージメントの高さは、従業員の企業に対する自主的な貢献意欲の高さの裏返しでもあります。それは顧客満足度につながり、業績の向上へと発展して給与にも反映されるプラスの循環を生む1つのきっかけとなります。
<参考>
「令和4年上半期雇用動向調査結果の概況」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-1/dl/gaikyou.pdf
生産性の向上と事業成長
従業員エンゲージメントは、人材戦略の不可欠な要素として国も重要視しています。民間の調査結果によれば事業成長には相関関係があり、スコアが高いほど向上が見られたからです。
しかし、経済産業省の資料によると、米国ギャラップの調査(2017年度)では従業員エンゲージメントが高い従業員の割合が低く、調査国139か国のなかで132位という結果でした。早急な解決が求められる結果といえます。
<参考>
01「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会
報告書(案)」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/006_01_00.pdf
02「参考資料集」(経済産業省・産業人材政策室)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_3.pdf
働き方の多様化によるコミュニケーション不足
新型コロナウイルスの影響によって社会が変化し、働き方が多様化しています。リモートワークが推奨され、ビジネスにおいてはオンラインでのやりとりが当たり前になりました。しかし、リモートワークは便利である一方、コミュニケーション不足に陥りやすくなる課題が見つかりました。
コミュニケーション不足は組織間やチーム間、また個人同士の誤解を生み、不満をためることにつながります。これは従業員エンゲージメントに関わるため、企業として対策が必要です。社員のウェルビーイングを確保するには、大事なアプローチです。例えば、コミュニケーションの活性化や人間関係の醸成などを目的にチームビルディングを行う企業もあります。
従業員エンゲージメントと混同されやすい言葉
「ワークエンゲージメント」「従業員満足度」「ロイヤリティ」といった従業員エンゲージメントと混同されやすい言葉があります。違いを理解して混同しないように注意しましょう。
ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントは、従業員が「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つの観点から、従業員の心理的状態を表す言葉です。
<参考>
「『働きがい』をもって働くことのできる環境の実現に向けて」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3_01.pdf
従業員満足度
従業員満足度とは、企業で働く従業員の居心地のよさを表す指標のことです。職務内容・労働環境や業務内容・待遇・福利厚生などの従業員の満足度で、英語では「ES(Employee Satisfaction)」と呼称されます。
ロイヤリティ
ロイヤリティという言葉は「忠誠」のことを表します。ビジネスにおいては従業員だけではなく、顧客に対しても使用されており、信頼や愛着、帰属意識という意味で使われています。
従業員エンゲージメントを高めるメリット
従業員エンゲージメントを高めるメリットを、企業側と従業員側の視点から紹介します。
企業にとってのメリット
まずは企業にとってのメリットを、次の4つの視点で解説します。
- 従業員のモチベーション向上
- 離職率の低下
- 優秀な人材の採用
- サービスレベル向上や顧客満足度の向上
従業員のモチベーション向上
従業員エンゲージメントが向上することで、従業員の企業に対する共感や信頼感、自主的な行動意欲が高まります。つまり、従業員は働きがいを感じるようになります。このような充実感が従業員のモチベーションアップにつながり、生産性の向上や事業の発展が生まれます。
離職率の低下
経済産業省の資料では、従業員エンゲージメントのスコアが高い企業の離職率は低い傾向が見られました。従業員エンゲージメントを向上させることで、従業員の離職率の低下につなげ、定着率を高めることが可能です。従業員の定着率安定は、事業の生産性を安定させることにもなります。
<参考>
「経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/002_02_00.pdf
優秀な人材の採用
優秀な人材は自分の能力やスキルを社会的信頼の高い企業で主体的に発揮したいと考えています。従業員エンゲージメントを高めれば、積極的に目標達成や組織のよりよい改善に取り組む貢献意欲の高い人材が集まります。
サービスレベル向上や顧客満足度の向上
従業員エンゲージメントが高いということは、従業員のモチベーションや貢献意欲も高い状態で維持されています。必然的に生産性やサービス内容の質が高まり、顧客の満足度は向上します。
従業員にとってのメリット
次は従業員エンゲージメントの向上で、従業員が得られるメリットを4つ紹介します。
- モチベーションが上がる
- 安心して仕事におけるさまざまなチャレンジができる
- 仕事を通じてやりがいを感じられる
- 心身の健康が良好な状態で働ける
モチベーションが上がる
企業に対する共感、理解、信頼が確保されていれば、従業員もやる気や働きがいを保持できます。自分が組織の一員として「役に立っている」という確信は、モチベーションアップにつながります。
安心して仕事におけるさまざまなチャレンジができる
企業が理念や経営方針、共通のゴールを明確に伝えることで、従業員は安心して働くことができます。さらに仕事に対して適切な評価やフィードバックを実施することで、従業員は満足感を得ながら成長するため、さまざまな業務に果敢にチャレンジするようになります。
仕事を通じてやりがいを感じられる
厚生労働省の調査では、「働きがいや働きやすさがある会社では、従業員の仕事に対する意欲が高く、職場への定着が進みやすい傾向があり、さらに会社の業績も高い傾向にある」と報告されています。
従業員エンゲージメントを向上させることで、従業員は働きがいややりがいを得て、企業により貢献するようになります。
<参考>
「職場環境を整備・改善したい」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/shokuba_kaizen.html
心身の健康が良好な状態で働ける
働く上で何より大切なのは、心身の健康です。働きがいややりがいを感じる職場なら仕事に対して「やらされている」というマイナスイメージを抱くことなく、従業員は心身の健康を保ち、業務を遂行します。
従業員エンゲージメントを向上させる4つの施策
従業員エンゲージメントを向上させるためには、次の4つの施策が有効です。
1. 企業理念やビジョンを明確にする
従業員が「自分は何のために働いているのか」と考えた時に、企業が明確な目標を提示することは非常に重要です。企業理念やビジョンに共感するほど、従業員のモチベーションや組織に対する貢献意欲は向上します。
そのため、企業は理念やビジョン内容を具体的に示し、従業員の信頼や共感を得る行動力と実行力が必要です。
2. 公平性が高い人事制度を取り入れる
公平性の高い人事制度は、従業員エンゲージメントの向上に欠かせない要素です。適正な評価や報酬が得られなければ、従業員のやる気やモチベーションは低下します。不透明な評価基準ではなく、公平性が高く適正な報酬や評価が行われる人事制度を整えることが大切です。
3. 従業員同士の関係性を深める
従業員同士の関係性を深めることも、従業員エンゲージメント向上に結びつきます。従業員同士が気さくにコミュニケーションをとれる職場なら、ストレスやハラスメントは起こりにくくなります。
一方、従業員同士の関係性が薄い職場では、企業への愛着や信頼は育ちません。また、近年テレワークの推進で懸念される孤立や孤独感に配慮した取り組みも各企業で行われています。
4. ワークライフバランスへの対応・福利厚生の充実化
ワークライフバランスへの対応や、福利厚生の充実も従業員エンゲージメントを高めます。休日でも仕事だったり、平日も残業続きだったりする環境では、従業員の心身は疲弊し、組織に対する貢献意欲は低下します。
プライベートな時間を充実させることで、労働意欲が高まるという従業員も多く存在します。企業は仕事とプライベートのバランスがとれるような、心身ともに無理なく働ける環境づくりを整えることが責務です。
従業員エンゲージメントの調査方法と調査指標
従業員エンゲージメントの結果がわかりにくいため、定期的に測定してマネジメントサイクルを回すことが大事だといわれています。このテーマでは、従業員エンゲージメントの効果を検証するための調査方法と、調査指標を紹介します。
従業員エンゲージメントの調査方法
従業員のエンゲージメント調査方法には、短期間に繰り返し行うパルスサーベイと年に1~2回実施するセンサスサーベイという2つの方法があります。
パルスサーベイ
パルスサーベイとは、従業員のサーベイ調査の1つで、エンゲージメント調査に多く用いられる手法です。具体的には、簡単な質問やアンケートを週次や月次といった短期間で繰り返し実施します。
調査項目は10問以下に設定されることが多く、1~3分程度で完了するものがほとんどです。短期反復の調査を行うため、従業員に負担がかからないのが特徴です。従業員の状況をリアルタイムで把握でき、柔軟なアクションを打ち出すことが可能です。
センサスサーベイ
センサスサーベイはパルスサーベイと異なり、年に1~2回の頻度で質問数の多いアンケートなどを実施する手法です。質問数や内容が多岐に渡るため、従業員の詳細な状態を把握し、組織の課題の分析にも活用することができます。
社員に対して直接調査を行うパルスサーベイやセンスサーベイのほかにも、オフィスという環境視点から従業員の満足度を調査する取り組みもあります。例えば、パナソニックの「オフィス診断レポートサービス」です。人感センサーを活用した人と場所のセンシングデータとオンラインでの社員アンケートを利用し、職場内のワーカー満足度を測ることで課題を可視化します。この改善を通して、環境視点から従業員エンゲージメントの向上を目指します。
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従業員エンゲージメントの調査指標
調査を行う上で重要なのは、どのような指標を用いるかです。従業員エンゲージメントの調査指標を3つ紹介します。
エンゲージメント総合指標
エンゲージメント総合指標とは、3つの指標を用いて従業員のエンゲージメントを総合的に測定する指標です。
- eNPS(従業員ネットプロモータースコア):自社を他人に勧めたいと思っているか
- 総合満足度:自社に対して総合的にどのくらい満足感を持っているか
- 継続勤務意向:現在の職場で継続して働きたいと思っているか
ワークエンゲージメント指標
ワークエンゲージメント指標は「活力」「熱意」「没頭」という3つの観点から、従業員の仕事に対するやりがいや熱意などを測定する指標です。
エンゲージメントドライバー指標
エンゲージメントドライバー指標は「組織」「職務」「個人」という設問を設定し、それぞれ仕事に満足しているか、企業への貢献が実感できているかを測定するための指標です。エンゲージメントドライバー指標の分析は、その後の施策方針の検討にも役立ちます。
心地よい空間が従業員エンゲージメントの向上につながる
企業が従業員にできる施策は、社内の制度や規定を見直すばかりではありません。職場環境には、シンプルにワークプレイスも含まれており、オフィスが快適にすごしやすい空間であれば仕事の効率も上がります。
職場環境が向上すれば、社員間のコミュニケーションが深まり、チーム力の向上、生産性のアップにもつながります。これはストレスの軽減やハラスメントの防止にも寄与します。つまり、従業員エンゲージメントの向上には心地よい空間づくりも重要です。
例えば、パナソニックの「フレキシブルゾーニングソリューション」は光と音を活用し、オフィス内を社員の利用目的によって環境ゾーニングすることで、新しい働き方「ABW(Activity Based Working)」を提案しています。具体的には、オフィス内をいくつかの空間にわけ、集中するゾーンやコミュニケーションをとるゾーン、ミーティングするゾーンなど社員のその日、その時の気分や目的に応じて働く空間を選び、仕事の効率性や生産性を高める後押しをしています。
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また「株式会社NTTデータMSE 横浜オフィス」では、コミュニケーションの質を高めるためにイノベーションルームを設けています。さらに、デスク上には「ランターナ」と呼ばれるさまざまなアイディアやプロトタイプを表示する可視化プロダクトを設置し、社員のコミュニケーションをサポートしています。
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