スマートシティAiCT

北出丸大通りに沿った木造雁木が交流棟に続く。左奥は鶴ヶ城

日本では、少子高齢化や製造業の雇用創出力低下による生産年齢人口減少が課題となっているが、福島県会津若松市もその例にもれない。そこで市が取り組んだのが「スマートシティ会津若松」プロジェクト。まち・ひと・しごとの創生により、長期的に10万人程度の安定人口を実現し、地域の活力維持をめざす。市はこれまで、1993年に開学した公立大学法人会津大学や企業と連携し、アナリティクス産業・ICT関連企業の集積に力を入れてきた。会津大学は、コンピュータサイエンス領域で研究者数・学生数とも全国一位を誇るが、卒業生の約8割は県外に就職する。アナリティクスは膨大なデータ解析などを行い、環境・医療・農業などの多様な分野で問題解決を行うための技術。スマートシティ会津若松の各事業における基盤環境整備に欠かせず、サーキュラー・エコノミーにおいてもコア技術として注目され、その人材も求められている。今回の事業は、その戦略拠点となるオフィスの建設という環境整備事業。ICT産業を集積し、そこで協働する大学生の人材育成を行い、彼等が先進的な活用事例を創出することで、新しい産業を再度呼び込むという、循環型の地方創生が計画されている。
プロポーザルにあたっては、市が運営管理するのではなく、建物の所有者が入居企業を誘致し運営する「ホルダー企業」制度が採用された。採択されたのは会津若松市内企業5社による連合体の提案。設計・施工に関しては設計段階から施工予定者が関与するECI^※方式を採用し、ホルダー企業として株式会社AiYUMU（あゆむ）が運営管理から企業誘致までを担うこととなった。

• ECI（Early Contractor Involvement）方式

公募によってスマートシティAiCTと名付けられた施設は、S造3階建てのオフィス棟と木造平屋建ての交流棟によって構成されている。オフィス棟は外装材にCLTを採用。内装材の一部に地元材を加工した木材を使用し、交流棟でも構造体と内外装仕上材に地元材が用いられている。
交流棟とオフィス棟の間には各棟の機能を分離できるようにデッキテラスを配置し、会津の四季折々の自然に触れながら相互交流できる空間が創り出された。オフィス棟は道路から離れた奥に配置され、貸室は15mスパンの無柱空間。可動間仕切りやパーティションによりレイアウト変更にも容易に対応できるように設計されている。
また、各階にはオフィス内入居企業間の交流を図るため、セミパブリックスペースとしてのサロン・ラウンジが設けられた。この空間の西側には、直射日光の照射を抑えるために1階から3階までCLTによる垂直ルーバーを配置。ルーバー間に常緑ツル性植物のテイカカズラを植栽することで、壁面緑化による日照コントロールが図られている。
誘致企業としては、世界最大のコンサルティングファームであるアクセンチュア株式会社を筆頭に、国内外のICT企業17社の入居が決まり、会津大学発ベンチャーも入居する。
株式会社白井設計 代表取締役でAiYUMUの取締役副社長でもある白井武男氏は「今回のプロジェクトは地元企業や金融機関、電力会社の協力があって実現できたもの。設計・監理から運営にまでたずさわり、多くのグローバル企業誘致にも成功した。今後はここのインキュベーション機能を活用し、会津大学の学生たちがベンチャー企業としてグローバルビジネスを展開してくれることを期待している」と語る。

建築設計Report vol.30/2019年8月発行
※会社名、役職名などは掲載時のものです。