締めたボルトが緩む原因と防止策
更新日 2025年9月2日 バージョン1
ボルト締めは製造業の品質管理において、とても重要な役割を担っています。しかし、緩みやネジかじり、過剰締付といった課題もつきもので、これらの問題が発生すると品質の低下や重大な事故につながります。
では、ボルト締めを適切に行うにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。また、ボルトの緩みをはじめとする問題はどのように解決すればよいのでしょうか。
この記事では、ボルト締めの基礎をはじめ、ボルトが緩む原因や緩みを防止する方法、さらにその他の課題とその解決策について解説します。
ボルト締めの基礎
まずは、ボルト締めの基礎についてご紹介します。
ボルトのサイズや強度を正しく理解しよう
ボルトにはさまざまな種類があり、呼び径やピッチ、長さ、強度によって適した用途が異なります。適切なサイズを選ぶことで、締結の信頼性を高めることができます。
●呼び径:ねじ山がある部分の直径
●ピッチ:ねじ山同士の間隔
また、ボルトの強度は素材によって異なり、鉄製とステンレス製では区分が異なります。
●鉄製ボルトの強度区分:「3.6」「4.6」「10.9」など(前半が引張強さ、後半が降伏点)※1
●ステンレス製ボルトの強度区分:「A3-70」「A5-80」など(ボルトの頭に記載されているアルファベットと数字で強度を確認。前半が鋼種区分、後半が強度区分)※1
このように、ボルトには呼び径やピッチのような細かな寸法があるため、長さと併せて確認することが重要です。また、素材によって強度が変わるため、正しい強度区分を理解しておく必要があります。
用途に合ったボルトを使用するためにも、サイズや強度をはじめとするさまざまな視点でボルト選びを行いましょう。
製造業においてボルト締めで気をつけるポイント
製造業でボルト締めを行う際は、作業手順の標準化・可視化に取り組むのがおすすめです。製品のトレーサビリティが向上し、問題発生時にその原因を迅速に究明しやすくなります。※2また、部門間での連携が取りやすくなる効果も期待できます。※2
加えて、締付場所や対象物の材質に応じたボルト・工具の使い分けを意識することも重要です。対象物の素材(木材や金属、プラスチックなど)によって必要なボルトの長さ・強度が変わり、対象物を傷つけない工具の使用も求められます。そのため、作業環境に合ったボルト・工具かどうかは、ボルト締めの成功を左右する重要なポイントといえます。
そして、製造業のボルト締めでは作業者の教育も徹底して行うことが一層重要となります。製品の品質管理はもちろん、作業者のけがを防ぐためにも重要なポイントです。
トルクの考え方
トルクとは、回転軸に対して働く力(回転力)のことです。※3
トルクは「力(F)×距離(d)=トルク(T)」で定義され、回そうとする力が強くなるほど、または回転軸までの距離が長くなるほど、トルクは大きくなります。※3
ボルトやネジを締め付ける際の締結力とは「対象部材と非締付部材をどれだけの力で取り付けなければならないか」ということです。全体の締結力をボルト1本当たりに分けると、ボルトの軸力が決まります。
トルク値は、この軸力の換算値です。軸力を測定するのは非常に困難なため、代用としてトルクを測定します。
ボルト締めを行う際は、はじめに適正トルク値を導き出すことが重要です。なぜなら、適正トルク値以下または以上の力でボルトを締めてしまうと、緩みにつながりやすくなるからです。※4※5ボルトの緩みは事故の原因になることがあるため、ボルト締めは適正トルク値で行うことが重要です。
適正トルク値でボルト締めが行えるよう整備することを「トルク管理」といいます。トルク管理は、作業の効率化や品質・信頼性の向上、不良率低減によるコストの削減、安全性の向上などのメリットをもたらします。※5
トルク管理ができる工具
トルク管理に活用できる工具には、例えば手動式トルクレンチ・トルクドライバーや電動式トルク管理ツールが挙げられます。トルクレンチは主にボルトに対して使用し、トルクドライバーは主にネジに対して使用します。※6
手動式トルクレンチ・トルクドライバーと電動式トルク管理ツールは、どちらも「今どれくらいの力で締め付けているか」を測定でき、トルク値を事前に設定できるため、適正トルク値で作業を行うことが可能です。※7※8
なお、トルク管理については以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
締めたボルトが緩む原因とは?
ボルト締めの課題のひとつに「ボルトの緩み」があります。主な原因は締結力の低下であり、そのパターンは「ねじ部が回転していない場合」と「ねじ部が回転している場合」の2つに分けられます。※9※10※11
1.回転せずに緩んでいる場合
ねじ部が回転せずに緩んでいる場合の原因には、主に以下の4つが挙げられます。
初期緩み
ボルト・ネジと対象物が接触する面には微小な凹凸があります。これが経年変化や振動によって生じた摩耗で徐々に平坦になることで、軸力が低下し緩みにつながります。※9※10※11※12
陥没による緩み
対象物の強度がボルトやネジより低い場合、ボルトやネジの座面と対象物が接触する面が時間とともに変形(陥没)します。これにより隙間ができて軸力が低下することで緩みにつながります。※9※10※11※12
衝撃・振動による緩み
ボルト・ネジと対象物が接触する箇所の面圧が十分でない場合、衝撃や振動などの外的要因により摩擦が発生します。そうなるとボルト・ネジと対象物が接触する箇所が徐々に平坦になるため、緩みにつながりやすくなります。※9※10
熱による緩み
締結部が熱による影響を受けると、ボルトやネジが膨張または収縮します。これにより軸力が低下するほか、場合によってはボルトや締結部材が損傷することもあります。※9※10
2.回転して緩んでいる場合
ねじ部が回転して緩んでいる場合の原因には、主に以下が挙げられます。
戻り回転による緩み
振動や衝撃などの外的要因によって、ボルトやネジが戻り方向に回転することがあります。これにより緩みが発生してしまいます。※9※11
ボルトの緩みを防止する6つの方法|対策アイテムを解説
ボルトの緩みを防止するには、ワッシャーや割りピンなど、さまざまなネジ部品を活用するのが効果的です。
ワッシャー
ワッシャーとは、ボルトやネジと対象物の間に挟む金属板のことです。「平座金(ワッシャー)」「ばね座金(スプリングワッシャー)」などの種類があり、なかでも緩み防止に効果的なのはばね座金です。※9※13ねじられた形状になっているため、仮にボルトやネジが緩んでも摩擦で進行を防止する効果が期待できます。※13
割りピン
割りピンとは、ナットの緩み・脱落防止を目的としたアイテムです。ボルトをナットに挿入し、ボルトに空いている穴に割りピンを入れて溝にはめ込むことで、ナットが回り緩むのを防ぎます。※9
ロックワイヤ
ロックワイヤとは、複数のボルトやナットを結ぶ際に使用するワイヤーのことです。ボルトやナットに空いている穴にロックワイヤを通して結ぶことで固定できるため、緩みを未然に防ぎやすくなります。※14
ダブルナット
ダブルナットとは、1つのボルトに対し2つのナットを締め付けることです。ナット同士の間に引張力(両端から外側に引っ張る力)が働くため、振動による緩みを防止しやすくなります。※9※15
接着剤
接着剤の使用もボルトの緩み防止に効果的です。ボルトの溝に接着剤を塗布してから締め付けることで、接着剤が中で固まり固定されやすくなります。※9
ただし、接着剤によってはボルトを外せなくなるほど強力な接着力を持つ場合もあるため、用途に合った種類を使用することが重要です。
【+α】特殊加工が施されたボルトを使用するのも効果的
ボルトのなかには、緩み防止の特殊効果が施された種類もあります。※16これを使えば、上述したワッシャーや割りピン、ロックワイヤなどが不要になるため、コストや作業の手間を削減することが可能です。
緩みだけじゃない!ボルト締めのよくある課題
ボルト締めの課題は緩みだけではなく、例えば「締め忘れ」や「ネジかじり」「過剰締付」などもあります。
締め忘れ
締め忘れは、ボルト締めの際によく発生するヒューマンエラーです。仮締めのまま次の作業に移行したり、確認しないまま作業を再開したりすることで発生します。
締め忘れはボルトの緩みを誘発し、最悪の場合は製造物の故障につながることもあります。※17そのため、点検項目や作業工程の可視化を行い、それを防ぐことが重要です。
ネジかじり
ネジかじりとは、ねじ山の溶着により取り外し・締め直しが困難になる現象のことです。ボルトやネジがまったく動かなくなってしまうため、場合によっては部品や製造物を一から造り直さなければならなくなります。※18
こうした事態を回避するには、潤滑剤を塗布したり、かじり防止の表面処理を施したボルト・ネジを使用したりする工夫が必要です。
過剰締付
必要以上にトルクをかけて締め付けると、ボルトやネジが変形したり、めねじが破損したりすることがあります。そうなると、おめじとめねじがはまらなくなり、かえって緩みやすくなってしまいます。※19
適正トルク値での締め付けこそトラブルを回避する有効手段であるため、トルク管理を徹底することは重要といえます。
電動ツールによる精密締付がボルト締めの課題を解決!
緩みをはじめとするボルト締めの課題は、電源のシャットオフ機能が搭載された電動ツールで解決できます。
例えば、Panasonicの電動ツール「充電インパクトドライバー EYFLA7(2018年6月発売、以下EYFLA7)」には以下のような機能が搭載されています。
▼Panasonicの充電インパクトドライバー EYFLA7に搭載されている機能
| 機能 | 特徴 |
|---|---|
| 斜め締め低減機能 | 最初に約360度逆回転させることでネジを誘い込み、ねじ山の噛み込みを低減する機能 |
| 締付不良お知らせ機能 | 作業時間をあらかじめ本体に登録し、作業時間に達しない場合に締付不良をお知らせする機能(※作業時間は0.1~3.0秒の間で0.1秒刻みで設定可能) |
| 電源自動停止機能 | 電池電圧が大きく低下する前に電源を自動で停止することで、電池残量の低下によるトルク不足を防止する機能 |
これらの機能によって、ボルト締めの際に発生しやすい斜め締めや過剰締付、噛み込みなどのトラブルを防止しやすくなるため、締め付けの質・効率性の向上効果が期待できます。
ボルト締めにおいて上述したような課題に悩んでいるのであれば、この機会にぜひPanasonicのEYFLA7をお試しください。
まとめ
この記事では、ボルト締めの基礎をはじめ、ボルトが緩む原因や緩みを防止する方法について以下の内容を解説しました。
- ●ボルトには呼び径やピッチのような細かな寸法があるため、長さと併せて確認することが重要
- ●ボルトの強度は素材によって変わるため、正しい強度区分を理解しておく必要がある
- ●製造業でボルト締めを行う際は、「作業手順の標準化・可視化」「締付場所や対象物の材質に応じたボルト・工具の使い分け」「作業者の教育」を徹底して行うことが一層重要となります
- ●締めたボルトが緩む原因は「初期緩み」「陥没による緩み」「衝撃・振動による緩み」「熱による緩み」「戻り回転による緩み」
- ●ボルトの緩みを防止するには、ワッシャーや割りピンなど、さまざまなネジ部品を活用するのが効果的
- ●緩みをはじめとするボルト締めの課題は、電動ツールによる精密締付で解決することができる
ボルトが緩む主な原因は「締結力の低下」です。陥没や衝撃・振動、熱などにより低下するケースが多く、これらのきっかけのひとつは不適切なボルト締めといえます。そのため、まずは適切なボルト締めができるような環境を整えることが大切です。それにはトルク管理が必須なため、この機会に電動ツールを導入して適正トルク値を測定したり便利機能を活用したりしてみてください。
なお、トルク管理については以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
【トルク管理の基礎】なぜ必要?手法や課題、解決策まで徹底解説
『Panasonic』では電気・建築設備として、充電スクリュードライバーや充電インパクト、ACスクリュードライバーなどの工場向け電動工具を多数取り揃えております。
現場でのさまざまな作業ニーズに対応すると同時に、製品品質の安定を支え、生産性の向上に貢献します。この機会にぜひご活用ください。
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参照文献
-
- ねじ・ボルトの強度区分について|WILCO.JP
- 製造業における作業手順書の活用方法を徹底解説|Revot
- トルクとは?|IMADA
- オーバートルクの危険性とトルク管理方法について|Adrec
- 改めて知りたい「トルク管理」とは?|TORTECH
- トルクドライバーの種類・選び方【デジタル・プレセット・単能・ダイヤルなど】|ビルディマガジン
- トルクレンチとは?種類や正しい使い方、保管方法について|KTC
- 電動トルクレンチとは?特徴や仕組みを解説|TORTECH
- ねじの緩みと緩み止め|イチから学ぶ機械要素
- ゆるみの原理について(基礎編)|ネジ締結技術ナビ
- 「ねじのゆるみ」の原因と対策アイテムの紹介|WILCO.JP
- ねじのゆるみ止め特集|MiSUMi
- ワッシャー(座金)の役割や種類について徹底解説!|NBK
- ねじの基礎講座|工具の通販モノタロウ
- ダブルナット の意味・解説・呼称など|Panasonic
- ゆるみ止めボルト モーションタイト®とは|朝日押捻子製作所
- ボルト、ネジの締め忘れ対策|Adrec
- ねじの「かじり」の原因【ステンレスでよく発生します】|ものづくりのススメ
- 【ねじの知識】ねじ締結について|NITTOSEIKO

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