1965年、ウォルト・ディズニー社はフロリダ州に広大な120km2の土地を購入しました。ウォルト・ディズニー氏はここに未来の理想的な都市を建設しようと考えていたのです。その名は「エプコット」。しかし、彼はその夢を実現することなく翌年に亡くなります。1971年10月に、購入した土地の一部にマジックキングダムがオープンし、続いて「エプコットセンター」がオープンしたものの、規模は小さく、未来都市どころか、テーマパークの一つでしかありませんでした。
フロリダ州のセレブレーション・フロリダ(右は最初に開発されたビレッジ)
1984年に会長に就任したマイケル・アイズナーは、この地にディズニーが理想とする街を創り出そうと考えました。翌年には、28km2にわたるセレブレーションのプランニングを開始。湿地帯であったこの土地を埋め立て、非常に価値の高い住宅地を創り出しました。都市の中央には水路と並木からなるウォーターストリートを置き、その北側にはパブリックゴルフ場、反対側にはタウンセンターと湖を配置することで都市軸を創り出しています。
新しい街を作るにあたって課題となるのは、居住者が少ない状態では商業施設の経営を維持することが難しい点。そのため、セレブレーションでは人々が入居する前にディズニー社によってタウンセンターが作られました。
セレブレーションのダウンタウンには、全米の著名な建築家が集められ、タウンホールや郵便局、銀行や映画館などが建設され、あたかも水辺の建築博覧会の様相を呈し、街開きの前から観光客が訪れて賑わいました。
それもまた、人びとにセレブレーションで暮らしたいという想いを強くさせました。
セレブレーションは米国造園協会や全米事業用不動産協会などから数多くの賞を受け、2001年にはベスト・ニューコミュニティの優秀賞を受賞しています。
ウォルト・ディズニー社からマスタープランを依頼されたロバート.A.M.スターンとジャクエリン・ロバートソンは、素朴で牧歌的な古き良きアメリカを創り出そうと考えました。セレブレーションでは、それぞれのビレッジ内は徒歩で歩き回れるように計画され、映画館や商業施設のあるタウンセンターにも徒歩でアクセスできるように計画されています。
半径400mで街全体にアクセスが可能
歩いても楽しい変化に富んだ街並み
街の北端は緑豊かなゴルフ場
セレブレーションは、徒歩圏で作られた近隣地区(ビレッジとよばれている)の集合体。ここには、小学校から大学までの教育施設が整備され、最高水準の医療と健康管理が受けられる病院や、就労の場としてのオフィスエリアも設けられ、一つの完結した都市が形成されています。
セレブレーションでは歩行者優先の街づくりが進められています。玄関の前には歩道があり、前庭にガレージを設けることは許されていません。各住宅の自動車は、自動車専用のバックアレー(裏道)を通って車庫にアクセスするように計画され、街の景観からは隠されています。
道路は片側1車線で、制限速度も時速25マイル程度に制限されており、道幅は10m程度。さらに、これだけの規模の街なのに信号機がありません。これは、運転者が歩行者とコミュニケーションを取りながら、譲り合って通行するためです。また、セレブレーションにはバスや路面電車などの公共交通はありませんが、自転車や電動カートが交通の手段として利用されており、電動カートの保有率は全米一といわれています。
各住区は住宅の規模によって分けられています。規模の小さいものから、バンガローホーム、ガーデンホーム、コテージホーム、ビレッジホーム、マナーホーム、エステートホームがあり、集合住宅ではコンドミニアム、タウンホームと、大きく分けて8つの規模の住宅があります。
これらが住区ごとにまとめられているので、街を歩けば通りごとに住宅の規模が変化し、景観の変化が楽しめるように計画されています。また、所得が同じような住民が接して住むことにより、近隣の絆を強めることも計画されています。
小規模なバンガローホーム
アルチザンパークのコンドミニアム
タウンホーム
都市景観の統一性を保つために住区ごとにふさわしい1940年代のアメリカ南東部でよく見られた建築様式が用意されています。
その様式とは、コロニアル、ビクトリアン、ジョージア、フレンチ、コースタル、クラフトマン、クラシカル、グリークの8種類。土地を購入した人は自分の嗜好に合った住宅のデザインを選ぶことができますが、同じデザインの住宅を隣に建てることはできません。セレブレーションでは街のデザインコードに従っているなら設計は自由ですが、それぞれの個人が街並みに合った住宅を設計するのは大変です。このため、設計図をメニュー方式で提供する方法が採用されています。
そして、タウンアーキテクトが提出された設計図をもとに建物の色彩も含めた審査を行い、都市景観の統一感を保っているのです。
セレブレーションの住宅を見て気づくのは、ほぼ全ての家の軒先にポーチが備え付けられていることです。昔の街のように家の前で家族とくつろぎ、近所の人と言葉を交わすための場所として基本的にポーチを設けるように決められました。
ポーチは、そこで暮らす人が街を見渡す場所でもあり、外部から見知らない人が街区に進入することを見張り、子供たちを見守る、犯罪を抑止する装置としても捉えられています。ポーチは米国人にとって、古き良きアメリカのシンボルなのかもしれません。
近隣とのコミュニケーションのため、玄関前にポーチを配置
土地の価値を高める要素の一つは街の中央に設けられた人造湖で、あたかもリゾートのような水辺環境を提供しています。米国では海岸や水辺への憧れが強く、水辺の土地価格は高いのです。
もう一つは豊かな自然。全エリア8,000エーカーのうち、5,000エーカーは自然保護区域として残されており、そのエリアは政府機関が管理しています。
人工湖沿いのセレブレーションホテル
タウンセンターに配置された噴水
湖の周囲は散歩が楽しめる遊歩道
セレブレーションでは計画当初から、土地の価値を高めるための多様な仕掛けが組み込まれています。そして、その価値を維持するために、住宅を所有する人たちがその不動産を自ら管理する自治組織が設けられました。それが、セレブレーション住宅所有者組合(CROA : Celebration Residential Owners Association)。CROAには共有財産の適正な管理と、住宅地の自治運営という2つの役割があります。共有財産の中でも大きい意味を持っているのが共有地(コモン)で、公園や広場、緑地などです。
CROAの原型は1920年代に開発されたニュージャージー州の住宅地ラドバーンだと言われています。ここでは、共有地を管理するために住宅所有者組合(HOA :Home Owners Association)が組織されました。それ以降HOAの存在は重要視され、現代の米国住宅地では住宅地の価値を維持するために組合の組織化が一般的になっています。
セレブレーションでは、住宅所有者組合が年間900ドル(中規模住宅の場合)の管理費を徴収、管理をCCMC社(Capital Consultants Management Company)に業務委託しています。CCMC社は約30名のスタッフで、街の管理や情報紙の発行、ケーブルテレビの放送など、自治活動のサポートも行っています。
「リーマンショックやサブプライムローンの影響はほとんどありませんでした。現在も近隣の土地と比べてセレブレーションは30%以上価値が高いと思う」と語るのは、CCMC社コミュニケーションマネージャのローラ・ポー氏。ウォルト・ディズニーが創り出したセレブレーションのブランディングは揺らがないように思えます。
パナソニック広報誌 「建築設計レポート」(01〜04号)より転載
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