広報誌掲載:2011年11月
中華人民共和国遼寧省大連市は緯度が仙台とほぼ同じで、冬の最低気温が仙台より低いことを除けば、大連と仙台の気候は似ている。国は違っても気候風土が似ていれば、住宅の快適性や省エネを両立していく上で抱える課題は共通しているのではないか。日本では1973年のオイルショック以降、省エネ法による規制が進んだが、中国では急激な発展を持続させるために、省エネルギー住宅やエコシティなどの取り組みが急速に進められている。日本と中国が抱える課題について大連理工大学の陳先生にたずねた。
中国で最初の省エネ基準は1986年に制定されましたが、それは3つの要素から構成されていました。一つは建築の断熱性能、二つめはボイラーの効率、三つめが暖房配管の保温性能です。'96年には断熱係数が厳しくなり、2005年にはより厳しい断熱係数が定められました。しかし、この時にはボイラーと配管は対象から外されています。これはボイラーの効率や配管を規制したものの省エネにはあまり有効だという結果が出なかったため、建築の断熱性能に絞った規制の強化が行われたのです。日本の規制が断熱性能のみから、後に設備機器が対象として加えられたのに対して逆のように見えますが、まず熱損失係数を厳しく規制しようということになったようです。
中国も東北部から南部まで気象状態が異なるため、5地域に分けて規制をしています。中国の住宅は戸建てがほとんどなく集合住宅のため、地域暖房が主体です。たとえば大連ではエネルギー消費は暖房が主体で給湯は普及していないためほとんどありません。これは、中国では生活習慣が異なる、ほとんどシャワーで済ませるからです。日本人は浴槽にお湯をいっぱい張って入浴するのですが、中国ではその習慣がありません。今後、入浴が普及すれば給湯のエネルギー消費が増えるでしょうし、冷房や照明のエネルギー消費増も懸念されるところです。
現在の中国の住宅は15年〜25年くらいで壊して建て替えています。都市建設が急で市街地再開発や道路拡幅などのために既存の住宅を撤去するということもありますが、理由の一つは建築性能が低く品質が悪いためです。周りに良質な住宅が建てば、住民はすぐに引っ越してしまいます。
中国の住宅建設は、現在以下の5つの大きな問題に直面しています。
このため、現在の中国住宅建設における問題点について、日本の長期優良住宅建設を参考に、「百年住宅建築技術アセスメント体系」を制定中で、今年中に施行しようとしています。評価項目は品確法に近いもので、耐久性、安全性、防犯性、省エネ、維持管理などの項目があります。レーダーチャートが大きくなれば良いということです。
過去30年の間に、中国では数億人もの人々が貧困から脱出し、平均収入が50数倍にも跳ね上がるという大きな変化が起きました。しかしそれと同時に、急速な工業化、都市化および農業集約化による自然資源に対する圧力も増しており、さまざまな環境問題を引き起こしています。
1996年以来、中国の都市化水準は毎年1%〜1.5%という速度で増進してきました。都市化水準の増進は、将来の中国の環境負荷、特にCO2排出量増加の主な要因の一つとなるでしょう。このことも中国がエコシティ建設を急ぐ理由になっています。
中国がエコシティを進めるさいに重視しているのは、持続性、経済活力、就労です。日本のエコシティは住宅を中心に計画される傾向があると聞いていますが、中国のエコシティは職・住両方のプロジェクトで動いています。勤務先と住居はセットなのです。北九州市と連携している大連ソフトウエアパークはソフト開発のオフィスと住居を一体として計画されています。最初に企業誘致のオフィスゾーンを作って集合住宅も整備しています。世界のエコシティは職場と住居、小中学校から大学まで、そこで生活が完結できるように計画されています。
大連生態科技創新城(大連ベストシティ)は2009年に開発がスタートしました。面積65Km²、ほぼ山手線の内側ほどのエリアで、生産的サービス業を主に、科学技術研究開発、ハイテク技術、情報サービス、文化的クリエーションなどのイノベーション型産業を誘致しようとしています。
大連が建設するエコシティは、21世紀の世界的な低炭素型経済の発展および中国経済発展スタイルの転換といった背景のもとで生まれた、全く新しい『商品』でなければならないと考えられています。このため、エコシティの全体建設計画を立てると同時に、大連ベストシティのエコロジーシステムの構築も計画されました。そこでは、エコシティに関する6種の建設ガイドラインが制定されています。それは、エコシティ・ガイドライン、エコロジー建築物ガイドライン、エコロジー施工ガイドライン、インテリジェンス建築物ガイドライン、総合パイプライン・ガイドライン、持続可能エネルギー・ガイドラインです。今後、エコシティ建設プロジェクトに参加する企業は、これらの6ガイドラインの内容を遵守しなければいけません。
大連ベストシティは、中国東北地区で初めての全く新しいコンセプトを備えた国際コミュニティとなるでしょう。大連は中国でも国際化レベルが最も高い都市の一つです。大連ベストシティの立地、産業的立地、エコロジー環境は、海外企業の投資による事業集積地として、また、海外投資家とその家族の生活・教育拠点の集積地として最も適しています。現在、大連では海外の投資家との共同開発によるオフィスビル、居住区、テナント商業エリアおよび国際学校、国際病院の建設も始まっています。さらに、ハイテクビジネス、ホテル飲食、レジャー、スポーツ文化などの施設も建設して産業集積をはかると同時に、そこで働く人に快適な住居と生活環境を提供することが計画されています。
中国が日本のように消費し始めると大変なことになってしまいます。現在、都市部に農村の人が大量に入ってきつつあります。年間1500万人が農村から都市部に流入しているという発表もあります。大規模な住宅開発にはこのような背景もあるのです。そして人々が利便性と快適性を求めることから、急速なエネルギー消費が予想されるため、省エネを積極的に進める必要があるのです。これがエコシティの背景の一つです。
中国のエコシティ発展戦略には次の三点が挙げられます。
この中国的特色というのが重要だと思います。中国は最も古い農耕文明の歴史を持っており、人々はこの地で何千年も生活するために、周辺環境と調和してきました。こうした伝統文化には「敬天、順天、法天、同天(自然を敬い、自然に逆らわず、自然に法り、自然と共にある)」という原始エコ意識があふれています。一万年にもおよぶ農耕文化を経て、「天人相応、天人合一(自然と相呼応し、自然と合一する)」という原始エコ文明を多方面にわたり培ってきました。中国では伝統的な自然共生文化をエコシティ建設に生かしています。
東洋思想は自然と調和し、環境と共生する考え方です。西洋文明は自然を切り開き、コントロールするという姿勢ですが、東洋思想は自然とともに生きるという姿勢です。このような視点から見ると、日本も中国と同様に自然を敬い共生した国だと思います。さらに、日本は西洋文明の良いところと東洋思想の優れたところを兼ね合わせて、都市づくりや物づくりをしている達人のように思います。
中国ではこれまで、あまり断熱性能などに配慮してきませんでした。すぐに設備のほうに目が行き、パッシブの工夫はなにもありませんでした。このため、中国の住宅はエネルギー消費が高いものとなってしまいました。建築を設計する場合は、基本的にパッシブ性能を高めた上で高効率な器具を導入すべきなのです。現在、ようやく躯体のパッシブ性能が注目されるようになり、私も熱負荷を下げる研究を行いパッシブの国家プロジェクトに申請しています。中国東北部の寒い土地や南部の温暖な地域など、その土地にあったパッシブ性能の高い設計手法を採り入れる必要があります。また、その土地で取れた木材を利用するなど、構成する材料も「地産地消」の考えで進めるように、努力しています。
清華大学の江億教授は「産業革命以前の住宅は、どのような気候の住宅か、どのような民族が暮らしているかが一目で分かった。しかし、現在の住宅は皆同じで、ハルピンと杭州の住宅の違いもわからない」とおっしゃっています。このような住宅の造り方はよくありません。地方に合った、ライフタイルや気候風土をよく考えたパッシブ住宅を設計していく必要があるのです。
中国全土で進んでいるエコシティの建築はパッシブ性能に優れたものにする必要があります。現在、中国は断熱性能に限った規制をしており、今後は高効率の省エネ設備への規制も加わるでしょう。日本と中国は気候風土やライフスタイルの違いはありますが、エコシティの建設への課題は共通して部分も多いと考えています。