大西 隆 氏

逆都市化する日本で問われる街づくり 東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻教授日本学術会議会長 大西 隆 氏 Onishi Takashi

広報誌掲載:2013年2月

「逆都市化」という言葉は人口の減少と、それに伴う都市の縮小を意味する。日本は2007年頃をピークに人口減少に転じ、この先、先進国がいまだかつて経験したことのないドラスティックな勢いで減少を続けると予測されている。経済が右肩上がりの成長を続け、社会資本へ大規模な投資が繰り返された都市化の時代は過ぎ去った。その日本において都市はどう変化するのか、街づくりはどうあるべきか。「逆都市化」の概念を提唱した東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授、大西隆氏にたずねた。

日本が直面する「逆都市化」今後、日本がたどる人口減少はどのようなものですか。

私は1948年生まれで団塊世代の一員です。同い年は約270万人でしたが、それに比べて、現在、生まれてくる人は年間105万人〜110万人。単純な置き換えで考えると、毎年160万人以上、急速に人口が減少し続ける時代がまもなく到来することになります。そして、2100年には総人口が現在の4割程度になるとする予測もあります。大阪の人口はすでに減少しはじめていますし、東京でもやがて減り始めます。「逆都市化」の時代には地方都市のみならず大都市でも人口が減少するのです。

これは、ほとんどの先進国で未経験のこと。アメリカでは人口が増加、ヨーロッパでも明らかに減少しているという国はなく、戦争で人命が失われた国を除けば、発展途上国でもあまり例がありません。しかし、日本はすでに人口減少期に入りました。減少傾向をどう止めるかは我々の世代の課題ですが、30〜50年先まで減り続けるのは避けられないことなのです。今後の都市のあり方は、これにどう対処するかが大きなテーマです。

日本が直面する「逆都市化」

拡大した都市におこる構造の変化と居住者の動き都市が縮小に向かう時、中心市街地は核として残るのでしょうか。

都市に人が集まってきた都市化の時代、都市は外延的拡大を続けました。ところが、都市が縮小する場合は外から縮んで中心市街地が残るというわけではなく、色々な所から縮みます。現に、日本各地で中心部の空洞化が進みました。多くの地方都市で中心市街地の商店街がシャッター街となり、地価が高い大都市中心部では住宅の代わりにオフィスが建ち並んで居住者が少なくなりました。アメリカでは発達した道路網を背景に、大都市の周縁部に住宅や学校、職場、ショッピングセンターなど、一通りの都市機能を備えた新しい生活圏、いわゆるエッジシティが出現しています。そこまでの変化は日本では見られないものの、やはり郊外化は進んでおり、そこへ人口減少の要素が加わって中心市街地の低密度化を招いたのです。

一方、20年ほど前から都心居住ということがいわれてきました。東京都中央区がその一例です。銀座や東京駅のあたりでは、第二次世界大戦後のピークに27万人ほどあった人口が7万人にまで減り、オフィスの集まる中心市街地は夜にはゴーストタウンのようでした。危機感を強めた自治体がオフィスに住宅付置義務を課すなどした結果、1995年を境に人が戻りはじめました。

都心には鉄道駅や病院、百貨店などが集積していて便利であることが再評価されているのです。ただし、若い人たちが戻ってきても、家族になり子供が生まれて人口回復につながるということにはなっていません。都心の出生率は低いのです。1人の女性が生涯に何人子供を産むかを表す合計特殊出生率は2.07にならないと人口が安定しませんが、中央区の場合は1.1程度。少し回復してこの程度です。

都市化の時代に造られたインフラを少人数で支える減少を前提とする施策が必要ですね。

人口減少期に懸念されることの一つは、インフラの維持管理費の負担増です。たとえば、高速道路は通行車両、すなわち利用者が維持管理費を負担していると考えると、人口減少によって1人分の負担は増加します。都市化の時代であった1960〜70年代に道路や橋梁が次々と建設されました。それらの維持管理費は膨大な額になっており、少人数で負担するのは厳しいのです。大量輸送を念頭に置いていた道路網は、需要予測が人口減少期の実態と乖離(かいり)していますから、維持管理費不足で放置される道路が出る可能性さえあります。

今後は人口減少期にふさわしい維持管理のプランを考えないといけません。全ての道路を維持管理する必要が本当にあるのか、路線数の縮小なども含めて検討が必要です。維持管理費は基本的に受益者負担ですから、利用者が少ない道路でも、「自分が費用を負担しなくてよいなら」直して欲しいといったモラルハザードも回避しなければなりません。下降する経済力を視野に入れ、徹底して無駄を省く姿勢が求められます。

都市のサイズに合った計画を選択する時代へ人口減少によるプラスの側面もあるのでしょうか。

自治体の都市計画の中には、まだ、明日からは人口が増えるといった幻想を抱いているものがみられます。今後、過疎地の人口が急増するということはありません。過疎地ではあるけれど、豊かに残る自然の魅力を生かして観光を振興するなど、過疎地だからこそできる役割を見つけていくことです。

人口が減ったといっても、そのスケールにふさわしい暮らしはできるはず。北欧で一番人口の多いスウェーデンでも、950万人程度。1人当たりの経済力を維持できれば、暮らしが安定することを体現しています。人口減少はゆとりや環境共生の観点ではプラスに作用しますから、急激に減る時期をしのぎ、その後、どのようにその社会をエンジョイするか考えていかなければなりません。

市民の目線を反映する街づくりに活用が期待される「環境計画支援VR」街づくりに興味を持つ人が増えてきました。

これまで日本人は経済性優先の名の下に都市全体の景観をほとんど考慮しないできました。先に述べた都心居住の場合でも、一戸建て住宅に隣接して高層マンションを建てるといったことを平気で行ってきたのです。そのため、現在の都心居住の姿は便利ではあるが、都市景観的には美しくないという欠点を持っています。人口が減ると土地にゆとりができる、混雑が緩和するなど、良い面もあるので、それらを享受すべきです。

今後の街づくりに際しては、低層住宅の隣に高層ビルが建つとどのような圧迫感があるのか、どれぐらいの高さの建物を配置すべきかなど、景観計画を支援するVR(バーチャルリアリティ)で確認しつつ、地権者の権利も守りながら合意を形成することがますます重要になるでしょう。景観法の施行以降、都市景観への関心が高まっています。一般の人にとって図面では分かりにくい場合でも、VRなら複数のプランを比較しやすく、生活実感も得られます。街づくりの協議に有効に活用できると思います。

都市スケールで日本の技術力をアピールする新しい街に期待するものは何でしょうか。

人口減少が続く日本では、かつてのようなニュータウンを次々と新たに建設する必要はありません。取り組みが進む北九州市城野地区はゼロ・カーボン先進街区としてデザインされています。太陽光・太陽熱のフル活用、電気自動車、コージェネレーションなどの最新技術を導入し、計算上、CO2を一切出さないことを提案する新しい街づくりです。スマートシティはICTや環境技術によって便利さと安全性が確立された街ですから、人口が多くなくても快適に生活できるのです。

スマートシティのメリットを日本人自身が享受するのはもちろんのことですが、上下水道やエネルギーの供給システム、セキュリティ、交通システムなど、日本が誇るインフラ整備のノウハウを都市スケールで対外的にアピールすることも大事です。今後、アジア各国をはじめとする発展途上国は都市化が加速します。第二次世界大戦後、日本は都市化が引き起こした公害や交通渋滞といった諸問題を解決してきたのですから、それらの国々が日本と同じプロセスを歩まなくても、もう少し早く快適な都市を構築できるように貢献できるでしょう。

そして、それは日本の産業にも大いに価値があります。スマートシティが日本の技術のショーウインドウとなる。そうした役割も期待したいものです。

東日本大震災後の街づくりは、どこに集落を造るかから始まる東日本大震災復興構想会議委員のご経験から、復興への思いをお聞かせください。

阪神・淡路大震災は地震と火事による被害であり、防火対策を講じれば同じ場所での再建も可能でした。しかし、東日本大震災は津波による被害。より安全な土地へとの思いが強くあり、集落の高台移転などの計画は200カ所以上に及びます。場合によっては数戸単位のケースもありますが、小さな集落でも全てのインフラ整備が必要で費用は膨大になります。いくつかの集落が並び、中央に病院や学校を配置できれば持続的な街がつくれるのですが、さまざまな事情の違いから、そうした議論にまでいかないのが現状です。高齢化問題もあり、計画時と入居時で条件が変わっている事も予想されます。復興は急がれますが、丁寧にやっていくことが大切です。

東日本大震災後の街づくりは、どこに集落を造るかから始まる
大西 隆 氏
1948年、愛媛県生まれ。東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻教授、東京大学先端科学技術研究センター教授、日本学術会議会長、総合科学技術会議議員、日本計画行政学会会長(現職)。日本都市計画学会会長、日本テレワーク学会代表幹事、国際都市住宅連合評議員、東日本大震災復興構想会議委員など(歴任)。