監修者前野 隆司 (MAENO TAKASHI )
近年は、経営・経済の世界でもウェルビーイング(Well-Being)の概念が浸透しつつあります。経済活動やその基盤となる組織、所属コミュニティや個人など、あらゆるものを取り巻く環境が複雑化し、変化が激しいため、将来の予測が難しい時代です。
さらに新型コロナウイルスのパンデミックは社会全体の変化を加速させ、あらためて「幸せとは何か」「我々はどこに向かうべきか」を問い直す契機となりました。このような状況にあって、経済的な豊かさだけを求める価値観に変化が生じ、それに伴って「ウェルビーイング経営」に注目が集まるようになりました。
ウェルビーイング経営とは、どのようなものでしょうか。企業と社員に何をもたらすのでしょうか。本記事では、ウェルビーイング経営について、その概念と重要性、メリット、導入手法について解説します。
ウェルビーイング経営とは
ウェルビーイング経営とはどのようなものでしょうか。このテーマでは、ウェルビーイングの概念、ウェルビーイング経営の定義を紹介します。
ウェルビーイングとは
厚生労働省はウェルビーイングを次のように定義しています。
「ウェルビーイングとは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」
つまり、ウェルビーイングは心身が豊かな状態である幸福だけでなく、それに社会的福祉を合わせた、心と体と社会のよい状態を指す概念であると捉えることが重要です。
ウェルビーイングを左右する4つの因子
ウェルビーイングの研究の第一人者である慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は「幸せの4つの因子」を提唱しています。ウェルビーイングの研究成果にはさまざまなものがありますが、次の因子は日本人に即した分析結果だといえます。
因子01 やってみよう
やりがいや強みを持ち、夢や目標に向かって成長できる人は幸せである。
因子02 ありがとう
つながりや感謝、利他性や思いやりを持つことは幸せである。
因子03 なんとかなる
チャレンジ精神を持ち、前向きかつ楽観的で、何事もなんとかなると思える、ポジティブな人は幸せである。
因子04 ありのままに
独立性と自分らしさを保つこと。自分を他者と比べすぎず、しっかりとした自分らしさを持っている人、本来の自分らしさを自覚している人は幸せである。
ウェルビーイング経営の定義
2021年9月の「第1回日経Well-beingシンポジウム」では、ウェルビーイング経営を以下のように定義しています。
「事業を通じてすべてのステークホルダーの充実や幸せ実感を向上させることにより自社の成長と持続可能な社会の実現を目指す経営」
すべてのステークホルダーとあるように、ウェルビーイング経営の対象は社員にとどまりません。例えば、製品やサービスをつくる際に、設計の段階でウェルビーイングの観点を取り入れ、顧客のウェルビーイングの実現につながるものが提供できれば、その経営は顧客のウェルビーイングにも寄与することになります。
また、ウェルビーイング経営が軌道にのれば、業績が伸びるだけでなく、企業はその社会的責任を果たすことができ、企業価値が高まります。そうすれば、経営者や株主のウェルビーイングも向上するでしょう。ウェルビーイング経営は、事業に関わるすべてのステークホルダーのウェルビーイング向上を目指す経営です。
<参考>
「雇用政策研究会報告書
人口減少・社会構造の変化の中で、ウェル・ビーイングの向上と生産性向上の好循環、多様な活躍に向けて」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000532355.pdf
「ウェルビーイングレポート日本版2022」(ウェルビーイング学会)
https://society-of-wellbeing.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/Well-Being_report2022.pdf
「Well-being Initiative」(日本経済新聞社)
https://well-being.nikkei.com/
「ウェルビーイング経営」(地方経済総合研究所)
https://www.reri.or.jp/kanri/wp-content/uploads/2022/03/44b697d01eb629b363c75325af6786f1.pdf
ウェルビーイング経営と健康経営との違い
ウェルビーイング経営とよく似たものに「健康経営」があります。これらの違いはどこにあるのでしょうか。厚生労働省は「健康経営」を次のように定義、説明しています。
「健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが将来的に収益性等を高める投資であるとの考えのもと、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」
「企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へつながることが期待される」
健康経営が社員の心と体のよい状態を目指す点、また結果的に業績や企業価値を高めることが期待できる点も、ウェルビーイング経営と合致しています。ただウェルビーイングは心と体だけではなく、「社会の良好な状態」を含みます。
さらにウェルビーイング経営の対象は社員にとどまらず、企業経営に関わるすべてのステークホルダーまで視野に入れています。つまり、ウェルビーイング経営は健康経営を包摂するより広い概念と捉えることが重要です。
<参考>
「健康経営の推進について」(経済産業省 ヘルスケア産業課)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeiei_gaiyo.pdf
ウェルビーイング経営が注目される背景
今、なぜウェルビーイング経営は注目されているのでしょうか。このテーマでは、その背景を探ります。
ウェルビーイング経営が求められる時代背景
ウェルビーイング経営が推進されつつある背景には、時代の要請があります。
少子高齢化による人材不足
まず1つの要因として挙げられるのは、少子高齢化による人材不足です。このままの状況が続くと、日本の生産年齢(15歳~64歳)人口の割合は2020~2050年にかけて59%から52%に、人口は約7,500万人から約5,200万人になり、約2,300万人減少すると推計されています。
<参考>
「新しい健康社会の実現」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/013_03_00.pdf
今後も少子高齢化が進めば生産年齢人口は減少し、人材確保はますます難しくなり、これ以上の経済成長は望めなくなるでしょう。こうした状況を改善するには、どうしたらいいでしょうか。
1つの考え方としては、従業員エンゲージメントを高め、今後ますます貴重となる人材に、自社で長く働いてもらうことです。また、別の解釈をすれば、物の豊かさばかりを追求するのではなく、心の豊かさにも目を向ける時機が到来したといえるでしょう。
SDGsに対する意識の高まり
SDGsの目標3には「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し,福祉を促進する」と書かれてあります。英語では「Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages」とあり、「Well-Being」は日本語訳で「福祉」となっています。要するに、ウェルビーイングはSDGsの一部であると解釈できるかもしれません。
しかし、実は、ウェルビーイングの方がSDGsを包摂する概念だと考えることもできます。SDGsは経済と社会と環境のバランスを図りつつ、あらゆる貧困をなくし、世界中の人々が一人残らず幸せに暮らし続けられる「持続可能な世界」を実現するための目標です。したがって、SDGsは17の目標すべてで、ウェルビーイングの実現を目指しているともいえます。
国も社会のサステナビリティ(持続可能性)と企業のサステナビリティの同期化を目指す「SX (サステナビリティ・トランスフォーメーション)」を推進しています。同期化とは、企業が社会の持続可能性に貢献する長期的な価値提供を行い、そのことを通じて「社会の持続可能性の向上を図る」「自社の持続的な稼ぐ力を向上させ、さらなる価値創出へとつなげる」という循環を指します。
つまり、こうした時代の要請に応えることがウェルビーイング経営の本質的な意味だと考えられます。
企業が果たすべき社会貢献
企業が自社の利潤だけを追い求める時代は過ぎ去りつつあります。現在は企業にも社会貢献が求められ、その責任を果たすことによって企業価値が高まる時代です。経済産業省は「企業の社会的責任」を次のように定義しています。
「企業の社会的責任とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します」
まさにウェルビーイング経営を通じて実践できる社会貢献といえるでしょう。
<参考>
「新しい健康社会の実現」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/013_03_00.pdf
『ウェルビーイング』(前野隆司・前野マドカ, 日経文庫)
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000270935.pdf
「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable
Development」(国際連合)
https://sdgs.un.org/2030agenda
「伊藤レポート 3.0 (SX
版伊藤レポート)サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX
研究会)報告書」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport3.0.pdf
「価値創造経営、開示・対話、企業会計、CSR(企業の社会的責任)について」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/index.html
ウェルビーイング経営の重要性
企業がウェルビーイング経営に取り組む局面に向き合う時期に来ていることは、産官学の動向とも関連しています。国の施策、研究成果、そして産業界の動きをそれぞれ紹介します。
国の施策
国は「人的資本経営」の推進に乗り出しています。人的資本経営とは、平たくいうと人材を大切にしていい状態で働いてもらうことでパフォーマンスを向上させ、それを企業価値の向上につなげようとする経営です。そう考えると、人的資本経営とウェルビーイング経営は深くつながっています。
2022年に、経済産業省は人的資本経営の実現に向けた検討会の報告書「人材版伊藤レポート 2.0」を公表しました。
同検討会の座長を務めた一橋大学CFO教育研究の伊藤邦雄センター長は、同レポートの冒頭で「日本企業は総じて社員を本当に大事にしてきただろうか」と問いかけます。そして、Well-Beingは心身を健康にするだけでなく、熱意や活力を持って働くことを実現し、エンゲージメント向上につながる重要な視点だと述べています。
前述した健康経営も働き方改革も、人を大切にするという施策の一環です。働き方改革は、労働者が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするために導入された改革です。少子高齢化による働き手不足という課題を解決するためには、女性や高齢者にも労働参加を促し労働市場を活性化する仕組みが必要です。それが成功し職場のダイバーシティが実現すれば、イノベーションによる生産性向上を目指せます。
そこで、国は「非正規雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」という方針を掲げ、働き過ぎを防ぎながらワーク・ライフ・バランスを実現し、労働者の一人ひとりが自分の望む柔軟な働き方がしやすい環境を整備しようとしています。
ただ、制度を整えるだけでは働き方改革は実現しません。社会で働く一人ひとりが温かい心で他者に向き合い、感動や喜び、悲しみなどを共有し、わかり合い、助言し合う、愛のある職場づくりが必要です。社会全体にウェルビーイングの観点を取り込むことが、本来的な意味での働き方改革を促進することにつながります。
研究成果と産業界への要請
近年はウェルビーイングの研究が数多く行われ、その結果からさまざまなことが明らかになってきました。例えば、幸福な社員はそうでない社員に比べてパフォーマンスがよく、仕事に対する満足度が高く、離職率も低いといったデータが出ています。ところが、残念ながら日本人の幸福度は高くありません。
Gallup World Pollの調査によると、2006年から2018年までGDPは上昇していたにも関わらず、ウェルビーイング実感が高かった人の割合は、33%から22%にまで下がっています。これでは社員が生き生きと働き、生産性が高まることは期待できません。国の施策、研究結果、日本人の幸福度の低さを見ると、ウェルビーイング経営に取り組むことは企業にとって大切なことだといえます。
<参考>
「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書
~人材版伊藤レポート2.0~」(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
「ウェルビーイングレポート日本版2022」(ウェルビーイング学会)
https://society-of-wellbeing.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/Well-Being_report2022.pdf
ウェルビーイング経営の導入メリット
ウェルビーイング経営を導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
幸せな社員は企業に利益をもたらす
これまでの研究結果から、幸福度と社員のパフォーマンスや従業員エンゲージメントとの密接な関係がわかっています。例えば、幸福度の高い従業員の創造性はそうではない社員に比べて3倍、生産性は31%、売上は37%、それぞれ高いというデータがあります。また、欠勤率は41%、離職率は59%、業務上の事故は70%少ないという研究結果もあります。
従業員が成長し、職場で活力を維持できるように支援している組織では、従業員は将来にも目を向けた活動をしており、そうした特徴を持つ社員は、そうでない同世代の社員に比べて、組織へのコミットメントが32%、仕事への満足度が46%高いという報告もあります。
このようなデータはアメリカやイギリスのものが多いですが、ウェルビーイングの研究者・前野隆司教授によると、幸福度の高い社員に関する特徴は日本で働く社員にも当てはまり、こうしたデータが集まり始めているそうです。
組織の見直しに有益な視点をもたらす
組織のあり方は企業のパフォーマンスに大きな影響を与えます。最近注目されているティール組織と呼ばれる次世代型自主経営組織では、組織は社長や株主のものではなく、組織に関わるすべての人のものと捉え、マネジメントには従業員全員が参画します。そして、「ありのままの自分」で、自分らしく働きます。
ティール組織は従業員エンゲージメントが高く、離職率が低いのと同時に事業成績がよく、収益も多いことで知られています。こうしたティール組織のあり方はウェルビーイング経営とも類似点であり、組織を見直す上でウェルビーイングの視点を取り入れることが、よりよい組織づくりに役立つことを示唆しています。
<参考>
「Creating Sustainable Performance」(Gretchen M.
Spreitzer・Chistine Porath, Harvard Business Review)
https://hbr.org/2012/01/creating-sustainable-performance
「ウェルビーイング」(前野隆司・前野マドカ/日経文庫)
「ティール組織
マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」(フレデリック・ラル―著/鈴木立哉訳/英治出版社)
ウェルビーイング経営を実現するための企業の取り組み
次に、先進的なウェルビーイング経営の取り組み事例を紹介します。
事例01 西精工株式会社
1つ目の事例は、従業員250人の製造業、西精工株式会社です。社内調査で90%の社員が「月曜日に出社するのが楽しみ」と答える会社です。現在の社長が入社した1998年当初はあいさつが少なく、暗い雰囲気だったといいます。
そこで、新たな企業風土をつくって会社を変えていくために、「モノづくりを通じてみんなが物心共に豊かになり、人々の幸福・社会の発展に貢献すること」のような経営理念を掲げました。この背景には、「働きがいを感じることこそが働き方改革であり、仕事に幸せを感じれば生産性は上がっていく」という考えがあるといいます。
同社はコミュニケーションを大切にしています。朝礼は毎日1時間。それぞれのミッションと予定の共有、その日の改善点などを話し合います。ほかにも、あいさつと掃除を徹底しているそうです。あいさつをする人はしない人より幸せであるという研究結果もあります。また、生活環境を整えれば、心もきれいに整います。
こうした取り組みについて、ウェルビーイングの研究者・前野隆司教授は「ウェルビーイング経営は難しそうに見えて、その本質にコミットしてさえいれば、案外シンプルな方法で実現できるものである」と語ります。
事例02 サイボウズ株式会社
2つ目の事例はサイボウズ株式会社です。かつて28%という離職率の高さに苦しんでいたといいます。社員が辞めない会社にするためには、辞めたくなった社員の話をよく聞いて、辞めたくならない人事制度をつくろうと同社の社長は考えたそうです。
例えば、週3日勤務にしてほしい社員は週3日勤務に、残業をしたくない社員は残業しなくてもいいように、また一旦離職しても戻ってきたい人は戻ってこられるようにするなど、それぞれの社員が働き続けたくなる制度を設けました。
自社には多様性がないと考えるのではなく、すでに多様なメンバーが集まっていると捉え、従業員一人ひとりの個性が違うことを前提にそれぞれが望む働き方や報酬が実現すればよいと考え、個性を重んじることで社員の幸福を追求するという姿勢です。
このように社員の多様な要望に応じているうちに離職率は4%へと劇的に下がり、売上は順調に伸びました。
<参考>
「サイボウズにおける
副業(複業)の推進事例」(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hukugyo/2016/161226hukugyo03.pdf
これらの事例が示しているのは、社員を幸せにすれば一人ひとりが生き生きと働くようになり、その結果、売上も伸びるということです。2社の取り組みは、社員のウェルビーイングを中心に考えることが結果的に収益アップ、事業の安定化につながることの好事例といっていいでしょう。
<参考>
「理念を土台にした「対話型働きがい」改革―パーツ・ナット製造販売「西精工」の場合―」
(厚生労働省)
https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/casestudy/file062/
「サイボウズにおける
副業(複業)の推進事例」(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hukugyo/2016/161226hukugyo03.pdf
参考「ウェルビーイング」(前野隆司・前野マドカ/日経文庫)
経営にウェルビーイングを取り入れるポイント
実際にウェルビーイングを経営に取り入れるにはどうしたらいいのでしょうか。ウェルビーイングの研究者・前野隆司教授が提唱する「幸せの四つの因子」をもとにして考えましょう。
仕事にワクワク感やときめきを見いだす
これは「やってみよう」因子に関わることです。同じ仕事でも、単純作業でつまらないと思うか、人のためになる仕事だからとやりがいを感じるかで、幸福度が変わってきます。
仕事にワクワク感やときめきを見いだすためには、視野を広げて、自分がやっていることは何につながっていくか考えることが有益です。社員にそのような視点が備わるためにはどうしたらいいのか配慮することが大切です。
つながりと感謝を持つ
「ありがとう」因子に関わるのは、対話です。例えば、近年は「1on1ミーティング」が普及しています。上司と部下が1対1で軽い相談事や身の上話をするミーティングは、幸福度を高めるのに効果的です。
ただし、それが形骸化していないか見直すことが必要です。重要なのは傾聴してじっくり相手の話を聞き、相手に自己開示してもらうことです。途中で話を遮らず、批判せずにじっくり会話します。
また、何に対しても感謝し、思いやりや気遣いを持って他者と接し、利他的な行為を行うことも、幸福度を高めます。みんなが自然とそのような態度がとれるような企業文化の醸成や仕組みづくりが必要でしょう。
独立性と自分らしさを保つ
「ありのままに」因子を高めるためには、自分らしさを保つことです。ティール組織では、みんながありのままの自分で自分らしく働いています。自己を確立して、自分らしさを自覚することが、幸福度アップにつながります。
自己を確立するためには、創造性を発揮するようなことに挑戦するのも効果的です。社員がその創造性を発揮できる機会を確保するのも重要なポイントです。気の持ちようが要因となって状態が変わり、その変化によって気持ちが変わります。態度と幸福度は関連し合っています。
さらに「幸せの四つの因子」について、できている点とできていない点を書き出して分析し、改善アイデアを出せば、必ず幸せなる方法がみつかるはずだと、前野教授は述べています。
心地よい空間がウェルビーイング経営をサポートする
ウェルビーイング経営には、従業員エンゲージメントやワーク・ライフ・バランスを高める施策は欠かせないことであり、それらは社員のウェルビーイングにつながります。働く空間づくりはその取り組みの一環であり、社員一人ひとりが心地よくすごせる職場は組織の生産性・エンゲージを高める要素です。
ウェルビーイングの研究者・前野隆司教授は「みんなが利他的になる、助け合うオフィスとはどういうものか。具体的には、コミュニケーションがとりたくなる、やる気が出る、モチベーションが上がるなどポジティブな行動を起こせるようなオフィスをつくるにはどうすればいいのかを考えたオフィスづくりが大切です」と語ります。
近年では、フリーアドレスで好きな場所で作業ができるのはもちろん、カフェコーナーや仮眠室を設置するなどホッと一息つけるスペースをつくり、社員が快適にすごせること、心地よくコミュニケーションできることなどを目的に空間に対してさまざまなアプローチを行う企業も出てきています。
社員が快適で健康的に働けるオフィスに”リチャージ”できる場所を。
オフィス改善という点では、「WELL認証」といわれるグローバルな評価制度が注目されています。人が健康に過ごすための空間とは何かという観点で10項目の評価基準を設けており、その中には「心」「音」「光」「空気」などが含まれています。
WELL認証の取得を目指すことで、企業が働く社員に寄り添った心地よい空間を構築し、従業員満足度をはじめ、エンゲージメントや生産性の向上、離職率改善などが期待できます。職場環境を通して心身のヘルスケアサポートをすることは社会的な企業価値を引き上げることにもつながり、ウェルビーイング経営をサポートすることは間違いありません。
WELL認証の基本を分かりやすく解説
監修者
前野 隆司
東京工業大学卒業後、1986年に同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て、現在は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の教授を務めながら、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼務。博士(工学)。専門はシステムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。著書に「幸せのメカニズム」(講談社現代新書/2013年)、「幸せな職場の経営学」(小学館/2019年)、「ウェルビーイング」(日経文庫/2022年)など多数。
WELL認証を詳しく知りたい人はこちらの資料をダウンロード
オフィスは1日の大半を過ごす空間でもあるため、オフィス環境を整備することは従業員の健康維持にも直結する重要な取り組みです。働きやすいオフィスと一口にいってもさまざまな定義や基準がありますが、国際的な認証であるWELL認証を取得することで、ESG経営にも貢献できるでしょう。
オフィス移転や改装を考えている方は、健康経営実現のために、ぜひこの機会にWELL認証の取得を検討してみてはいかがでしょうか。