- 本記事の概要
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- WELL認証は新築のみが対象だと誤解されていますが、築30年以上の建物でも取得可能です。大規模改修が不要なケースもあります。事例としてパナソニック株式会社を紹介します。
- WELL認証の建物の評価項目は全体の30%です。その評価については建築基準法を満たしていれば比較的容易にクリア可能ですが、特殊要件を含む評価項目もあります。
- WELL認証はウェルビーイングに影響する「空気や水、光や音、心やコミュニティなど10のコンセプトに基づいた空間全体の健康・快適性能」を評価します。そのため、ウェルビーイングを測る定量指標とも捉えられることを説明します。
WELL認証は「新築でなければ取得できない」という誤解があるようです。実際には、築30年以上のオフィスがWELL認証のゴールド認証を受けた事例があり、大規模な改修が不要なケースもあります。
WELL認証における「建築工事」の割合は、評価項目全体の30%にすぎません。WELL認証とは空間のデザイン・構築・運用だけでなく、ウェルビーイングという視点からさまざまな要素を評価し、人にとってよりよい空間の創造を目指す評価システムです。
本記事では、既築のオフィスが認証取得した事例を交えながら、「WELL認証の評価項目がどのようなものなのか」を紹介します。
WELL認証とは
従業員が働くオフィスは、大切な空間です。重要なポイントは「働く人が健康で幸せにすごせること」。そのようなオフィスであれば、従業員エンゲージメントは自ずと向上し、生産性も高まることが期待できるでしょう。
近年、世界的にWELL 認証の取得を目指す企業が増えています。WELL認証はウェルビーイングの観点からオフィスやビルなどの空間を評価し、ストレスのないワークプレイスを目指す評価システムです。ウェルビーイングな環境づくりの実現に向けて、建物そのものを充実させるだけでなく、オフィスを利用する人の健康や快適性に配慮した環境整備を促進させる取り組みも含まれています。
WELL認証は「新築でないと取得できない」という誤解
WELL認証は「新築でなければ取得できない」という誤解があるようです。しかし、既築のオフィスやビルを改修してもWELL認証の取得は可能なケースもあります。そこで、既築のオフィスが認証を取得した事例を交えながら、WELL認証取得が「新築だけが条件ではないこと」を解説します。
WELL認証は既築物件でも取得可能
既築のオフィスでWELL認証を取得した弊社の事例を紹介します。
築年数30年以上でもWELL認証を取得している「パナソニック 大阪門真オフィス」
パナソニックは、1981年竣工の大阪門真オフィスをはじめ、2003年に竣工したパナソニック東京汐留ビルなどでもWELL認証を取得しています。
まず、WELL認証には2種類あります。「WELLv2」は空間全体の健康・快適性を評価する制度です。もう1つの「WELL Health-Safety Rating」(以下、「WHSR」)は自然災害や感染症など緊急時の対応取り組みに特化した制度です。パナソニックの大阪門真オフィスは、WELLv2のプラチナを取得しています。
大規模改修不要でWELL認証を取得できるケースもある
WELL認証は既築のオフィスでも取得可能なだけでなく、大規模な改修が不要な場合もあります。このテーマでは、WELL認証の1つ「WELLv2」に焦点を当てて見ていきます。
WELL認証の建物評価に関する項目は全体の30%
WELLv2のすべての評価項目のうち、「建築工事」が占める割合は30%にすぎません。下記の内訳では「人事総務」など分野も重視されており、WELLv2は企業に建物だけでなく、ウェルビーイングに関連したさまざまな取り組みを求めていることがわかります。
- 建築工事:30%
- 内装工事:21%
- 人事総務:30%
- ビル管理:19%
WELL認証取得を希望する従業員の多くが「職場環境改善」を期待する
パナソニックが実施した「『職場のウェルビーイング』実態調査」によると、自社のWELL認証取得を希望する理由として、多くの社員が「職場環境の改善に対する期待」を挙げています。例えば、下記のような回答が見られました。
- 快適にすごせるほうが仕事をする際に気持ちがいいし、効率よく働ける
- 何より安心安全な職場がいいから
- 客観的に環境整備の度合いを図ることができるから
従業員がWELL認証取得を希望するのは建物そのものではなく、職場環境の改善への期待です。
WELL認証の建物評価の必須項目は建築基準法を満たしていれば比較的容易にクリアが可能
日本の建築基準法には、建築物の敷地や構造、設備、用途に関する最低基準が定められています。第一条には「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする」と記載されています。
WELLv2の評価項目には必須項目と加点項目がありますが、建築基準法を満たしていれば、必須項目は比較的容易にクリア可能です。それは、WELL認証の評価項目には、建築基準法の理念や法律が求める機能と重なり合う部分が多くあるからです。
WELL認証の建物評価の加点項目には特殊要件が含まれる
建築物に関する評価基準にはMERV基準のフィルタの設置、UVGIの設置など、特殊な要件が盛り込まれている内容もあります。日本の建築基準法でWELLv2の全評価項目をカバーできるわけではないので、注意が必要です。
【まとめ】日本の建築基準法に則った建物は大規模改修が不要なケースがある
WELL認証のWELLv2は全評価項目のうち「建築工事」にかかわるものは30%にすぎず、既築の建物であっても日本の建築基準法に則っていれば、大規模な改修をせずに認定取得できるケースもあります。
それは、WELL認証という評価システムが「人の健康とウェルビーイングをサポートする環境づくりとしてのオフィス空間を評価する」制度だからです。
WELL認証のオフィス空間評価は従業員のウェルビーイング向上を目的とする
WELL認証は建物自体を評価することが目的ではなく、従業員のウェルビーイングを向上させるための評価指標です。従業員のウェルビーイングを向上させるためのオフィスを実現するためには、どのような評価が必要なのでしょうか。まず、WELLv2に焦点を当てて具体的に評価項目を見ていきましょう。
WELL認証のオフィス空間評価はウェルビーイングを高めるための評価項目で構成される
WELLv2はウェルビーイングに影響する、空気や光、音、水などの10コンセプトに基づいて空間全体の健康・快適性能を評価します。
10のコンセプトには、それぞれに関連する評価項目が設定されており、必須24項目のすべてをクリアすることが取得条件です。その上で、加点項目でクリアされた加点数によって、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズのいずれかのランクが付与されます。
例えば、コンセプト「NOURISHMENT(栄養)」の必須項目「果物と野菜」は、オフィスで食品を日常的に提供する場合、果物や野菜の提供と摂取促進を義務づけています。その根拠として挙げられているのは、以下の医学的なエビデンスです。
- 野菜と果物の摂取量が多いほど心血管疾患、肥満、2型糖尿病、脳卒中、ある種のガンのリスクが低下し、体重管理も改善されるにもかかわらず、ほとんどの人が推奨される1日400gの量を摂取していない
そこで、オフィスに置く食品には、砂糖無添加の果物と揚げていない野菜をそれぞれ少なくとも2種類ずつ用意することが示されています。また、野菜と果物は目につきやすく、取りやすい場所に置くという環境づくりをすることなどの指針が提示されています。
さらに、同コンセプトの加点項目「Refined Ingredients(精製材料)」のパート1は「糖質制限」です。加糖、精製穀物、トランス脂肪酸を含む高度に加工された食品を摂取する食生活は、世界的に死亡率・罹患率の第2位の危険因子であり、そのリスクによる死亡者は全死亡者の8%を占めるというデータが示されています。その上で、オフィスに置く飲みものや食品は1包装、または1食あたり25gを超える糖質を含まないことが指針として提示されています。
もう1つ例を挙げましょう。
コンセプト「THERMAL COMFORT(温熱快適性)」では、オフィスワーカーの41%の人が温熱環境に不満を抱いていることを挙げ、従業員のパフォーマンスは暑い環境では平均15%、寒い環境では平均14%低下するというエビデンスを示しています。
その上で、「Thermal Performance(温熱環境の性能)」では、エアコンによって温度調整する場合と自然調整の場合、それらが組み合わさった場合のそれぞれについて、温熱環境に関する厳しい条件を具体的な数値で示しています。
以下の図は、パナソニック 大阪本社オフィスの「Thermal Comfort(温熱快適性)」に関する取り組みです。
<参考>
WELL認証は企業のウェルビーイングを測る定量指標
「WELL認証のオフィス空間評価はウェルビーイングを高めるための評価項目で構成される」で取り上げた例からもわかるように、WELL認証の評価項目はオフィスで働く人のウェルビーイングに影響を与えるさまざまな要素について、医学的研究や調査に裏づけられたエビデンスに基づく、詳細な情報と厳しい指針を示しています。
こういったことから、WELL認証は「企業のウェルビーイングを測る定量指標」とも捉えることができます。
パナソニックでは、WELL認証取得支援サービスを実施しています。WELL認証の取得は空間の環境計測から設備改善、申請・審査と対応することが多岐にわたるため、この支援サービスでは測定業務や申請資料の作成など実務サポートも行っています。
創業から100年以上、生活家電など多彩な製品開発を通して、人々が快適に暮らす環境づくりをしてきました。暮らしの快適さを定量的に測り、住空間を改善してきた経験と技術を生かしてウェルビーイングなオフィス空間の実現を支援いたします。
多くの方が誤認している
2つの間違い
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オフィスは1日の大半を過ごす空間でもあるため、オフィス環境を整備することは従業員の健康維持にも直結する重要な取り組みです。働きやすいオフィスと一口にいってもさまざまな定義や基準がありますが、国際的な認証であるWELL認証を取得することで、ESG経営にも貢献できるでしょう。
オフィス移転や改装を考えている方は、健康経営実現のために、ぜひこの機会にWELL認証の取得を検討してみてはいかがでしょうか。