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『WELL認証』をわかりやすく解説!メリットや認証取得のよくある誤解についてアドバイス

WELL認証とは「企業のウェルビーイングを評価する」指標
箱田 秀考 (HAKODA HIDETAKA)

監修者
パナソニック株式会社
エレクトリックワークス社
ソリューションエンジニアリング本部
WELL AP コンサルタント
箱田 秀考
(HAKODA HIDETAKA)

近年、WELL認証が注目されています。その背景として投資家が人的資本経営に着目し、ウェルビーイングへの関心が高まっていることが挙げられます 。

ウェルビーイングとは、身体的にも精神的にも社会的にも満たされた状態のことです。WELL認証は、心身の健康=ウェルネスという視点を取り入れた「空間(オフィスや施設など)を評価するシステム」のことです。それを通して、企業はウェルビーイングを高める取り組みを実施します。

本記事では、WELL認証の基本について解説します。

WELL認証とは「企業のウェルビーイングを評価する」指標

はじめに、WELL認証の概要と、WELL認証に注目が集まっている背景について紹介します。

WELL認証とは?

WELL認証とは、米国のDelos社が開発した「建築物の空間評価システム」です。2014年にスタートし、2023年までに世界で15,681件のプロジェクト登録が行われていますが、今後導入は加速すると見られています。

特徴は、効率的なスペースの使い方や生産性を向上させる仕組みなど、人間工学的な側面の評価だけでなく、空間で過ごす人間のウェルネスを重視している点です。

同じように建築、都市空間を評価するグローバル指標にLEEDがあります。LEEDの評価軸は、省エネルギーや省資源を含めた総合的な環境性能にあります。それに対し、WELL認証は心身の健康とウェルビーイングに影響を与えるさまざまな機能を、測定・評価・認証するパフォーマンスベースの評価システムである点に大きな違いがあります。

WELL認証の解説図

従業員の健康は企業の継続性に大きく影響を及ぼします。従業員が健康でなければ、企業は事業を行うことができず、存続が難しくなります。また、WELL認証を取得することによって企業の福利厚生制度や人事部門が評価され、企業イメージの向上や人材確保に寄与することも期待できます。

WELL認証は企業評価指標

WELL認証が注目されている背景 

WELL認証が注目されている背景には、どのような状況があるのでしょうか。

  1. 投資家が人的資本経営に注目し、ウェルビーイングに関心が高まっている 

まず、投資家が人的資本経営に注目し、ウェルビーイングへの関心が高まっていることが挙げられます。人的資本とは、人材が価値創造の源泉である「資本」としての性質を持つことに着目した表現です。

経済産業省は、「人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しています。人的資本、つまり従業員への投資は経営戦略・施策の推進を支える基盤として、財務指標の改善や資本効率の向上、ひいては企業価値の向上をもたらすドライバーとなり得るものだと認識されています。

そのような文脈から、従業員のウェルビーイング向上のための健康づくりを「コスト」ではなく「投資」として捉え、人的資本投資の一環として健康経営に取り組む企業も増えてきました。

ウェルビーイング投資について

  1. 有価証券報告書やサスティナビリティレポートで人的資本を開示する動きがある 

こうした動向を受け、2023年1月には「企業内容などの開示に関する内閣府令」の一部が改正され、有価証券報告書を発行する約4,000社の企業を対象に、同年3月期決算から人的資本に関する情報開示が義務化されました。

また、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報のうち、「社会(人的資本、多様性など)」の開示例として健康経営の取り組みを記載する企業もあります。こうした流れと呼応して、従業員の健康と生産性向上を目的としたWELL認証に注目が集まっています。

WELL認証を取得するメリット 

次に、WELL認証を取得するメリットは「人的資本経営の一環として健康経営を促進することによってもたらされる効果」という観点から捉えることができます。

下記の図は、ステークホルダーとの関係から見た健康経営のメリットです。

ステークホルダーとの関係から見た健康経営のメリット

従業員のウェルビーイングを目指した取り組みには、さまざまなメリットがあるといわれています。それらを具体的に5つ紹介します。

1.従業員のエンゲージメント向上 

1つは、従業員からの信頼を高められるといわれています。内閣官房は、社員エンゲージメントを高めるための取り組みの1つに、「健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み」を挙げています。

2024年にWELL認証のWELLv2プラチナ認証を取得したパナソニック株式会社の大阪オフィスで、実感が一番大きかった効果は社員満足度の向上でした。同オフィスでは、社員満足度を定期的にアンケート調査していますが、WELL認証未取得オフィスと比較するとオフィス環境に関する項目の満足度が平均で10ポイント高くなり、エンゲージメントの値も平均5ポイント向上しました。さらに、WELL-Beingの平均値が8ポイントも高くなっています。

WELL-Being調査「WELL認証の取得オフィスと未取得オフィスの違い」

2.人材確保 

健康経営によって就職希望者から得られる信頼は、人材確保につながる可能性があります。実際に、採用活動で健康経営を活用する企業が増加しており、人材獲得におけるアピールポイントの1つとなっています。

パナソニック株式会社の大阪オフィスはインターン生の見学や実習に同オフィスを利用していますが、インターン生から「このオフィスで働きたい」という感想が聞かれ、採用活動への手応えを感じています。

経済産業省によると、健康経営に積極的に取り組む企業の離職率も低い傾向にあるといわれています。離職率の全国平均が11.1%なのに対して、「健康経営銘柄2023」に認定された企業の平均は2.2%と、全国平均のわずか1/5程度です。

3.生産性の向上

従業員エンゲージメントの向上は、生産性を高めるといわれています。下記の図で示すとおり、WELL認証取得3年後のROI(投資利益率)は360%に上ることが報告されています。

「WELL 認証」取得と従業員の生産性向上の関係

4.不動産価値の向上

WELL認証の基準に準拠した空間設計は労働環境がよいため、不動産価値が向上し、テナント誘致に有利となったり、賃料のアップにつながるなどのメリットもあります。

5.企業のブランディング

健康経営などウェルビーイングに関する取り組みは、企業のブランディングにもつながります。例えば、採用活動時に「健康経営有料法人ロゴマーク」が利用可能になるなど労働市場においてアピールできるようになります。

また、健康経営に取り組んでいる状況を投資家向けに発信する企業が増加するとともに、投資家が健康経営を評価する動きが拡大しています。企業の健康経営を支援する自治体、金融機関が増えるなど、従業員のウェルビーイングを目指した取り組みは企業のブランディングという側面からも有益に働いている傾向にあります。

WELL認証の種類と評価項目

WELL認証には、2種類あります。それぞれどのような内容なのか解説します。

WELL Building Standard v2(WELL v2)

「WELL Building Standard v2(WELL v2)」は、健康的に働ける環境を評価するWELL認証制度です。WELL v2は「健康で安全・快適な環境に関する10のコンセプト+イノベーション」を総合的に評価します。

10のコンセプトとは、「空気」「温熱快適性」「光」「音」「心」「水」「材料」「コミュニティー」「栄養」「運動」です。認証項目数は「必須24項目+加点90項目」で、性能基準もあります。必須24項目をすべて満たすことが認証の要件ですが、加点項目の得点に応じて、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの4つのランクで格付けされます。

認証手続きは書類審査と実施性能検査で、取得に1~2年かかります。

WELL v2

WELL Health-Safety Rating 

もう1つは、感染症対策に特化した「Health-Safety Rating」です。

評価内容は、「清掃・除菌の手順」「緊急時対応計画」「医療サービスリソース」「空気質・水質管理」「ステークホルダーエンゲージメントとコミュニケーション」の5つにイノベーションを加えたものです。認定項目数は28項目で、そのうち15項目以上を任意に選択し、審査をクリアすれば認証を取得できます。

下記の図のとおり、対象の建物はWELL v2が主にオフィスなのに対して、Health-Safety Ratingはホテル、商業施設、スタジアムなど人が集まる施設になっています。

WELL v2 WELL Health-Safety Ratingの詳細

WELL認証は「新築でないと取得できない」という誤解

WELL認証は新築でないと取得できないという誤解があるようですが、WELL認証は既築でも取得できます。

WELL認証は既築でも取得できる

WELL認証の要件は、以下のような割合になっています。

  1. 建築工事:30%
  2. 内装工事:21%
  3. 人事総務:30%
  4. ビル管理:19%

建築の評価は30%に過ぎません。その評価項目は「WELL認証の種類と評価項目」で見たように必須項目、加点項目に分かれますが、日本の建築基準法を満たしていれば、比較的容易に必須項目はクリアできます。したがって、大きな改修が不要な場合もあるのです。

実際に、ビルをリノベーションしたことでWELL認証を取得しているケースもあります。WELL認証取得の必須項目に目を向けても、「心」のコンセプト項目で「自然とのつながり」や「光」のコンセプト項目で「照明設計と評価」などがあり、内装工事で対応できることもあります。

ただし加点項目に関しては、MERV12フィルターの設置、UVGIの設置など、特殊要件が含まれるため、建築基準法ですべてをカバーできませんので注意が必要です。

WELL認証は既築物件でも取得可能

WELL認証は企業のウェルビーイングにつながる

WELL認証は企業のウェルビーイングにつながります。それはなぜでしょうか。

WELL認証は「企業のウェルビーイングを測る」定量指標

WELL認証は、すべての項目が科学的なエビデンスに基づく数値で評価されます。また、下記のグラフは加点項目の取得ポイントによってランクが付与される、定量指標です。

WELL認証は空間的な要素に「人の心と体の健康」という視点を加え、健康空間の実現を目指す評価システムです。その評価項目は多岐にわたり、会社制度や福利厚生など企業の取り組みも含まれています。

WELL認証の評価システム

こうしたWELL認証を取得するための取り組みは、企業のウェルビーイング向上に間違いなくつながります。これを機会に、大きな企業価値をもたらすWELL認証取得を検討してみてはいかがでしょうか。

パナソニックでは、WELL認証取得支援サービスを実施しています。WELL認証の取得は空間の環境計測から設備改善、申請・審査と対応することが多岐にわたるため、この支援サービスでは測定業務や申請資料の作成など実務サポートも行っています。

創業から100年以上、生活家電など多彩な製品開発を通して、人々が快適に暮らす環境づくりをしてきました。暮らしの快適さを定量的に測り、住空間を改善してきた経験と技術を生かしてウェルビーイングなオフィス空間の実現を支援いたします。

箱田 秀考 (HAKODA HIDETAKA)

監修者
パナソニック株式会社
エレクトリックワークス社
ソリューションエンジニアリング本部
WELL AP コンサルタント
箱田 秀考
(HAKODA HIDETAKA)

パナソニック株式会社において20年以上に渡って快適な空間づくりの研究開発を行う。2018年に「WELL AP」を取得。同社にて、グローバルな空間評価指標であるWELL認証コンサル業務を推進し、ウェルビーイングの観点から快適空間づくりをサポートしている。

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WELL認証はESG経営にどうつながる?

経営への効果を知りたい方へ

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オフィスは1日の大半を過ごす空間でもあるため、オフィス環境を整備することは従業員の健康維持にも直結する重要な取り組みです。働きやすいオフィスと一口にいってもさまざまな定義や基準がありますが、国際的な認証であるWELL認証を取得することで、ESG経営にも貢献できるでしょう。

オフィス移転や改装を考えている方は、健康経営実現のために、ぜひこの機会にWELL認証の取得を検討してみてはいかがでしょうか。

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