最適なワークプレイスを考えるためには、業種ではなく、ひとりひとりの職能や役割、つまり働き方=ワークスタイルに視座を移し、観察することが不可欠になっています。
多様化する働き方から読み解く新しいワークプレイス vol.01
【ワークスタイルの再定義】
本記事の概要
働く空間=ワークプレイスのあるべき姿を探ろうとする時、これまでのように業種という大きな分類だけでは、十分にその実態を理解、分析できないことに気がつきます。
それぞれの企業や組織が多角的に事業を拡げてきた結果、ひとつの業種ラベルでは説明できないほど複雑化しているのです。
さらには働き方そのもの、つまりワークスタイルも急速に多様化しています。
また90年代からの情報テクノロジーの浸透により、ノートPCひとつに資料や情報アクセス、コミュニケーションツールが搭載されるようになりました。多くの職種において、人々は「小さな執務空間」を携帯しているような状態にあります。その結果、誰がどんな仕事をしているのか、外見からはほとんど見分けがつかなくなりました。
最適なワークプレイスを考えるためには、業種ではなく、ひとりひとりの職能や役割、つまり働き方=ワークスタイルに視座を移し、観察することが不可欠になっています。
本コラムでは2回に分けて、ワークスタイルの分析とワークプレイスの今日的な変容を考えていきたいと思います。
『多様化する働き方から読み解く新しいワークプレイス vol.02【ワークプレイスの再構築】』は2026年6月頃の公開を予定しています
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ワークスタイルから観察する
業種を超えて
働く空間=ワークプレイスは時代の求める職能と人材、それを後押しするテクノロジー(ソロバンから AIまで)により変化してきました。さらに近年では、環境や人権、男女平等、雇用のあり方、ウェルビーイングなど社会的課題からも大きな影響を受けています。
これまで執務空間は「オフィス」と呼ばれてきました。けれども現在では、多くの業務が個人のコンピュータ上で処理されるようになり、「ホワイトカラーの働き手がいる場所」という従来の定義では捉えきれなくなっています。さらに近年は、(オフィス執務がPCに集約して見えなくなっていることと反比例するかのように)事業内容に応じた特徴的な空間設備や施設――たとえばショールームなどのセミパブリックスペース――と併用したり、機能をハイブリッド化したりするケースが顕著になってきています。
働く空間のテクノロジーの進化(ソロバンからAIへ)
こうした変化を背景に、かつて「オフィス」と呼ばれていた空間は、より広い概念として「ワークプレイス」して再定義されつつあります。
このように、働き方=ワークスタイルが多様で複合的になった背景のもと、従来のような業種(製造業・サービス業・IT 情報通信業)、職種(営業職・事務職・販売職)といった「1 人=1 業種」を前提にした静的な分類では仕事の拠点や働き方を分析することができなくなっています。本コラムでは現在の課題をふまえつつ、ワークスタイルという新しい視座をもちいて実際の働き方の類型化を試みます。
リモートワークの利点と課題
コロナ禍をきっかけに、リモートワークは急速に普及しました。働き手は、通勤ストレスからの解放に加え、働く環境をある程度自分で最適化できる裁量や、集中する時間を選べる自由を経験し、その価値を実感するようになりました。
特に深い集中には各自が場所と時間を選べることが大きい要素であることも広く認識されるようになっています。また育児や介護との両立が可能になり、さらには国内外のどこからでも仕事ができて、多様な人材が多様に働ける柔軟性も重要な利点です。
一方でデメリットも少なからずあります。オンラインのやりとりが中心になることで、偶発的な会話が生まれにくく、オンライン初対面では関係性や信頼を築くことが難しくなります。その結果、チームビルディングには大きな課題を残しました。
文字情報を中心としたコミュニケーションでは誤解も生まれやすく、業務のプロセスが見えにくいので、メンバーの貢献度を評価しにくいといった問題もあります。
また「時間の自由」は、私生活とのメリハリがつけにくく、トラブルが生じた場合など孤立を招きがちで、労働時間管理やメンタルヘルスへの影響も無視できません。
ワークスタイルの新しい類型
①セキュアワーク【空間(場所)の限定】
機密、セキュリティ、設備、装置などの要因から、企業内の特定の場所で行われる仕事を指します。財務、人事など守秘性の高い情報管理が必要な仕事、また大規模なコンピュータ、あるいは特殊装置などを扱う業務です。研究開発施設、製造ライン、データセンター運用などが典型例でしょう。
働く人は勤務時間中ずっと、その場に拘束されるわけではありませんが、リモートではできないのが特徴で、「出社」して執務をする必要があります。機密度にはグラデーションがありますが、組織全体を把握して、管理、決裁をする仕事も含まれます。セキュアワークとそれ以外の仕事のバランス(割合)はそれぞれ違うので、各人のメイン業務と他業務との組み合わせ(ハイブリッドバランス)を把握するのも重要なポイントです。
②フレックスワーク【時間と空間の融通性】
時間と場所に柔軟性のある働き方。フレックスというとおもに時間を指すことが多かった働き方ですが、社内、在宅、サードプレイスなど、働く人の裁量が大きく、自律的なスタイルです。育児や介護など、時間(特に通勤時間)の制約がある働き手も参画しやすくなっています。
実際は出社しても社内でのフレックスワークもソロブースにこもりきりといった状態もあり、空間の抽象化現象も起きています。
③直接対面ワーク(2タイプ)
リアルに人と接して行う仕事には2種類あり、物販、飲食、医療、教育、理美容、イベントなど、不特定多数の相手と対面する働き方です。相手があっての業務なので、時間と場所の限定度合いが高くなっています。ショップ、病院、ホールなど、そのワークプレイスの呼び方はさまざまながら、対面という切り口で捉えることで共通の課題を抽出することができるでしょう。なぜなら、各自の専門スキルはかなり違うものながら、業務そのものと同時に「ホスピタリティ(接遇配慮)」が求められるのが近年の傾向だからです(クレーム回避)。接遇は空間設計に大きく影響する要素でもあります。
もうひとつは、社内の特定メンバー、また取引先などステークホルダーと行う集団的な業務です。会議、 研修、面談、プレゼンテーションなどがあります。こちらもメンバーの時間調整、場所確保などはあります が比較的フレキシブルといえるでしょう。
④間接対人ワーク
メイル、ビデオ通話、電話など間接的にリモートで対応できる業務で、オンライン講師、企業(商品)の問い合わせ窓口、オンライン営業があります。多くの場合、マニュアルが徹底され、属人的な対応ではなく、誰が対応しても同じ返答になることが求められます。
業務の場所はコールセンターのように集約している場合と、個別あるいは小規模のケースもありますが、ユーザーにとってはバーチャルな場所になります。
⑤フィールドワーク
上記④までは、ワークプレイス内部での仕事ですが、外回り営業、現場巡回、保守点検など社外での活動がメインの働き方もあります。業務内容も業務空間も多岐に渡りますが、ワークプレイス自体は取引先の場所であることが大半です。
このことは、メイン業務の事務処理などサブの業務は社内(バックオフィス)で行われることを意味しており、バックオフィス空間については次回のvol.02でも見てみましょう。
⑥ ワーク外ワーク【企業の文化資本を育む】
もうひとつ働く場で見落とすことができない大切な営みは、業務遂行だけではなく時間を共に過ごすことです。自由裁量で働く時間が増えることにより、組織のアイデンティティや帰属意識を共有する機会が減り、仕事への関与度、やりがい、誇りといった組織文化を育む力が弱くなっています。名前をつけがたい状態でありますが、この時間が醸成する集合知、暗黙知は組織や企業を支える重要な文化資本と呼べるでしょう。この領域については次回のコラムで空間設計との関連で考察します。
ワークスタイルからワークプレイスへ
本コラムでは業種や職種に代わり、ワークスタイルという視座から働き方の新しい類型を提示しました。
この分類法により、働き方による要求特性、働く場所の拘束度、対人関係、セキュリティ、時間裁量などの要件が明らかになっています。すなわち、どのようなワークスタイルの人にはどのような場(ワークステーション)が必要なのか、どのような出社頻度が望ましいのか、どのような指標で評価制度を考えるのかをより高い解像度で検討することができるはずです。
これまで、専門分野ごとに特殊だった「技術」や「現場」、「業務管理」を横断する共通言語のベースになるでしょう。ひいては制度設計、人事評価、組織運営をサポートし、ワークプレイスの多層的なあり方を示唆します。
ワークスタイルはもはや固定された属性ではなく、1 人ひとりが日々編み上げていく「働き方のストーリー」です。次回のコラムでは、そのストーリーが心地よく展開するための舞台=ワークプレイスについて見ていきましょう。
『多様化する働き方から読み解く新しいワークプレイス vol.02【ワークプレイスの再構築】』は2026年6月頃の公開を予定しています
パナソニック技術部門の具体例を含む、『多様化する働き方から読み解く新しいワークプレイス vol.01【ワークスタイルの再定義】』の記事全文はebookに公開しています。
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最適なワークプレイスを考えるためには、業種ではなく、ひとりひとりの職能や役割、つまり働き方=ワークスタイルに視座を移し、観察することが不可欠になっています。