• FLAT HACHINOHE
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東北新幹線八戸駅周辺では北奥羽地域の玄関口としての都市基盤施設の整備が進む。
八戸駅西地区はアリーナを核としたまちづくりが行われ、2020年4月に多目的アリーナ「FLAT HACHINOHE」が開業した。

「氷都八戸」を演出する
ジャパンオリジナルのアリーナ照明


青森県八戸市は1930年、日本初の全日本スピードスケート選手権大会の開催地となった。明治時代から現在まで、アイススケートが盛んな地域として独自のスポーツ文化を培ってきている。八戸市は「氷都八戸」を標榜し、アイスホッケー、スピードスケート、フィギュアスケートで多くの日本代表クラスの選手を輩出している。日本のウインタースポーツの拠点都市の一つと言っていい。

2020年春、氷都八戸のシンボルとなる新たなスポーツ施設が、東日本旅客鉄道(JR東日本)と青い森鉄道が乗り入れる八戸駅の西地区に完成を迎えた。クロススポーツマーケティング(東京・千代田区)が開発を手がける「FLAT HACHINOHE」だ。

通年型アイスリンクをベースに、アイスホッケーやフィギュアスケート、スピードスケート(ショートトラック)、カーリングに加え、バスケットボールなど各種アリーナスポーツにも活用可能な多目的アリーナとなる。コンサートやコンベンションの会場利用も想定し、一つの空間をフレキシブルに使いこなす機能や仕掛けを備える。

八戸市は1997年から八戸駅西地区で土地区画整理事業をスタート。FLAT HACHINOHEが立地する八戸駅西口側エリアは、2019年に駅前広場やシンボルロードの整備を完了した。

併せて市は、同エリアのまちづくりの指針となる「八戸駅西地区まちづくり計画」を策定。FLAT HACHINOHEは隣接する公園「FLAT PARK(フラットパーク)」と連携し、学校体育や地域行事、市民交流の用途にも対応し、地域の成長やまちづくりの核として期待されている。

民間事業者が施設を開発、プロデュースして、行政が必要な期間・部分を利用料を支払って使用する「行政による民間施設の利活用」というユニークな運用スキームも採用している。

観戦者の視点も重視した施設計画

2002年に東北新幹線の延伸で新設した八戸駅は、八戸都市圏の交通結節点として機能している。八戸市の資料によると、乗車人員は増加傾向にある。駅舎は300mを超える楕円筒状の巨大なシェルターで覆われたシンボリックな外観が特徴で、新幹線利用者はこのプラットフォームからFLAT HACHINOHEの外観を一望できる。

東北新幹線八戸駅から見たFLAT HACHINOHE。施設の後背は文教施設と戸建て住宅が建ち並ぶエリアが広がる。

東北新幹線八戸駅から見たFLAT HACHINOHE。施設の後背は文教施設と戸建て住宅が建ち並ぶエリアが広がる。
手前の直線道路は2019年に完成したシンボルロード。

「駅のホームから見えるFLAT HACHINOHEの東側と北側のファサードには、横長の大型液晶ビジョンを設置し、試合やイベント時はその情報を、普段は八戸来訪を歓迎するメッセージを表示する予定だ」。プロジェクトの責任者で、クロススポーツマーケティング代表取締役社長の中村考昭さんは、黒の立方体と透明ガラスの箱で構成するシンプルな外観を見上げ、こう説明する。

駅前シンボルロードの延長上にある屋外共有スペース「FLAT SPACE(フラットスペース)」からエントランスを入ると、ガラスで囲まれた明るいホール空間「FLAT X(フラットクロス)」が広がる。「利用者はFLAT X単独でもレンタルは可能。地域イベントなどに活用できる」と中村さん。その先の扉を開けると、FLAT HACHINOHEの舞台とも言えるアリーナ空間「FLAT ARENA(フラットアリーナ)」に至る。

クロススポーツマーケティング 代表取締役社長 中村考昭さん

クロススポーツマーケティング 代表取締役社長
中村考昭さん

「これまでの公共スポーツ施設は、最高のパフォーマンスが発揮できるよう、競技者の視点を重視した環境づくりに腐心する例が多かった。FLAT HACHINOHEはそれと同等の配慮を観戦者側の視点にも払って開発を進めた。客席の配列や位置はシミュレーションを重ね、視覚的にも音響的にも臨場感を重視した設計となっている」(中村さん)。

FLAT HACHINOHE のメイン機能となるインドアアイスアリーナ「FLAT ARENA」

FLAT HACHINOHE のメイン機能となるインドアアイスアリーナ「FLAT ARENA」

アリーナ上部に設置した演出用の液晶ビジョンと、アリーナを取り囲むリボンビジョン(納入メーカー:電音エンジニアリング)。

アリーナ上部に設置した演出用の液晶ビジョンと、アリーナを取り囲むリボンビジョン(納入メーカー:電音エンジニアリング)。

試合展開に合わせて映像や文字で場内を盛り上げる帯状映像装置「リボンビジョン」は、一般的なスポーツ施設では客席背後の壁面上部に設置する。しかしFLAT HACHINOHEでは、アリーナを囲むように客席前の頭上に吊り下げた。リボンビジョンが発する光が背後から客席に漏れないようにするためだ。

観客の没入感を重視し、客席側が低照度を保つよう、その他の照明器具や演出装置を注意深くレイアウトした。客席側は映画館の座席のようにほの暗く、舞台となるアリーナは明るく浮かび上がらせる。「照明器具の配置計画や配光制御だけで、一つの大空間を明と暗に区分することは難しい。パナソニックはその難題にチャレンジしてくれた」と中村さんは振り返る。

アリーナだけを明るく照らし出す

日本政府は「日本再興戦略2016」の民間戦略プロジェクトとして、「スポーツの成長産業化」を掲げた。縮小傾向にあった国内のスポーツ市場規模を、2015年の5.5兆円から2020年に約2倍の10.9兆円に、2025年に15.2兆円まで拡大を目指す目標を示した。これに伴い、スポーツ産業関連機関や企業は、スポーツ経済先進国の米国の事例にならい、スタジアムやアリーナを計画するケースが増えている。

「確かに先達の知見に学ぶことは多い。FLAT HACHINOHEも計画当初は、米国のアリーナ演出照明で定評あるシステムの導入を考えていた。しかし、光の文化も施設規模も異なる日本の施設にその照明がフィットするだろうか。むしろ日本の照明技術をフル活用し、日本オリジナルのアリーナ照明に挑むべきではないか。そうした考えから、私たちが理想として思い描くアリーナ照明を具現化できる企業を国内で探した」。明確な光環境のイメージがあった中村さんの要望に応えたのがパナソニックだった。

「多くの国際スポーツイベントの照明経験を持つパナソニックには、世界最高峰のクオリティーがあることは承知していたが、果たして、こちらが望む光環境をどこまでカタチにできるのか」。こうした当初の不安は杞憂に終わる。

まず、パナソニックはFLAT HACHINOHEが求める光のスペックを備えた専用照明器具をオリジナルで設計。運営サイドが要求するフレキシブルな光環境に合わせた運用方法も提案し、理想のアリーナ照明の設営を進めた。客席に光を漏らさずにアリーナだけを明るく照らし出すため、最終的には人の目と手で光の調整を行った。

パナソニックがFLAT HACHINOHEのためにオリジナルで設計したアリーナ照明
パナソニックがFLAT HACHINOHEのためにオリジナルで設計したアリーナ照明

パナソニックがFLAT HACHINOHEのためにオリジナルで設計したアリーナ照明。客席側に光が漏れないように向きと照度を現場で調整した。

「器具を納入すれば終わりではない。パナソニックは設置後に照明エンジニアが施設を訪れ、アリーナ、コンコース、全客席の照度計測を行い、狙い通りの光環境が実現できているか、実地で照明を検証してくれた。実際に各客席に座り、グレア(まぶしさ)のチェックを目視で行い、問題があれば照明器具の向きを微調整し、130灯あるLED照明器具の照度をそれぞれ個別に調節するなど、気が遠くなる作業を重ねて、私たちが求める光環境を実現した」と中村さん。

抑制のきいたアリーナ照明は、観戦の環境を最適化するだけでなく、プレイヤーにとって理想的な環境もつくり出す。オリジナルのLED照明器具にはDMX(照明や舞台効果を制御する通信プロトコル)機能を搭載し、イベントやコンサート時は光の演出を自在に行うことができる。

器具の設置後、照度確認やグレアチェックのためパナソニックのエンジニアが現場で検証して、最終的な微調整を行った
器具の設置後、照度確認やグレアチェックのためパナソニックのエンジニアが現場で検証して、最終的な微調整を行った

器具の設置後、照度確認やグレアチェックのためパナソニックのエンジニアが現場で検証して、最終的な微調整を行った。

FLAT HACHINOHEは、八戸市と福島県郡山市をホームタウンとするアイスホッケーチーム「東北フリーブレイズ」のホームアリーナとして、年間約30試合の開催を予定している。東北フリーブレイズは新アリーナで4度目のアジアリーグ優勝を目指す。

そのほかには、Bリーグ(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボール・リーグ)の公式戦も開催することができる。バスケットボールなど、アイスリンクを使わないアリーナスポーツでは、リンク上に軽量断熱素材のボードを敷き詰めて、その上に競技に合わせた床を設置することで、氷を溶かすことなくアリーナの多目的活用を可能にした。照明は開催する競技に合わせ、最適な光環境に転換できるようにプログラムを設定している。

FLAT ARENAの照明は用途や演出に合わせて、さまざまな光環境をつくりだせるプログラムを用意
FLAT ARENAの照明は用途や演出に合わせて、さまざまな光環境をつくりだせるプログラムを用意
FLAT ARENAの照明は用途や演出に合わせて、さまざまな光環境をつくりだせるプログラムを用意
FLAT ARENAの照明は用途や演出に合わせて、さまざまな光環境をつくりだせるプログラムを用意

FLAT ARENAの照明は用途や演出に合わせて、さまざまな光環境をつくりだせるプログラムを用意。
コンサート開催時はDMXコントローラーでさまざまなシーンを創出できる。

パナソニックとともに開発したオリジナルアリーナ照明が、観戦空間の価値をどう高めるのか。氷都八戸の新しい地域共生拠点として、エンターテインメント機能を備えた日本型多目的アリーナとして、フェイスオフ(試合開始)の時を迎えたFLAT HACHINOHEに注目したい。

FLAT HACHINOHE

FLAT HACHINOHE FLAT HACHINOHE

■建築概要
施設名/FLAT HACHINOHE
所在地/青森県八戸市大字尻内町
敷地面積/約15000m²
建築面積/約5150m²
延べ面積/約7200m²
構造と規模/S造・RC造、地上2階建
工事期間/2018年12月~20年2月
収容人数/アイスホッケー利用時3500人規模収容
バスケットボール利用時5000人規模収容
事業主・総合プロデュース/クロススポーツマーケティング株式会社
設計・施工/戸田建設株式会社
プロジェクトマネジメント/株式会社山下PMC
クリエイティブディレクション/SAMURAI 佐藤可士和

 

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