株式会社ライフコーポレーション ライフ蕨駅前店
エリアごとに変化をつけた店舗内の売り場
エネルギーを自在に操る食品スーパーが誕生
「これまでも環境に配慮した店づくりに取り組んできたが、ここまで徹底したのは初めて」
2018年6月、JR京浜東北線の蕨駅から徒歩3分の至近距離に食品スーパー「ライフ蕨駅前店」(埼玉県蕨市)がオープンした。その店舗開発を振り返り、ライフコーポレーション(東京本社:東京都台東区)の辻広樹さんはこう強調する。
ライフコーポレーションは、首都圏と近畿圏で273店の食品スーパーを展開する(2019年7月末時点)。都市部でのテナント出店が多い同社の店舗では、平均1650㎡(500坪)の売り場を複数階に分割配置するのが一般的だ。
株式会社ライフコーポレーション
首都圏建設部 建設課 課長代理の辻 広樹さん
「以前から店舗への太陽光発電システムの導入を検討していたが、なかなか機会に恵まれなかった」(辻さん)。例えば、大量の太陽電池モジュールを設置するには、広い面積の屋根や平置きできる余剰の敷地を要する。ところが都市部では、テナントビルに入居する時はもちろん路面店でも広い敷地を確保するのが難しく、太陽電池モジュールを並べる場所を十分に用意できないことが多い。
その点、新築の路面店となる蕨駅前店は広い敷地を有し、売り場面積2036㎡(615坪)の店舗部分を1階に集約できる。大規模な太陽光発電システムの導入が可能な条件をそろえていた。
「平屋の売り場を確保できること自体、当社の店舗では珍しい。さらに蕨駅前店は都心のように高い建物で周辺を囲まれていないため、建物の影で太陽光発電の発電効率が低下する心配もなかった。ここなら設置できると判断して、急きょ導入を決定した。開店までの限られた時間のなかで、どこまでできるかをパナソニックと検討しながら計画を進めた」(辻さん)。
年間540万円分の電力を削減
建物の屋上に、容量120kWの大規模な太陽光発電システムを搭載した。店内の冷凍・冷蔵設備、空調、照明はエネルギーマネジメントシステムで自動制御する。発電によって年間約200万円分、エネルギーマネジメントによって年間約340万円分の使用電力を削減する計画だ。
展示ケースをゆったりと配置した店内には、イートインコーナーの横にデジタルサイネージを設置した。蕨駅前店で導入した太陽光発電システムによる発電量などを表示し、来店者にアピールする。
株式会社ライフコーポレーション
ライフ蕨駅前店 店長の八木 彰さん
デジタルサイネージで太陽光発電を見える化
太陽電池モジュールは、屋根荷重の制約やコストを勘案して最大となる374枚を並べた。蕨駅前店の建物は、柱の本数が少ない大スパンの工法を採用してレイアウトの自由度を高めており、構造上十分な強度を確保するためには、屋根に載せるモジュールの重量を慎重に検討する必要があった。これまでライフの既存店舗で太陽光発電システムを導入した2店舗は、いずれも容量が50kW程度。120kWの太陽電池モジュールを並べた蕨駅前店は、従来の2倍規模となる初めての事例となった。
デマンド自動制御を遠隔監視
大規模な太陽光発電システムとともに蕨駅前店では、デマンド自動制御を行うエネルギーマネジメントシステム「エマネージ」を導入した。これもライフコーポレーションとして初となる。
一般に電気料金は、契約電力(デマンド電力)の大きさに応じて設定される基本料金と、使用量に基づく電力量料金で構成する。基本料金の設定に際しては、過去1年間に記録した使用電力の最大値がその後1年間の契約電力となる。この契約電力を抑えるために、設定したデマンド値を超えないよう各機器の使用電力をコントロールするのがデマンド制御だ。
蕨駅前店ではエマネージと遠隔監視サービス「S-cubo(エスクーボ)」を組み合わせ、冷凍・冷蔵設備、空調、照明の自動制御を遠隔から監視できるようにした。店舗で消費する電力のおよそ8割を占めるこれらの設備機器のデマンドを効率的に抑えるとともに、使用状況に応じて個々の空調や照明の省エネ化を図り、電気料金の大幅な削減に結び付けるのが狙いだ。
特徴は、単純に自動制御するのではなく、実際の使い方に応じて個別に調整できるようにしていること。「空調や照明は基本的には自動制御だが、手動でスイッチのオン・オフもできるようになっている。一般的なデマンドコントローラーは使用電力が目標値に至ると即座にオフになってしまう製品が多いのに対し、蕨駅前店では私たち店側で微妙なさじ加減をコントロールできる」と、店長の八木彰さんは説明する。
遠隔操作でコントロールする照明と空調
オープン後は、試行しながら店舗運営を進めてきた。ライフ蕨駅前店の立地の特徴と戦略について、八木さんは「駅前に立地し、客層は都心部に通勤する単身者や2人家族が中心となる。そこで当店では、帰宅時の需要を見込み、購入してすぐに食べられる商品を充実させるなどの工夫を図ってきた」と話す。
ライフ蕨駅前店は帰宅需要を見込み惣菜に注力
開業1年を経た2019年6月時点の電気の使用状況はどうか。
「実際の使用量と計画値の間に大きな誤差はない。まだ慣れていない面もあって空調の電力使用量がやや多く、全体的に他店よりは多めの結果となったが、エネルギーマネジメントの具体的な効果が出てくるのは2年目以降のこれから。1年間蓄積してきたデータを分析・検証して、電気料金を削減するための具体策を検討していく。1年間の基本料金のベースとなる昨年のピーク量は、冷房期の7月に記録した409kWだった。このピークを30kW下げるのが1つの目標となる」と辻さんは言う。
八木さんも、「エネルギーマネジメントによって運営コストを下げていくためには、毎年の積み重ねが大切。店というハードが整ったので、次は私たち運営スタッフがさらに成長させていく必要がある」と気を引き締める。
蕨駅前店の検証結果を基に、ライフコーポレーションではエネルギーマネジメントを導入する店舗の開発が進行中だ。並行して、システムのさらなる進化も視野に入れる。
例えば、今回採用した太陽光発電システムをより有効に活用するため、5年後をめどに蓄電池の導入を計画している。今後はBCP(事業継続計画)の視点も重要になることを念頭に、「店舗全体の電力に充てている太陽光発電を、災害時にパソコンやPOSシステムが使い続けられるように配電すること」(辻さん)も検討している。
商品を引き立たせる演出照明
設備でもう1つ重要な役割を果たしているのが、店舗内の照明だ。適切に照明を当てることで商品の良さが引き立つ。蕨駅前店では、商品の特性に合わせて光の照度と色を調整し、個々の商品をしっかり浮かび上がらせた。
パナソニックの発光ダイオード(LED)製品を中心に、ベース照明と演出照明による効果的な照明計画を目指した。メインのダウンライトのほか、壁面や天井に間接照明を配置。随所に曲線を取り入れた天井デザインと調和した、メリハリのある照明としている。
ベース照明と演出照明を効果的に組み合わせ
このうちベース照明では時間帯ごとに4つのシーンを設定し、状況に応じて明るさを自動制御している。まず開店前の時間帯は、調光率15%の準備灯で各スタッフが開店準備に当たる。営業時間中は、日没を境に2つのシーンを用意した。開店から日没までの昼間の時間帯は75%の調光率で明るい店内空間を生み出し、日没から閉店までは調光率を60%に落としてやや落ち着いた雰囲気とする。閉店後、スタッフが帰宅するまでは45%のデマンド灯で対応する。
演出照明は、商品特性に合わせて売り場ごとに設定した。ライフ蕨駅前店ではつくりたての惣菜や弁当の販売に力を入れており、鮮魚や肉の売り場の奥にはガラス張りの厨房を併設している。中央部に並べたショーケースの高さを抑えて店内の見通しを確保し、平置きの展示台にその時々のお勧め品を並べるなど、訴求力を高める商品配置に取り組んだ。これらのディスプレーとライフコーポレーションが培ってきたノウハウをもとに、例えば鮮魚売り場では赤みを強くしたカスタムオーダーのLEDダウンライトを設置するなど細かい調整を施した。
鮮魚や野菜など商品に応じた照明を細かく設定
パナソニックとのコラボレーションについて、辻さんはこう総括する。「多様な商品とソリューションを用意しているのがパナソニックの強みと感じた。とはいえパナソニックの持っている商品が私たちのニーズと完全に合致しない場合も出てくる。大切なのは、そのギャップをどう埋めていくかを話し合い、前に進めていくことだ。今回も設備機器を導入して終わりではない。今後の10 年を見据えて次の店舗づくりへとつなげていく議論の場を共有していけることが心強い」
株式会社ライフコーポレーション ライフ蕨駅前店
■建築概要
店舗名/ライフ蕨駅前店
所在地/埼玉県蕨市塚越1-7-9
建物の構造・階数/鉄骨造2階建て
店舗のある階数/1階
店舗面積/2036㎡
工事期間/8 ヶ月
開業日/2018年6月27日
営業時間/9:30 ~ 25:00
定休日/元旦
■企業概要
企業名/株式会社ライフコーポレーション
設立年/1956年
本社所在地/東京都台東区台東1-2-16
資本金/100億400万円
営業利益/6986億9300万円(2019年2月期)
主要な事業/スーパーマーケットチェーン
事業所数/273店舗(2019年7月現在)
従業員数/2万7297人(パートナーは8時間換算)