INTERVIEW 銀座の街に溶け込む「光の器」実現に導いたハード・ソフトの開発 Design Architect 坂本 隆之 株式会社 日建設計 NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab

「目指したのは、ガラスの透明感と立体感の両立」

2016年3月にオープンした東急プラザ銀座は、「江戸切子」がモチーフのガラス建築として話題を呼んだ。夜になると、そのファサードは、ガラス自体が発光しているような「光の器」として、銀座の街に浮かび上がる。「銀座の街に溶け込む透明感と、豊かな表情の立体的なガラス建築を目指して、光の器というコンセプトを提案しました」。設計を統括した坂本隆之氏は、照明デザインのコンセプトをそう説明する。
「透明感」と「立体感」――。相反するような条件の両立は、容易ではない。建物内部の照明に対して、ファサード照明が弱ければ、ガラスの立体感は出てこない。逆に、ファサード照明が強いと、立体感は浮き出るが、透明感が薄まってしまう。
ファサード照明に最適な光量は?光の器を実現できる技術は?「方針は固めたものの、解決法は暗中模索でした」と、設計チームの畑野了氏は打ち明ける。その実現に向けて期待されたのが、定量的な評価分析や開発力を持つパナソニックの照明技術だった。

「目指したのは、ガラスの透明感と立体感の両立」

「ガラス面全体に、光を拡散させたい」

光量や、ガラスを照射する最適な方法を解き明かすまでには、モックアップによる実験や検証を繰り返した。行き着いたのは、方立てにLED光源や反射板を組み込み、ガラス面をなでるように照射する仕組みだ。
「ただし、普通にガラスに照射すると、手前ほど強く光が当たり、遠くまで届きません。1枚の幅が1300mmほどのガラス面全体に光を拡散させるには、どうしたらよいのか。また、粒子状になるLEDの光を、均質な光として広げるには、どんな仕組みが必要なのか。その辺りで、新しい工夫が求められました」。設計チームの山田盛治氏は、そう振り返る。
検討の結果、ガラス面には、最適なドットパターンを施したセラミックシートを用いた。同時に、パナソニックが技術力を発揮したのが、光源側のディテールだ。光の出口となる反射板の曲率や設置角度、拡散を助けるアクリル板の設置など、照射のシステムや、そのディテールなどを、実証を重ねながら詰めていった。

「ガラス面全体に、光を拡散させたい」

設計チーム 畑野 了氏

「微妙な光色を、見比べられる技術が不可欠」

ガラスを照射する「光の色」にもこだわった。採用したのは、通常のRGB(赤・緑・青)にW(白)を加えた4色による光だ。「設計当時、RGBWの光をつくる手法は、国内にはありませんでした。関係者間でWの加え方について議論を重ねた結果、RGBのそれぞれの輝度から白色を抽出して、一定の比率で配合する方法をとりました」。設計チームで主に照明を担当した中尾理沙氏は、そう説明する。今回のプロジェクトでは、その「白」を抽出する手法も新たに開発している。
「白をブレンドして、最適な色を探し当てるためには、リアルタイムで確認していける技術が不可欠でした」と話すのは、坂本氏だ。微妙に配合を変えながら、目視で光色を吟味していくとき、「5秒でも空いたら、人間の感覚では違いを読み取れません」(坂本氏)という。そこで、パナソニックは、その場で連続的に配合を変え、わずかな色の違いも見分けられる技術も、今回新たに開発している。

「微妙な光色を、見比べられる技術が不可欠」

設計チーム 山田 盛治氏

「先端技術も駆使して、人を豊かにする照明を」

「さらに、銀座という街に調和する風景として、優雅にたゆたう光にしたいと考えました」と、坂本氏は話す。東急プラザ銀座のファサード照明をじっと見ていると、ゆっくりと呼吸するように、光が動いていくのが分かる。「外装照明というより、映像装置に近いですね。とはいえ、メディアファサードのような具象的な映像ではなく、建築にふさわい上品で抽象的な映像です」と、畑野氏は説明する。これは、映像をベースにした演出を、照明データに変換するプログラムの開発によって実現したものだ。途切れることなく、グラデーションで動いていく光の制御は、最後まで検討を繰り返した。ひとの目に心地よく映る速さや濃淡を、実際の点灯で確認し、プログラム化している。
「映像や制御の分野は、急速に進化しています。今後の照明技術は、AI(人工知能)など、先端技術との融合も図りつつ、ひとを豊かにするように進化してほしいですね」と、坂本氏は期待を口にする。

「先端技術も駆使して、人を豊かにする照明を」

設計チーム 中尾 理沙氏

Design Architect 坂本 隆之氏

PROFILE

  • Design Architect
  • 坂本 隆之
  • 株式会社 日建設計 NIKKEN ACTIVITY DESIGN lab

1974年生まれ。2000年早稲田大学大学院修了、日建設計入社。2015年より設計部部長代理、
Nikken Activity Design lab の Design Architect。主な設計実績は、コウヅキキャピタルウエスト、
新江ノ島水族館、野村不動産新横浜ビル、新青山東急ビルなど。東急プラザ銀座ではファザードデザインを含めた設計を担当している。

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