歩行者の安全に配慮した、クルマが通り抜けできない環境街区のクルドサック道路(VR)

都市機能が分散したまちに中心市街地を創出する

愛知県愛知郡東郷町は名古屋市と豊田市の間に位置し、近郊住宅地として発展を遂げてきた。しかし、宅地開発は縁辺部が多く中心部丘陵には農地や林が残されていた。また、町内には鉄道駅がなく、クルマへの依存度が極めて高い状態にあった。いま、この環境が大きく変わろうとしている。それが、東郷町に中心市街地を創出する「東郷中央土地区画整理事業」。1991年に始まった地域住民主導の活動は一度休止したが、2008年に再開。東郷中央土地区画整理事業の発起人代表に就任した近藤 教文氏は、基本構想図を提示し、2014年に土地区画整理組合を設立。これに東郷町は役場や公民館などの公共・公益施設ゾーンを含めて「東郷セントラル地区低炭素まちづくり計画」を策定した。
土地区画整理事業では、地権者が所有する従来の土地(田畑・林等)を住宅地として再配置していく。しかし、新たに道路や緑地・公園などを整備するため、当地の平均減歩率は50%を超え、311人におよぶ地権者の同意を得ることは困難を極めた。近藤氏が着目したのが環境計画支援VRだった。「代表就任前から世界のコンパクトシティを訪れていたが、日本ではFujisawa SST※1を視察した。そこで知ったのが環境計画支援VR。その後、パナソニック東京汐留ビルでまち並みが体感できるサイバードーム※2を体験し、地権者との合意形成には最適だと判断。東郷セントラルのVR作成をお願いした。これにより、この林や畑がどんな住宅地に変わるのかを空間として理解してもらえ、換地もスムーズに進んだ」と振り返る。

  • 1 パナソニックとパートナー企業、藤沢市による官民一体のサスティナブル・スマートタウン・プロジェクト
  • 2 まちの環境計画支援VRがフルサイズで体感できる施設

環境計画支援VRで作成された東郷セントラルの全景。白い建物は計画中の「三井ショッピングパーク ららぽーと愛知東郷」 (上)環境計画支援VRで作成された東郷セントラルの全景。白い建物は計画中の「三井ショッピングパーク ららぽーと愛知東郷」
(下左)南西部に計画されている環境街区(VR)
(下右)造成中の環境街区(2021年12月)

東郷セントラル基本構想図(2014年当時)

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300年後には世界遺産となるゼロ・カーボンをめざした「まち」

東郷セントラルでは「ゼロ・カーボンの視点」、「子育て支援・高齢者対応」「次代に継承し続ける持続可能なまちづくり」を基本方針と定め、歩いてくらせるコンパクトなまちづくりが追求された。まちづくりにあたっては「低炭素まちづくりガイドライン」が作成され、有限会社アーバンセクションの二瓶 正史氏により、戸建住宅、共同住宅、商業施設ごとに壁面後退や回遊性、緑地などのガイドラインが提示された。また、南西部に環境街区(モデル街区住宅地)を設け、クルマの走行速度を抑えるコミュニティ道路や、緑化された広場的な道路が提案されている。
理事長の近藤氏は、「近年、SDGsやカーボンニュートラルなどが注目されているが、ここでは、300年後に世界遺産となるゼロ・カーボンのまちをめざした。環境街区の住宅はZEH以上の性能を備え、燃料電池車と接続した給電を考えている。水素ステーションも整備してエネルギー問題を解決したい。環境問題ではCO₂排出量削減のために緑地帯など、植栽を多く盛り込む構想。また、免許証を持たない高齢者や子どもたちが利用できる自動運転車の導入にも取り組むつもり。ウェルネスでは、ドラッグストアと医療モールが一体になった街区を整備予定。このような環境を育て、サービスに継続的に関わる組織として“まち育て会社”の設立も計画している」と語る。

建築設計Report vol.40/2022年2月発行
※会社名、役職名などは掲載時のものです。

ランニングコストを抑え、安全にも配慮した信号のないラウンドアバウト(左:VR、右:造成中)
ランニングコストを抑え、安全にも配慮した信号のないラウンドアバウト(左:VR、右:造成中)

小さな植栽でクルマのスピードを抑えるコミュニティ道路(左:VR、右:造成中)
小さな植栽でクルマのスピードを抑えるコミュニティ道路(左:VR、右:造成中)

コミュニティ道路に沿った住宅
コミュニティ道路に沿った住宅

換地により建設された住宅
換地により建設された住宅

歩きやすさを考えてインターロッキング舗装を採用
歩きやすさを考えてインターロッキング舗装を採用

クルマが入れない歩行者道路も整備(写真右)
クルマが入れない歩行者道路も整備(写真右)

沿道サービス施設ゾーンのVR
沿道サービス施設ゾーンのVR

沿道サービス施設 検討段階CG(資料提供:パナソニック ホームズ株式会社)
沿道サービス施設 検討段階CG
(資料提供:パナソニック ホームズ株式会社)

環境街区(モデル街区住宅地)のプラン案

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東郷中央土地区画整理まちづくり計画のマニュアル

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東郷セントラル

■名古屋都市計画事業 東郷中央土地区画整理事業
所在地/愛知県愛知郡東郷町春木
事業主/東郷中央土地区画整理組合
工期/2014年度〜2024年度(当初計画)

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