2020年5月号 知られていない住宅性能の進化~これからの電気設備とレジリエンス~

  • 一般社団法人ZEH推進協議会 理事・事務局長 株式会社アスクラスト 代表取締役 株式会社アスクラスト 代表取締役 月刊スマートハウス発行人 荒川 源様

    一般社団法人ZEH推進協議会 理事・事務局長
    株式会社アスクラスト 代表取締役
    月刊スマートハウス発行人
    荒川 源

近年、地球温暖化の影響を受け、巨大台風や集中豪雨などの自然災害が多発しています。
住宅に求められる性能においても、「レジリエンス」という言葉がキーワードとなっており、レジリエンス強化策として、ZEHにも新たに「ZEH+R」というシリーズが追加されました。こうしたまだ広く知られていない住宅性能の進化や、これからの住宅に必要な設備と備えについて、月刊スマートハウス発行人である株式会社アスクラスト代表取締役の荒川源様にお話を伺いました。

国内唯一のZEH専門誌「月刊スマートハウス」

「月刊スマートハウス」は、未来の家づくりに欠かせない最新の住宅設備や、国内外の先進的な住宅の事例、マーケット情報を発信している月刊誌です。
2013年創刊当時そのような雑誌はなく、日本の住宅の未来のために必要であると考え、前職を退職し、自ら立ち上げました。ZEHを構成する太陽光発電システム、蓄電池、HEMS、エコキュート、断熱材、窓などの商材に特化して紹介している雑誌は、現在に至るまで国内唯一です。「月刊スマートハウス」の他にも、エネルギーと環境、健康、防災をテーマに複数の媒体を編集・発刊しています。主な読者層はビルダー様ですが、多くの電気工事会社様にも購読いただいております。
2017年にZEH推進協議会(代表理事:坂本雄三)の共同立ち上げに尽力させていただきました。現在は、理事・事務局長を務めています。立ち上げのきっかけは、メーカーのZEH向け製品普及の動きとビルダーの現場意識には相当の乖離があるという認識を持ったことでした。ZEHの普及には、メーカー間の垣根を越えた連携を可能とし、ビルダーやプランナーをサポートする団体が必要であると考えたのです。
ZEH推進協議会ではZEHの補助金活用セミナーやZEHビルダー視察研修会、ZEHに取り組むビルダーの増加に努めています。

「月刊SmartHouse」と蓄電池専門誌「RE:CHARGE」、給湯器専門誌「Qtopia」、防災機器専門誌「the Resilience」、「ZEH MASTER 2019」
「月刊SmartHouse」と蓄電池専門誌「RE:CHARGE」、給湯器専門誌「Qtopia」、防災機器専門誌「the Resilience」、「ZEH MASTER 2019」

未来の住宅・街づくりに関わりはじめたZEH

2016年からスタートし、今年で5年目となるZEHビルダー・ZEHプランナー登録制度ですが、登録数は年々増加し、7,400件超にまで拡大しました。地域分布についても需要地に応じて全国を網羅し、新築戸建住宅に対するカバー率も7割を超えています。
大手・中堅ハウスメーカーだけでなく地域ビルダー・工務店など様々なプレイヤーが参加していることは心強いと思います。一方で、年間の供給規模は56,000件程度で、まだまだかもしれません。「実績の有無」や「目標達成度」を分析すると、事業者間で「できる・できない」の二極化も進んできました。ただ、年間の伸び率は補助事業の交付決定に関わらず2割を超えており、着実に市場は拡大してきているとも言えます。
また、国のZEH普及補助事業ではZEHの新たなシリーズ化も未来の家づくりに向けた推進方策として見逃せません。昨年、宅内の高度なエネルギーマネジメントを目指したZEH+が登場しました。そして今年度はこのZEH+に「次世代ZEH+」も仲間入りしました。「次世代ZEH+」では従来の蓄電池だけでなく、V2Hやエネファームのいずれかを導入することを要件とし、一層の高度化が標榜されています。
このように、ZEHは次世代の住宅や街づくりに多種多様な形で関わりはじめており、もはや無視できない存在になりつつあります。

防災・減災対策で新たに追加された「ZEH+R」とは

さらに、国の新たな住宅づくりの方向性として注目されているのが、「レジリエンス」です。「レジリエンス」とは英語で「回復力」や「復元力」という意味ですが、ここ数年、「防災力」と同義語的に使われるようになってきました。
2018年に各地で生じた大規模災害を受け、政府は防災・減災に関する臨時・特別の予算を設け、レジリエンス強化の支援策を講じました。それが「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスを活用したレジリエンス強化事業」です。ここからZEH+を活用して、停電時の家庭におけるレジリエンス強化を促進する「ZEH+R」が追加されました。要件はZEH+の定義を満たした上で停電時に使用可能なコンセントを3か所以上設置の上、蓄電システムと太陽熱利用システム停電自立型エネファームのいずれかを導入することとなっています。また、今年度からZEH+R関連では、「コミュニティZEHによるレジリエンス強化事業」が追加され、蓄電池やV2Hを地域住民で活用することで、コミュニティ一体で災害に備えた街づくりをすべく、ZEHと絡めた未来の街づくりに向けた支援が行われることとなりました。
当社でも2019年5月に「ザ・レジリエンス」を創刊しました。地域の防災力強化のお役に立ちたく、現在1,800の全国の自治体には無償で配布しています。地震や台風などの災害現場を取材するたびに思うのは、災害対策に有用な設備や機器についての情報を体現し、導入を進めている施設はまだ少ないということです。太陽光発電システムや蓄電池は防災機器としての利用が進んでいますが、エコキュートの非常用水機能や電気自動車が持つ有事の電力供給力などはあまり知られていません。
自律分散型エネルギーの導入は長期の大規模停電発生リスクへの対策にもなります。地方自治体をはじめ、多くの方々に最新の防災機器の活用方法を知っていただきたいと思います。

卒FITで高まる「蓄電池」「エコキュート」需要

近年、「卒FIT」という言葉を耳にすることが増えてきているのではないでしょうか。「FIT」とは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度のことですが、住宅用太陽光発電の余剰電力は買取期間が10年間と定められています。制度は2009年11月からスタートしたので2019年11月から順次満了を迎え、初年度だけで50万件が対象となっており、その後も20万件規模で「卒業」が続いていきます。余った電気を今後どのように活用するかがポイントになりますが、選択肢は主に次の3つです。

  • 家庭用蓄電池や“走る蓄電池”として電気自動車とV2Hを活用。
  • エコキュートのお湯の沸き上げ時間を昼間にシフトさせる「蓄熱」により自家消費率を向上。
  • 売電できる事業者に相対・自由契約を継続。

①の蓄電池は各メーカーから2~12kWhまで容量帯が豊富に揃っていて、防災・減災対策としても期待されています。電気自動車は蓄電の役割だけでなく車の燃料費を大幅に節約できる“電費化”にも注目が集まっています。
②のエコキュートは昼間の太陽光発電での沸き上げにより自家消費率が10%程度向上するという試算があり、リプレイスと合わせて提案できます。
これらは電気工事会社様にとってはビジネスチャンスとなりますから、力を入れていただきたいと思います。

新たに追加された「ZEH+R」の定義

  • ①基本要件:ZEH+の定義を満足すること。※Nearly ZEH+については、寒冷地(地域区分1又は2地域)、低日射地域(日射地域区分がA1又はA2)または多雪地域(垂直積雪量100㎝以上)に限る。
  • ②追加要件:ZEH+のレジリエンスを更に強化するために必要な措置を講じること。
【必須】
停電時に使用可能なコンセントを3箇所以上設置し、そのうち少なくとも1箇所は「主たる居室」に設定すること。(通常のコンセントを停電時にも使えるようにする措置を講じることを含む。)
【選択】
以下の性能を満たす蓄電システムもしくは太陽熱利用システム(両方選択も可)を設置すること。
  • ①蓄電システム:4kWh以上の蓄電容量があること。
  • ②太熱利用システム:停電時に40℃以上のお湯を60L×人数分確保できること。

※「ネット・ゼロ・エネルギーハウスを活用したレジリエンス強化事業」資料より。

ZEHの災害時の活用方法

太陽光発電システム

知ってるようで知らない太陽光発電の自立運転機能
自立運転機能が具備されているため、日射に応じ専用コンセントから1.5kW(AC100V)程度の電力を使用することができる。ただし、自立運転時の電力は不安定なため人命、財産に関わる機器には使用しないこと。

給湯

断水時の備えに貯湯タンクで非常用水活用
タンク本体に非常用取水栓が付いているため、断水時に非常用水として取り出せる。太陽熱利用機器の場合、自然循環式は給湯栓から、強制循環式はタンク内のお湯(水)を非常用として活用できる。ただし、飲用は避け、あくまで生活用水として。

蓄電システム

もはや防災・減災対策の王道
停電に備えあらかじめ使用したい家電製品を設定することで容量に応じ一定の電力が使用可能(特定負荷型)。容量により家全体をバックアップできるものもある(全負荷型)。太陽光発電を設置している場合は充電も可能。

電気自動車+V2Hシステム

移動手段や簡易的なシェルターにも
電気自動車の蓄電容量に応じて、停電が起きても通常コンセントで電化製品が使用可能。太陽光発電で充電し、半永久的に走らせることもできる。車があれば移動や仮眠スペースにも。
※「ZEH MASTER 2019」より。

注目される住宅政策の新たな動き「建築物省エネ改正法」と「スマートシティ構想」

2019年5月17日に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、戸建住宅においては設計者である建築士から建築主に対して省エネ性能に関する説明を義務付ける制度が創設されました。公布の日から2年以内に施行されるため、今からあと1年余りです。お施主様に説明するためにも、建築士やビルダーは必然的に省エネに関する知識向上が必要となります。合わせてZEHの普及にも期待が寄せられます。もはや家づくりにおいて、エネルギーの観点は無視できないものとなるでしょう。さらに、ZEHだけでなく、ZEBを見据えたスマートシティ構想※1も実現ベースで動きが加速すると思います。
スマートシティ構想は、エネルギーや医療、交通システム、インフラなど様々な分野で取り組みが進められています。エネルギーの分野では、スマートグリッドやスマートメーター、発電・蓄電の自動制御、再生可能エネルギーの活用などがあります。
今後、事業管轄エリアで大掛かりなスマートシティ構想がはじまるときに、電気工事会社様として出遅れることがないよう、こうした情報に敏感になり、家づくりに限らず、街づくりの動きや情報にも感度を高く保っていただきたいと思います。

「パナソニックが進める「サスティナブル・スマートタウン」の第3弾プロジェクト「Suita SST」のイメージ。
「パナソニックが進める「サスティナブル・スマートタウン」の第3弾プロジェクト「Suita SST」のイメージ。
SuitaSST OSAKA

日本の次世代住宅のあり方とこれからの電気工事業について

各国の住宅を視察に行くのですが、アメリカではIoTハブ、コントローラやセキュリティ、見守りが一般化しています。日本とアメリカでは事情は異なりますが、アメリカではIoT機器がいろんなメーカーから出ており、ホームセンターで手軽に買うことができ、ユーザー自ら設置できるモデルが一般的です。安価でもあります。
日本でもIoT化は必須です。宅内のあらゆる電気機器が連携する時代となりました。アメリカの製品に比べて少し高価なものが多いですが、メーカーが開発に時間をかけてしっかり作っているので高性能です。設置も電気工事会社様が行うものが多いので、通信設備の知識もますます重要になってきます。
パーツごとの工事業務や知識に関して、プロフェッショナルである電気工事会社様が通信設備の分野にさらに領域を広げていただくことで、お施主様とのより強固な信頼関係を構築することができるようになるのではないでしょうか。
これからの家づくりには、エネルギーについて考えることが必須になります。新築を建てるお施主様にはぜひZEHをすすめていただきたい。現実的には太陽光発電パネルの設置が予算的に難しい方もおられます。その場合には、リースや屋根貸し、PPA※2といった無料で設置できる第三者所有モデルをおすすめしていただきたい。防災性を考えれば、蓄電池とエコキュートも。「レジリエンス」は今後、あらゆる電気工事に重要な視点となります。特にパナソニックが掲げる「毎日が、備える日。」には様々な防災アイテムが揃っています。 世界的に見て、日本の電気工事業のレベルは非常に高いと思います。これは業界が一丸となって臨んできた結果です。世界に誇れる電気工事会社様のお力が逆にメーカーの開発力や技術力を後押しした一面もあるでしょう。しかし今までのような電気工事業だけでは、グローバルで席巻するGAFA※3をはじめとするIoT、ビッグデータ市場から取り残されてしまいます。柔軟な思想と行動力で、大きく変容する電気機器に寄り添って、歩んでいただきたいと思います。

毎日が備える日。家ごと、「もしも」に備えよう。地震あんしんばん/住宅用火災警報器/明るさセンサ付きホーム保安灯/リチウムイオン蓄電システム
  • スマートシティとは、IoTをエネルギーや生活インフラの管理に用いることで、都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、経済・社会・環境の課題解決を図ると共に、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する都市のこと。
  • Power Purchase Agreement。事業者が建物の所有者の屋根に太陽光発電設備を無料で設置し、発電した電力を建物所有者に売電することで投資を回収するビジネスモデルのこと。
  • GAFA(ガーファ)とは、米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4社のこと。いずれもITを使った各種サービスの共通基盤になるインフラを提供する巨大事業者で、ITプラットフォーマー。

他の記事一覧へ

パナソニックの電気設備のSNSアカウント