• グランドプリンスホテル新高輪
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国際館パミール大宴会場「崑崙・北辰」の光天井。約3800本の蛍光ランプをLEDライン照明に交換

激変する品川、ホテルのMICE機能を「光」で強化

江戸時代に東海道の宿場町として栄えた品川は、明治期には全国に先駆けて鉄道を敷設、東京の南の玄関口として発展を続ける歴史がある。近年は品川駅が東海道新幹線の停車駅となり、羽田空港へのアクセスも整備され、国内外の大勢の人々が行き交う国際的な交流拠点としての性格を色濃くしている。

この先、2020年に田町駅との間にJR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」が開設、2027年にはリニア中央新幹線の始発駅の機能が加わり、既存の交通インフラと次世代モビリティーの結節拠点としても注目される街区である。プリンスホテルはこの高輪・品川エリアに4つのホテルと、2000人規模の集客が可能な4つの宴会場を展開している。

上空から「グランドプリンスホテル新高輪」を俯瞰する

上空から「グランドプリンスホテル新高輪」を俯瞰する

ロビー
ロビー

Lounge Momiji
Lounge Momiji

「プリンスホテルは、高輪・品川エリアの環境変化と将来の発展に対応すべく、約5年をかけてエリア全体で各ホテルのリニューアルに取り組んできた。このリニューアルでは、各ホテルの機能や役割を明確にし、国内外のお客様がホテルを選びやすい環境を整える目的があった」。ザ・プリンスさくらタワー東京、グランドプリンスホテル高輪、グランドプリンスホテル新高輪の宴会支配人を務める根本清寿さんは、高輪・品川エリア内ホテルの一連の改修プロジェクトの背景をこう説明する。

グランドプリンスホテル新高輪 宴会支配人の根本清寿さん

グランドプリンスホテル新高輪
宴会支配人の根本清寿さん

7000本の蛍光ランプをLED照明に

グランドプリンスホテル新高輪は、約900室の客室のほか、大規模宴会場「飛天」と、宴会場専用の国際館パミールに「崑崙」「北辰」の、計3つの大型宴会場を備えている。2019年夏には、高輪・品川エリアのリニューアルの一環として、国際館パミールの2つの宴会施設の絨毯と照明設備を改修した。

目的は、国際的なコンベンションホテルとしての機能を明確にし、国内外の多様なクライアントへの対応を見据えたMICE(大型の会議や学会)を中心とした機能の強化だ。今回のリニューアルでは、2つの宴会場の光天井に組み込まれた、約7000本の直管蛍光ランプを発光ダイオード(LED)ライン照明に置き換え、客席ダウンライト約700台もLED化。併せて、演出用の調光設備・調光操作卓も一新した。

「北辰」の光天井とダウンライトの調光演出。三角形のシェード内には3~5本のLEDライン照明を内蔵

「北辰」の光天井とダウンライトの調光演出。三角形のシェード内には3~5本のLEDライン照明を内蔵

「崑崙」の光天井の調光演出

「崑崙」の光天井の調光演出

「宴会場にとって照明器具は、テーブルや椅子などと同様に重要な設備だ」と根本さんは指摘する。

一般的にホテルは、通路や宴会場へのアプローチの照度は抑えめで、宴会場に入った瞬間、圧倒的な光量で空間の広がりを創出し感動させる。しかし、その空間に点灯不良の光源が一灯あるだけで、感動は台無しになってしまう。崑崙と北辰は、蛍光ランプの光天井と白熱電球のダウンライトによる照明が施されていたが、いずれの照明器具もLEDと比較すると耐用年数が短く、光の質の劣化や不良が発生すると宴会場の価値を大きく損なうリスクがあった。根本さんは「長寿命のLED照明への変更は、そうした課題を解決する意義が大きい」と語る。

調光設備も一新した。「崑崙」のバックヤードに設置した調光操作卓(左)と調光装置(左)

調光設備も一新した。「崑崙」のバックヤードに設置した調光操作卓(左)と調光装置(左)

LED照明を導入するメリットはそれだけではない。光のコントロールが容易になったことで、演出の幅も広がった。蛍光ランプは照度を絞ると光が不安定になり、急に消灯するなどの演出効果も難しかったが、LEDの客席ダウンライトは100%の照度から0%の暗転まで、LEDラインライトは照度100%から1%まで、自然に美しく照明が無段階変化できる。「LEDで光環境が一新した宴会場に下見に訪れたお客様は、明るさと光の質に感動される。その感動をお客様にご提案できることで、従業員のモチベーションの向上にもつながってくる」と根本さんは強調する。

「これまでは演出用の照明器具を会場に持ち込み、お客様自身で光環境をデザインすることもあったが、宴会場に備えたLEDと調光機能の性能だけで十分満足し、安心して利用するケースが増えた。LED改修は、私たちが認識していた課題解決を超え、さまざまな改善をもたらしてくれた」(根本さん)。

LED照明でSDGsの達成に取り組む

今回の照明改修には、企業としての社会貢献や価値向上の意味合いもあった。

消費電力が小さなLED照明は大幅な省エネが期待できる。「プリンスホテルは、社会とともに歩む企業として、国連が掲げる『持続可能な開発目標(SDGs)』にも取り組んでおり、LED化は、はその一環」と根本さん。プリンスホテルの総合施設管理を担う西武SCCATのFM事業部品川・高輪エリアセンターシニアマネジャーの菅原一嘉さんは、「崑崙と北辰の照明のLED化で、更新前と比較して約70%の消費電力削減を実現するをことができる」と試算している。

西武SCCAT FM事業部で高輪・品川エリアのホテル施設管理を担当する菅原一嘉さん

西武SCCAT FM事業部で高輪・品川エリアの
ホテル施設管理を担当する菅原一嘉さん

「省エネ効果だけでなく、メンテナンス業務も大幅に軽減することができる。これまでは脚立で天井裏に入り、安全具を着けてキャットウオーク上から蛍光ランプの交換作業を行っていた。長寿命のLED照明は交換頻度が少なくなり、高所での作業も減る。交換用蛍光ランプの膨大なストックを保管するスペースも不要になった」と菅原さんは言う。

光天井の蛍光灯の交換は、まずLED照明の新器具を設置してから電源を盛り替え、その後、順次、旧器具を撤去した。

国際館パミール3階コリドー。手前が「崑崙」。奥が「北辰」。リニューアルに伴って張り替えた絨毯以外は完成当時の意匠が残る

国際館パミール3階コリドー。手前が「崑崙」。奥が「北辰」。リニューアルに伴って張り替えた絨毯以外は完成当時の意匠が残る

「北辰」の照明のディテール、オリジナルのFRP製のシェードをそのまま生かし、内蔵の蛍光ランプをLEDライン照明に置換した

「北辰」の照明のディテール、オリジナルのFRP製のシェードをそのまま生かし、内蔵の蛍光ランプをLEDライン照明に置換した

グランドプリンスホテル新高輪と同ホテル内にある国際館パミールは、いずれも建築家の村野藤吾が代表を務めた村野・森建築事務所が設計した。国際館パミールは村野の没後に完成し、館名と宴会場の名前は文学者の井上靖が命名した。「北辰の光天井のシェードは、完成当時の繊維強化プラスチック(FRP)をそのまま使っている。ディテールの美しさを損なうことなく、オリジナルデザインの意匠を継承しながら照明器具を刷新することも改修のテーマだった」と菅原さんは話す。

村野藤吾は1974年に雑誌に寄稿した文中で、「名器といわれる茶碗」は使い手が愛情をもって手入れすることで名器となる例を挙げており、次のようにつづっている。「建築もそれと同じことがいえますね。設計して建てるだけではない。(中略)よく生んでよいクライアントに渡り、十年、二十年たったときによい建築になるのだと思います。だから設計というのは建物が完成したときではなく、十年、二十年先が本当の設計ではないかと思います」(鹿島出版会刊「様式の上にあれ」より)。

国際館パミールは、1990年の完成から間もなく30年を迎え、名建築家の理想の「設計」はLED照明によって21世紀に具現化した。「改修というと、空間や機能を一新することと考えがちだが、そうした目に見える刷新だけでなく、スタッフの意識をどうリノベーションするのかも重要だと考えている。今回のLED化は、お客様や環境の変化に応え、未来のホテルの実現にチャレンジする気持ちを醸成する機会にもなったと思う」(根本さん)。

LED照明は、グランドプリンスホテル新高輪の品質と建築家の理想、そして品川の未来にも「光」を与えている。

グランドプリンスホテル新高輪

グランドプリンスホテル新高輪

■建築概要
施設名/グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール大宴会場「崑崙・北辰」
所在地/東京都港区高輪3-13-1 国際館パミール3F
延べ面積/崑崙 2397㎡・北辰 1837㎡
最大収容人数/崑崙 2880名・北辰 2016名

■企業概要
企業名/株式会社プリンスホテル
設立年/1956年6月4日
本社所在地/東京都豊島区南池袋1-16-15号
資本金/36億円
年間売上高/2021億8200万円(2019年3月期)
主要な事業/宿泊事業
事業所数/国内43ホテル、海外31ホテル
従業員数/7928名(2019年3月31日現在)

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