中村智彦 氏

地方に秘められた「魅力」を産業化する 神戸国際大学 経済学部 教授 中村 智彦氏 Tomohiko Nakamura

広報誌掲載:2016年2月

長期にわたるデフレ経済に終止符を打つため、地方創生や国土強靱化などの施策がとられている。そこで重要視されるのが、地方に埋もれた魅力を再発見し、地域活性化の核とすること。これは、日本の魅力をグローバルに展開する戦略にもつながる。外資系航空会社勤務やシンガポール駐在経験もある神戸国際大学経済学部の中村智彦教授に、産業振興による地域活性化についてたずねた。

地方との継続的な繋がりを ─ 先生は地域経済論を研究されていますが、地方との繋がりの例をお教えください。

昨今、地方創生などをテーマに産学連携の取り組みがありますが、重要なのは継続性です。神戸国際大学では、12年にわたって学生を夏休みの2週間山形県置賜地域にインターンシップに行かせています。当初から担当者の方と「牛のよだれのように途切れないでいきましょう」と計画したもので、1人しか行かない年もあれば、4〜5人が行く時もあります。普通のインターンシップでは、あらかじめ決められたプログラムを学生がこなすのですが、私のところは何も決まっていません。まず、先方が何をして欲しいかを尋ねるところからスタートします。今年は観光地図を作って欲しいということなので、2週間かけて地図を作成するために山形県に行きました。
学生が地方に行くと、現地が抱える人口の少なさなどの課題を実感して帰ってきます。このため、卒業してもずっとその地と繋がりができ、山形県の業者が東京で物産販売をすると聞くと、すでに会社で営業をバリバリやっている者が手伝いに行きます。また、卒業してから彼女と結婚の報告に行ったり、ずっと繋がっているのです。UターンやIターンと言っても、結局そこに根付くのは難しいものです。私は、このようなゆるい繋がりも良いのではと思っています。

「手造り」という呪縛からの解放 ─ 地方には多くの課題があると思いますが、効率化が一番遅れているのはどの分野でしょうか。

それは、農業ではないでしょうか。知人の山形の農家の方が、ある時こう話されました。「台風時に、農家のお年寄りが田圃の水を見に行き足を滑らせて溺れたというニュースを聞いて、都会の人はなぜ高齢者が暴風雨の中を見に行くのかと思うでしょう。冷静に考えれば、こんなことをしている産業が他にありますか」と言うのです。建設業や製造業なら自動計測で水位を監視して、規定値を超えたら自動的に弁を開いたり、遠隔からカメラで監視します。農業には、機械化や自動化はふさわしくなく、手造りが良いような風潮があるのではないでしょうか。でも、そのような幻想は捨てるべきです。農業も製造業や建設業のノウハウを使えば、もっと安全に効率化できるのです。
賛否両論はありますが、酒造りでも「手造り」の呪縛を解き、徹底的に管理し、全自動化することによって美味しい酒造りを追求されている酒蔵もあります。その社長が仰るには「手造りの酒がうまいというのは気のせい。小さい蔵元で癖のある味が好きだというコアなファンならしかたがないが。美味しい酒を、ある程度の量を生産しようと思うと、ステンレスの装置を消毒して、米を選んで良い酵母を使う。そして、水も浄水した方が美味しい酒ができるに決まってるやろ」って。
また、ある酒造メーカーの関連バイオ会社は工場でキノコを生産しています。間伐材をフレークにして樹脂で菌床を成形して殺菌。そこに、バイオ研究で開発したシメジの菌を植えるのです。工場の温湿度と光はすべて自動化されていて、収穫する際には自動扉から自動ラックが出てきて成長したシメジを刈り取ります。残った菌床は豚のえさや肥料に利用され、廃棄物も発生しません。こういう生産技術もキノコ以外に展開できるかもしれません。

魅力を人に伝える方法を考える ─ 山形県の町おこしもされていると伺っています。

米沢市の近くにある長井市では、地域振興のお手伝いをしてきました。これは、長井市商工会議所が地域の食文化で町おこしをしたい、ということで、困った担当者が知り合いの私に相談を持ちかけたことが発端です。地域の飲食店の皆さんはすでにいろいろな工夫をしたものを作られており、この地域名産の「馬肉」料理に皆の注目を集める方法はないかと考えたのが『馬肉の日(8月29日)』です。この日を馬肉の日と決めて、予算がないので、商店街の振興もかねてお店から馬肉料理を買ってきて町内にある洋館前の広場で、市民持ち寄りのイベントを開くことにしました。ところが、そのイベントを民放テレビ局が取材に来るというのです。そこで、絵心のある商工会議所の担当に、ゆるキャラを急遽作らせて『バーニック』と命名。着ぐるみを作りました。予算がないので、首だけを作り、服はバーゲン品を集めてカウボーイのようなキャラクターを作りました。これが、テレビで放映されて知名度が上がったのです。
馬肉のプロモーションをする際にも、印刷費がなかったのでパンフレットのデータをPDFにして、自由に使ってくれるように地域に配布しました。皆が面白がって、このデータを拡大してポスターにしたり、店のメニューなどに使ってくださり、商工会議所の女性会の皆さんは応援団の幟まで作ってくれました。 「馬肉」は地域をつないて拡がっていきました。馬肉で有名なのは、熊本、長野、山形、青森です。普通、文化は波紋のように拡がっていくのですが、馬肉を食べる場所は点在しています。競馬場や陸軍駐屯地があったからという説もありますが、すべてに該当するわけではありません。私はずっとこれが気になっていました。そこで、昨年長井市で第一回『馬肉サミット』を開催し、馬牧場の方、食肉業者、飲食店、それを郷土食として盛り上げている自治体、商工会議所が一堂に会しました。今年は青森県五戸町で開催したのですが、業界の方が心配しているのは馬肉が売れすぎていることでした。これまでは、専門店の知識のある方だけが生食を調理していたのが、ここ数年でチェーン店の居酒屋でも提供するようになってきました。食中毒を出さない制度や体制など、業界全体の課題を話し合う場となっています。

SNSなどを活用し感性の鋭い人たちを巻き込む ─ 山形県川西町でも活動されていると伺いました。

長井市の隣に当大学の学生をインターンシップで受け入れてくださる川西町があります。この町長から「川西町」でも何かやってくれないかと相談がありました。尋ねると「川西町には何もない」という返事。現地に行って皆さんから話が出たのが、川西町のある置賜盆地で作っている豆です。ここでは、仙台や東京の豆問屋から変わった豆が欲しいと依頼があれば生産しています。そこで、豆を集めてみると30種類にもなりました。それぞれの品種を小瓶に入れて、町内でワークショップをすると、老若男女とも栽培方法から調理方法までとても盛り上がりました。そこで昨年、フェイスブックに「豆のあるまち川西」を立ち上げたのです。インターネットを使ったSNSなら大きな費用はかからず、1,000km離れた神戸からコントロールできます。現地の気温や降雪状態もわかるので、「今朝は冷え込みますね」というリアルな情報を遠隔地から発信できます。また、サイトのデザインや映像のクオリティにもこだわり、出演するのも撮影するのもすべて女性。お料理も3名の女性ボランティアに作ってもらって、美しい写真を掲載しています。そうすると、山形県でアートをされている方や写真家など、これまでとは違った方たちが、活動に関わってこられました。最終的にNHKのディレクターの目にとまり、昨年には昼の生番組で取り上げられました。その後、このメイキングが東北地域限定の番組として放映されたのです。その後、料理雑誌『オレンジページ』に取り上げられ、今年の夏にはJR東日本の車内誌『トランヴェール』にも掲載されました。

安売りではなく「ハレの場」で魅せる ─ これまでのマーケティングとは異なっているのですね。

今まで、地方の名産を広めるには、東京で産地直送で安売りするケースが多く見られました。物産展で販売するならまだしも、スーパーのコーナーで産地直送の安売りをすれば、疲弊するだけです。
そこで提案したのは、安売りを止めて、お洒落な「ハレの場」で展示会をすること。そして、見つけたのが、上野の桜木町にある戦前の日本家屋「上野桜木あたり」です。広い敷地の中に3軒の木造家屋があり、テレビドラマのロケなどにも使われています。その一室を借りて、昨年の12月の3日間、展示会を催しました。ここでは、販売に力を入れるのではなく、料理研究家やブロガー、料理店や業界の方を中心に招き、豆を用いた菓子や料理を紹介し、好評を博しました。
この話は、まだ続きます。「マルヤナギ」の名で煮豆を作っている小倉屋柳本という会社が神戸にあり、農業に関するセミナーでその社長とお会いした時に「中村さん、山形でなにをしてるの」と尋ねられました。その頃、川西町は紅大豆というほぼ絶滅したような品種を復活させ好評を博したものの、作りすぎてしまって倉庫に一杯在庫していました。そのサンプルをたまたま持っていたので、「こんなのやっています」とお渡ししました。小倉屋柳本では、消費者からは少し高くても良いから国内産の材料で作った煮豆が欲しいということで、新商品を開発中でした。ところが、きれいな赤色を出す国内産の豆が見つからずに行き詰まっていたのです。そこに「紅大豆」を持って行ったので、双方が大喜び。8月には新製品を売り出すことになりました。
本当に価値が分かってくれる人には、それに見合った金額で販売でき、双方が喜べることが実証されたのです。

高品質」「ノウハウ」は日本の有力な輸出資産 ─ 先生は海外駐在経験もお持ちですが、その視点からのお話をお聞かせください。

新卒で入社したのがタイ国際航空で、旅客営業ではなく貨物営業に回されました。学生の目では旅客営業の方が楽しそうですが、数年経つと貨物営業は海外駐在もあり語学力もアップするので、面白さがわかってきます。社会に大きな変動がある場合は、ほぼ半年くらい前に貨物量に変化が現れます。荷物の動きがおかしいと感じ、その傾向を探ると、社会変化の情報をいち早く把握できるのです。海外という視点からマーケットを見ると「魅力」も見えてきます。
私たちが普通だと思っているものに、日本のサービス業も含めた「品質」があります。もう20年以上も前になりますが、私が独身の頃、タイの友達が私のワンルームマンションに遊びに来ると、小さな部屋にエアコンだけでなく風呂の温度調節機能までがあって「これって凄いよね」と感激していました。私はシンガポールに2年間住んでいましたが、住宅設備や水廻り設備がしょっちゅう故障していて、呼んでも修理に来ません。ところが日本なら、一般住宅でも室温や湯温をコントロールする技術があり、故障しないのです。最近ゼネコンの方から、海外で建設して欲しいという依頼が多いと伺っています。その理由は、外国の方が日本の旅館やホテルに宿泊すると、設備も内装もきっちり施工されていて、非常に快適だと感じられる。実際私たちが東南アジアなどに旅行すると、かなり有名なホテルでも、目立たないところに隙間があったり、洗面台の下などのタイル施工に手抜きがあったりします。誰でもきれいで快適な方が良いですよね。そこで、自分の国でも日本の品質で建物や内装を造って欲しいとなるのです。
グローバル化において日本が弱いのはノウハウの販売です。私がよくお話しする例に、PSAインターナショナルという会社の話があります。これはシンガポール港を運営している会社ですが、ここの主力商品はコンテナの管理システムです。ところが、この管理システムは1970年代に日本が彼等に教えたものなのです。そのシステムをシンガポール人たちはグレードアップしてソフトウエア化し、世界中に販売しているのです。これでも分かるように、日本はノウハウを販売するのが下手で、海外企業に簡単に教えてしまいます。日本はここ10年ほど自信喪失とも思えるようなところがありますが、海外ではまだ日本への憧れがあります。だからタイの友人にはよく「中村、偽物がたくさん出ているうちに売りに来た方がいいよ」と言われます。偽物が出ていると言うことは本物が欲しいのです。「偽物も出なくなったらお終いだよ。今がチャンスだよ」と言われています。
地方には、そこに住むからこそ気づいていない価値があります。これを適正な値段「リーズナブル」に売ることが必要で、これはグローバルにも当てはまります。価値をしっかりと認識した「リーズナブル」をめざす、お手伝いをしていきたいと考えています。

山形かわにし「豆の展覧会」会場風景 山形かわにし「豆の展覧会」会場風景

中村智彦 氏

中村智彦 氏
1964年東京都生まれ。1996年名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。
PHP総合研究所、大阪府立産業開発研究所などを経て現職。専門は中小企業論と地域経済論で、現地での調査・研究を重視し、中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興のプロジェクトにも数多く参画する。現在、愛知県愛知ブランド認定委員、日本テレビ「世界一受けたい授業」工場見学担当講師などのほか、『石川県中央会々報』(石川県中小企業団体中央会)などに連載記事を執筆。現在、京都機械金属中小企業青年連絡会顧問を務める。

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