• HARUMI FLAG
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三方を海に囲まれた東京・晴海に広がる約18haのエリアで開発中の「HARUMI FLAG」。
建物の一部は2019年末に完成し、東京五輪・パラリンピックの選手村として利用する。
分譲住宅の第1期登録受け付けは19年春にスタート。
晴海二丁目に販売センター「HARUMI FLAGパビリオン」を開設している。

1万2000人が暮らす新しい街

 「HARUMI FLAG(ハルミ・フラッグ)」は、東京都中央区の晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業開発によって誕生するビッグプロジェクトだ。東京都は、晴海地区の都有地を中心に東京五輪・パラリンピックの選手村の整備と、大会後のレガシーとなる街づくりに着手。大会後は住宅と商業施設となる建物群の整備にあたり、特定建築者制度を導入し、民間事業者グループ11社(三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、野村不動産、住友不動産、住友商事、東急不動産、東京建物、NTT都市開発、日鉄興和不動産、大和ハウス工業、三井不動産)の資金と開発ノウハウを活用した、環境先進都市のモデル実現に向けた整備を進めてきた。

 東京五輪・パラリンピックの開催期間中、選手村の一部として利用する21棟については、2017年に着工し、2019年12月に仮完成した。大会後、21年1月から一部解体工事と新築工事を再開し、23年初めには分譲2690戸と賃貸住宅の入居がスタート。24年夏にはエリアのシンボルとなる50階建てのタワー2棟が完成し、全23棟、5632戸(分譲4145戸、賃貸1487戸)に約1万2000人が暮らすようになる。
 「晴海」は、1937年の町名の公募で「晴れた海を望む」ことを希求する地域住民により命名された。当時、地名に込められた願いは、HARUMI FLAGの全体完成で現実のものとなる。

「HARUMI FLAG」敷地完成予想CG。住宅は三つの街区で構成する

「HARUMI FLAG」敷地完成予想CG。住宅は三つの街区で構成する

大会開催中は現地を体験できない

 19年4月、HARUMI FLAGの民間事業者グループが開設した分譲住宅の販売センター「HARUMI FLAGパビリオン」がオープンした。館内には、街の魅力をゴーグルなしで複数人が同時に体験できる新たな仮想現実(VR)システムを導入。同販売センターのためにパナソニックが開発した空間演出ソリューション「VIRTUAL STAGE MIERVA(バーチャル ステージミエルバ)」だ。

住戸の内部、中庭の散策、高層階からの眺望などの動画コンテンツを、広視野で没入感のある湾曲立体スクリーンなどにプロジェクション投影するシステムだ。エンターテインメント空間のような未知のVR体験は、来場者の注目度も高い。販売センターでは現在、「MIERVA ドーム型」と「MIERVA 眺望体感型」の2タイプが稼働中だ。「MIERVA」を採用した民間事業者グループの代表企業、三井不動産レジデンシャルの髙木洋一郎さんに、その開発から導入まで、今回のプロジェクトを振り返ってもらった。

三井不動産レジデンシャル株式会社 東京オリンピック・パラリンピック選手村事業部 推進室主管 髙木洋一郎さん

三井不動産レジデンシャル株式会社
東京オリンピック・パラリンピック選手村事業部
推進室主管
髙木洋一郎さん

VIRTUAL STAGE MIERVA(バーチャル ステージミエルバ)

「HARUMI FLAG パビリオン」が導入した「VIRTUAL STAGE MIERVA」のドームタイプ。高さ2.5mのスクリーンと
2台の高輝度プロジェクターで、人間の視野角に近い上下・左右、最大約180度の広視野角VRを投影する。没入感のある映像を体験できる

 「HARUMI FLAGの現地は当然何度も足を運んでいるが、時と共に移ろう東京湾やレインボーブリッジを望む圧巻の景観と、海風の心地よさは、このエリアだけの大きな魅力だと感じた」と髙木さん。銀座駅まで約2.5キロの好立地でありながら、三方を海に囲まれ、東京にいながら東京を眺められる特別な住環境となる。

 2019年末に一部の建物は仮完成し、分譲住宅も第1期販売以降既に契約が始まっているが、2020中は東京五輪・パラリンピックの選手村に使用されるため、一般の人々は実際の環境や眺望の素晴らしさを現地で体験できない。販売センターのモデルルームや一般的な映像展示を駆使しても、HARUMI FLAGの大きな提供価値である街区や住居、景観の魅力を多くの人々に伝えることは難しい。

 さらに、販売センターにはもう一つの課題があった。HARUMI FLAGの住戸プランは全部で1000タイプを超える。だが、販売センターで展示できるモデルルームは5タイプに限られている。「模型と平面図だけで住戸空間を想像できる人はそう多くはない。映像技術を駆使して住戸プランを体験できるようになれば、有用な販売支援ツールになるし、眺望の疑似体験も可能になるのではないかと、漠然としたアイデアがあった」と髙木さんは振り返る。その課題解決の相談をパナソニックに持ちかけた。

HARUMI FLAG パビリオン

パナソニックの新たな空間演出ソリューション「VIRTUAL STAGE MIERVA(バーチャル ステージミエルバ)」を
2機導入した販売センター「HARUMI FLAG パビリオン」

映像技術で街の価値を発信する

 「一緒に課題解決に取り組んでほしい」。髙木さんは、パナソニックが開発中の技術を提案する展示会「Wonder Japan Solutions」で、高度な映像ソリューションを体感し、さまざまな課題解決に導く同社の技術力への期待を感じていたという。

 一方、パナソニックもHARUMI FLAGのエネルギー事業を担う企業グループの一員として、三井不動産レジデンシャルと同様、企画当初から開発プロジェクトに参画していた。同社の純水素型燃料電池や住宅用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」の開発ノウハウが、同エリアが掲げる水素エネルギー本格利用の実現のために求められていたからだ。

 HARUMI FLAGの開発理念や目標を共有する三井不動産レジデンシャルを代表とする事業者グループとパナソニックによって、映像技術で街の価値を発信する共同開発プロジェクトが17年にスタートした。

 パナソニックは髙木さんらから相談を受けた2カ月後に、まず、映像技術を駆使した次世代型販売センター運営ソリューション案をプレゼンテーションした。その後、前述の眺望と住戸内観の二つの課題解決にテーマを絞り、事業者グループの要望や課題提起にパナソニックの技術者が応えるかたちで、検証と改善を繰り返しながらプロジェクトは前進した。

 そのプロセスを髙木さんはこう振り返る。「室内の設計プランを3D化して体感する技術提案では、当初は視覚的な歪みがあり奥行き感の表現も不十分だった。その指摘に対し、さまざまな形状のスクリーンで投影実験を行い、技術陣が検証を重ね、最終的には実際の部屋にいる感覚が得られるまで完成度が高まった。こちらの要望に、技術で確実にソリューションを提供し、短期間で洗練されていった印象がある」。その完成形が「MIERVAドーム型」だ。

「MIERVA ドーム型」と投写イメージ

左は「MIERVA ドーム型」。見る人の視点(立ち位置、高さ)を計算し、映像を1分の1スケールに投影することで没入感のある体験が得られる。
従来のゴーグル越しでは1人でしか体験できなかったVR映像が複数人同時に体験可能だ。右は投写イメージ。
縦置きのプロジェクター2台で、半円柱曲面スクリーンの壁面、天井面、床面に映像を投写する

レインボーブリッジの眺望を動的な映像で再現

  改善の過程で、内観の3Dモデルの窓に眺望の画像をはめ込んだ時、髙木さんは「空間の奥行き感が一気に深まった」と感じたという。その感想を伝えたところ、パナソニックは翌週の打ち合わせで肉眼に近い眺望の実画像を用意して、角部屋を想定した実際の窓フレーム背後のスクリーンを使い、MIERVAで眺望をプレゼンテーションしてみせた。

 「これまで窓からの景観は引き伸ばした写真を展示するケースが多かったが、MIERVAが映し出した光景はリアルスケールで体験する眺望に近く、迫力があった。レインボーブリッジを望む朝から夜までのタイムラプス映像(長時間の経過の様子を短い再生時間で見せる映像)を使うと、静止画とは違う、光や海の変化も伝わってきた」。

 この投影実験は、海を臨む素晴らしい眺望を動的な映像で再現する「MIERVA 眺望体感型」に結実する。販売センターの展示では、パナソニックの「ライトマネージャー Fx」を組み合わせ、朝から夜までの映像変化に、室内照明が連動して調光・調色する演出も加えられた。

「MIERVA ドーム型」と投写イメージ
「MIERVA ドーム型」と投写イメージ

上と下左は、窓からの圧巻の景観を映像で体験できる「VIRTUAL STAGE MIERVA 眺望体感型」。
4台の高輝度レーザープロジェクターと超短焦点レンズで、実際の建物から定点撮影された映像を窓外の スクリーンに投写。
24時間のタイムラプス映像を1分間に圧縮し、実際の高層階から望む東京湾やレインボーブリッジが、朝から夜へ変化する様子を大パノラマで再現する。
映像に連動し、室内照明の照度・ 色温度も変化する。下右は投写イメージ。全長12mの壁面に映像を投写している

VRで不動産販売が変わる

 「多様な住戸プランの再現も重要だが、顧客は窓からの眺望や周辺環境への関心が高い。その要望に応え、完成後の街区の中庭を散策するリアルスケール映像を『MIERVA ドーム型』の新コンテンツとして追加した。こちらも好評だ」(髙木さん)。

 コンテンツを入れ替えるだけで、ニーズに合わせて伝える情報や体験を変更・追加できるのもMIERVAの強みといえる。コンテンツのリソースとなる画像データの撮影には特殊な機材は不要。展示用に一から3Dデータを作成するのはコストも時間もかかるが、MIERVAなら、設計検討用に作成したBIMやCAD、3DCGのデータをプレゼンテーションのコンテンツに加工することも可能だ。HARUMI FLAGパビリオンでは、大会後、早い段階で2棟のタワー向けコンテンツに入れ替える予定だという。

2024年に2棟のタワー棟が完成し、「HARUMI FLAG」は全体完成を迎える

2024年に2棟のタワー棟が完成し、「HARUMI FLAG」は全体完成を迎える

 MIERVAのメリットはそれだけにとどまらない。「これからの不動産の販売方法を大きく変える可能性を秘めている」と髙木さんは考える。

 「これまでの不動産販売は、営業マンが情報を顧客に伝え、顧客はその情報を受動的に受け入れるよう強いられるケースも少なくなかった。情報の非対称性の解消は業界の課題といえる。MIERVAは、営業マンの説明を聞く前に、顧客が体験を通して自ら必要な情報を能 動的に獲得し、営業トークを介さずに自ら理解する感覚が得られる。この意味は大きい」(髙木さん)。

 例えばHARUMI FLAGの場合は、住宅の概要や設備などの説明を聞く前に、顧客はMIERVAで眺望や環境の魅力を「驚き」とともに体験する。営業マンは、顧客の体験と理解を前提に、その魅力を最大限に生かすためにプランや設備をどのように考えたのかをシンプルに伝えることができる。

 「MIERVAで眺望などを体感した顧客は、営業マンがいきなり説明を始めるよりも、興味を持って話を聞いてくれるように思う」と髙木さんは言う。不特定多数の人々に販売センターに来てもらうことを注力するより、不動産の魅力を効果的に伝えて顧客の購入意欲を効率的に高めることができれば、結果的に営業コストの軽減も期待できる。

「VIRTUAL STAGE MIERVA 眺望体感型」の裏側。

「VIRTUAL STAGE MIERVA 眺望体感型」の裏側。
超短焦点レンズET-D75LE95搭載の高輝度レーザープロジェクター PT-RZ12KJが、限られたスペースでも鮮やかな映像を投写。
MIERVAが継ぎ目のないワイドな映像で眺望を再現する

 MIERVAは、もともとは複数のプロジェクターをコントロールして、それぞれの映像をシームレスにつなぐソフトウエアの技術だ。この新技術に加え、プロジェクター、レンズ、スクリーン、照明、コンテンツ加工など、担当分野を超えた体制でパナソニックは課題解決に挑んだ。今後はMIERVAの表現領域をさらに広げ、ニーズに応じてカスタマイズが可能なシステムの構築に取り組んでいく。

三井不動産レジデンシャル株式会社

三井不動産レジデンシャル株式会社

■企業概要
企業名/三井不動産レジデンシャル株式会社
設立年/2005年12月26日
本社所在地/東京都中央区日本橋室町三丁目2番1号
資本金/400億円
年間売上高/3194億円(2018年度実績)
主要な事業/中高層住宅事業、戸建住宅事業、
賃貸住宅事業、海外事業、
市街地再開発事業・マンション建替え事業、
販売受託事業、シニアレジデンス事業
事業所数/本社、8支店、1営業所
従業員数/1832人(2019年4月1日)

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