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「スマートシティAiCT」のエントランスアプローチから見たオフィス棟夕景。外壁はスギ材CLT張り仕上げ

地方都市の人口減少問題にICTで挑む

 会津若松市は福島県西部の会津地方に位置し、磐梯山や猪苗代湖などの豊かな自然に囲まれ、数々の史跡が残る地方中心都市として知られている。市の人口は1961年に10万人を突破し、95年に約13万人に達したが、その後は減少傾向にあり現在は人口約12万人。2008年のリーマン・ショック後、市内に立地していた電子部品メーカーの海外生産シフトで、多くの製造業関連の従業員が市外に流出した。

 日本が08年から人口が減少に転じたのに対し、会津若松市では前述の通り、国より13年早く人口減少が始まった。今、会津若松が向き合う課題は、数年後に日本が直面する課題といっていい。

 同市では、このまま人口減少が続き、さらに高齢化が進行すると、社会インフラや持続的な行政サービスの維持が困難になると予測。その対策と克服のため、13年から「スマートシティ会津若松」を掲げ、課題解決先進地域となるべく、行政サービスや事業にICT(情報通信技術)を導入したまちづくりに取り組んできた。公共データのオープン化も進み、ICT関連の実証事業採択実績は日本最多を誇る。「スマートシティAiCT(アイクト)」は、その取り組みを加速化する拠点として19年4月に開所した。

 会津若松市のスマートシティ構想の出発点のひとつに、93年に会津若松市に開学した公立大学法人「会津大学」がある。同大学はコンピューター理工学専門大学のユニークな特性を生かし、産学官連携の取り組みを通したICT関連企業の誘致や雇用創出が期待されている。

AiCTはそうした企業誘致のためのオフィス環境整備事業であり、ICTをテーマに市民と企業の交流を促す公用施設に位置付けたものである。明確な目的とコンセプトで計画した施設を受け皿に、同じベクトルを有する企業を集積。10万人規模都市をフィールドに、実証実験の成果を共有し、オープンイノベーションを促す。そこで培われたソリューションは、将来、同じ課題に向き合う国内外の地域にも生かしてもらう。

地域主体でスマートシティに取り組む

 「市は地域の課題解決のため大学と企業に協力を求め、実証実験や先進事業検証の機会、最適規模の環境(地方中心都市クラス)を提供する。同時に、将来の人材不足が懸念されるグローバルアナリティクス人材の育成を、企業、国、大学の協力で推進していく。そのための拠点となる施設が必要だった。人口を増やすだけでなく、人の活動が活発化することによる経済波及効果が期待できる」。会津若松市観光商工部企業立地課主査の原直弘さんは、AiCT設立の背景をこう説明する。現在、会津大学卒業生の8割は地域外企業に就職するが、そうした人材が地元に定着することで人口減少抑制も期待している。

 市は事業用地として、鶴ヶ城公園に通じる北出丸大通りに面した日本たばこ産業会津営業所跡地(約9500㎡)を取得。16年12月に「ICTオフィス環境整備事業に係るホルダー企業(建物を建設後に事業者への賃貸を行う企業)予定者」を公募型プロポーザルで募集する。その結果、地元企業5社が組織した特定目的会社のAiYUMU(アユム)をホルダー企業に選定。AiYUMUは会津若松市と共同でAiCTを所有し、AiYUMUが施設の管理運営を行っている。

会津若松市 観光商工部企業立地課 主査 原 直弘さん

会津若松市
観光商工部企業立地課 主査
原 直弘さん

 「課題はAiCTのテナント企業誘致だったが、大手デベロッパーに任せるのではなく、これまで実践してきた市、大学、地元企業の官学民連携の事例をサンプルに、会津若松の魅力や優位性を企業に伝え誘致に動いた。オフィス棟の入居企業の1社である総合コンサルティングファーム、アクセンチュアの協力が得られたことも大きい」とAiYUMU取締役副社長の白井武男さんは言う。

 誘致はICT関連企業に限定したが、20年1月時点でオフィス入居率は80%を達成。スタートアップ企業向けの小規模スタジオには、地元だけでなく東京から移ってきた企業もある。AiYUMU取締役(会津大学客員准教授)が会津若松市と市民、大学発ベンチャー、大手企業とのパイプ役(産学官連携)を担っていることも強みである。

AiYUMU取締役 副社長 白井 武男さん 「AiCT」を設計した白井設計の代表取締役を務める

AiYUMU取締役 副社長
白井 武男さん
「AiCT」を設計した白井設計の代表取締役を務める

「AiCT」オフィス棟1階には総合コンサルティングファームのアクセンチュアがオフィスを構える。
空間デザインはゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッド

「AiCT」オフィス棟(左)と交流棟(右)はウッドデッキのパブリックスペースでつながる。
市民と企業が出合う交流スペースとしての機能もある

 重要なのは地域の中小企業がAiCTに入居する大手企業と対等な立場でビジネス創出に挑戦できる環境づくり。そして市民と企業の交流機会を増やすこと。その鍵を握るのが交流棟だ。「地域からイノベーションを起こすには、市民、大学、企業の交流は不可欠で、それぞれが地域とともに成長する環境が求められる」と白井さん。前面道路からセットバックして、赤瓦を葺いた木造平屋建ての交流棟があり、その背後に鉄骨造3階建てのオフィス棟を配置。これら2つの建物はウッドデッキのオープンスペースでつないだ。

上は、鶴ヶ城公園につながる北出丸大通りに面した「AiCT」交流棟。通りに賑わいの創出にも貢献する。
下は、交流棟のホール。市民や学生が企業との交流を促す多目的空間。オフィス棟入居企業のセミナーなども開催する

鶴ヶ城の赤瓦と地場産材でつくった交流棟

 「交流棟は地場産材を使い、平屋で街並みに馴染む構造と意匠を心がけた。屋根材には福島県産スギ材のCLT(直交集成板)を採用した。国産木材の活用が進めば、林業は地域を支える成長産業となる可能性があり、森林の健全化は水源の涵養、地球温暖化防止などに貢献する」。設計を担当した白井設計取締役設計部長の鈴木利有規さんは、木造建物の効用をこう語る。

「AiCT」設計意匠総括の 白井設計 鈴木 利有規さん

「AiCT」設計意匠総括の
白井設計
鈴木 利有規さん

交流棟ファサード。景観条例が強化された鶴ヶ城周辺地区の認定建築物第1号。背後にオフィス棟が見える。
屋根には鶴ヶ城にも使われる会津地方特有の赤瓦を葺いた

 「背後にある鉄骨造のオフィス棟の外壁はALCパネル+東北産スギ材CLTとなっている。化粧仕上げに張ったCLTが奏功して建物の断熱性能が高まり、省エネ性能も向上している。開口部にはLow-E複層ガラスを採用した。このほか、水力や太陽光などで発電する会津電力から再生可能エネルギー電力を購入し、オフィス棟のベース照明にはパナソニックの発光ダイオード(LED)照明を採用。環境負荷軽減に貢献する建物として計画している。さらに停電時も3日間は自家発電で最低限必要な電力を確保できるBCP機能を用意した」と鈴木さん。このほかAiCTでは、空調、照明制御などを一元管理し、さらなる省エネを実現するパナソニックのBA(ビル・オートメーション)システム「エミット・ビルコントローラWeLBA」を導入している。

オフィス棟のエレベーターホールにはセキュリティーゲートで入館を制御。
この先は入居企業が交流するセミパブリックエリアで、さらに企業ごとにセキュリティーを確保できる

オフィス棟は、社内の別部署に行く感覚で別の企業を訪問できる自由なワークスタイルを実現。
エレベーターホールのセミパブリックエリア、サロンラウンジで企業間の交流を促しオープンイノベーションを促進する仕組みを計画的に組み込んだ

 オフィス棟西側開口部のCLT 製垂直ルーバーは、パナソニック環境エンジニアリングが西日を効率的に抑制する角度を解析して設置した。併せて、ルーバー間に自動灌水装置とプランターポットを組み込み、つる植物による垂直緑化を行う。このプロジェクトでパナソニックは、単に建物に設備や照明を提供するメーカーとしてだけでなく、スマートシティ会津若松のまちづくりのプレイヤーの一員として参画してきた。日本各地のスマートシティ実証事業で蓄積したパナソニックの経験や知見を、先進的なまちづくりに生かしている。

オフィス棟の西側ファサード。開口部には日射をコントロールするCLT製のルーバーを設置した。手前は駐車場スペース

オフィス棟の西側に設置されたルーバーの間には、自動灌水装置を備えたプランターを組み込み、
常緑つる植物の垂直緑化による日射のコントロールを行う

スマートシティ会津若松「スマートシティAiCT」

所在地/福島県会津若松市東栄町
事業主/株式会社AiYUMU
運営/株式会社AiYUMU
設計・監理/株式会社白井設計
施工/戸田・会津土建・八ッ橋・アクーズ会津特定建設工事
竣工/2019年4月

主な設備

● LEDベースライト iDシリーズ ● LEDダウンライト ● LED高天井用器具 ● LEDスポットライト ● LED階段灯 ● LED非常灯
● エミット・ビルコントローラ WeLBA ● 木製ルーバー(CLT)+垂直緑化 (パナソニック環境エンジニアリング株式会社)

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