• 東日本旅客鉄道株式会社 高輪ゲートウェイ駅
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高輪ゲートウェイ駅の夜景。西側の国道15号線からコンコースにつながる大階段を見る

東京の新しい玄関口をともす、建築と融合した照明

高輪ゲートウェイ駅

2020年3月14日、東京都心部で環状運転を行う山手線に49年ぶりに新駅が開業する。東日本旅客鉄道(JR東日本)が、山手線内で駅間距離が最も長い品川駅と田町駅の間に新設した「高輪ゲートウェイ駅」だ。この新駅には山手線と京浜東北線が停車することになる。

駅西側の国道沿いには国の史跡「高輪大木戸跡」があり、古来より街道が通じる江戸の玄関口として賑わった。明治時代には地域をつなぐ鉄道が開通した歴史的背景もある。

また新しい街は、世界中から先進的な企業と人材が集う国際交流拠点の形成を目指しており、この地域の歴史を受け継いだ新駅は、今後も交流拠点としての機能を担うことになる。

新駅の駅名には過去と未来、そして日本と世界をつなぐという思いが込められている。

高輪ゲートウェイ駅は、JR東日本が「グローバルゲートウェイ品川」をコンセプトに進める車両基地(東京総合車両センター田町センター)跡地の再開発「品川開発プロジェクト」の玄関口でもある。JR東日本はこの再開発で、SDGs(持続可能な開発目標)の実現を目指す環境都市づくりを計画。高輪ゲートウェイ駅も、最新の省エネ技術や国産木材活用によるCO2固定など、さまざまな環境保全技術を積極的に採用した。

「省エネ」「創エネ」「エコ実感」「環境調和」を4つの柱として、それぞれの技術をエコメニューとして駅に導入するJR東日本の取り組み「エコステ」のモデル駅でもある。駅構内には小型風力発電や太陽光発電も設置し、駅利用者に再生可能エネルギーの認知拡大を促す。

膜素材を使った大屋根からは自然光が降り注ぎ、日中の照明電力量を削減する

膜素材を使った大屋根からは自然光が降り注ぎ、日中の照明電力量を削減する

新駅のデザインアーキテクトは隈研吾氏。福島県古殿町、宮城県石巻市などの国産木材をコンコースに使用し、日本の折り紙をモチーフにした巨大な膜屋根で駅舎全体を覆う。駅と広場と街を一体化させることで、国際交流拠点の玄関口にふさわしい空間を創出した。屋根には日射の熱反射率が高い膜材を採用し、駅内部の温度上昇を抑制する。膜屋根には光透過性を生かして昼間の照明電力量を削減する狙いもある。

器具の存在感を消す照明デザイン

「JR東日本でいちばん新しい駅なので、設備もデザインも新しいチャレンジに取り組んだ。駅舎の照明デザインで実績がある照明デザイナーの面出薫氏が主宰するライティングプランナーズ アソシエーツ(LPA)とともに、お客さまの満足度向上につながる、従来の駅にはない照明デザインの手法を模索した」。JR東日本・東京電気システム開発工事事務所の萩元悠里子さんは高輪ゲートウェイ駅の照明プロジェクトをこう振り返る。

例えば、季節、時間帯、天候に応じてLED照明の調光調色調御を行うシステムをJR東日本のホーム照明として初めて導入した。膜面から降り注ぐ自然光とLED光の調和を図り、ホームの照明の色温度が5000Kから3000Kまで変化し、夕方からはコンコースの照明を含め、電球色で木質仕上げの空間を暖かく照らし出す。

日が沈むと、屋根面にも電球色の照明がともる。障子のように均一に光が拡散し、面発光する大屋根が夜空に浮かび上がる。

JR東日本 東京電気システム開発工事事務所の萩元 悠里子さん。「高輪ゲートウェイ駅」の照明計画を担当した。

JR東日本 東京電気システム開発工事事務所の
萩元 悠里子さん。
「高輪ゲートウェイ駅」の照明計画を担当した

「太陽光の移ろいに応じてホームの照明の色温度を変える照明デザインは、今回の新たなチャレンジの1つ。JR東日本の駅として初めての取り組みとなる。LPAと隈研吾建築都市設計事務所からは、天井やフレームを照らす器具や設備はできるだけ見えないように収め、駅利用者に存在感を感じさせないことが求められた。プロジェクトに参画する照明メーカーには、そのデザイン課題への対応力が問われた」と萩元さん。

高輪ゲートウェイ駅の夜景。折り紙をモチーフにした膜屋根が浮かび上がる

高輪ゲートウェイ駅の夜景。折り紙をモチーフにした膜屋根が浮かび上がる

デザイン面では、建築部材と同化する照明器具を特注製作するなど対応が求められた。

まず、細かなデザインの要求に応えるため、照明のシミュレーションだけでなく、器具のモックアップをつくった。工場で駅舎内と同条件になるよう設置、点灯して、照明デザイナーとともに器具デザインと光を検証した。

配光を制御するルーバーの原寸モデルを現場に持ち込み、投光器の光学的な微調整も重ねた。必要な箇所に必要な質と量の光を配するため、屋根やフレームへの投光には約130灯の特注器具を設置。器具の視覚的な存在感をできるだけ消して、膜天井自体が発光するような理想的な光環境をつくりだした。

3階デッキから見た2階コンコースと大屋根。照明器具や配線などはほとんど視覚に入らない。天井とフレームに光だけが浮かび上がる

3階デッキから見た2階コンコースと大屋根。照明器具や配線などはほとんど視覚に入らない。天井とフレームに光だけが浮かび上がる

自然光のように光が移ろう

照明デザインを手がけたLPAは、時間や利用者数に応じて照度と色温度が変化する7種類の光のシーンを設定した。それぞれのシーンは約5分の時間をかけてゆっくりと転換していく。

「私たちの照明デザインの原理は『自然光に学べ』。自然の光からは誰もが納得する快適を学べる。時間をかけて変化して、夕日から薄暮を経て、気がつくと夜のとばりが降りている。朝から夜までシーン展開する光の移ろいは、LED照明とデジタル制御で可能になった」とLPA代表の面出薫さんは言う。

LPA 代表 面出 薫さん

LPA 代表
面出 薫さん

膜構造の折り紙屋根は、高輪ゲートウェイ駅の外観における大きな特徴だ。この屋根が発する穏やかな光が、新しく生まれる街の夜のランドマークとなるイメージから照明デザインはスタートした。

「周囲には高層ビルが多い。眼下にほんのりと光る屋根が浮かんで見えるよう、膜面の光の透過率を計算してライトアップした。一方、内部空間は、膜とガラスで構成する建築なので外光の影響を受けやすく、夜と昼で光環境が大きく異なるため、照明には内外の光環境を調和させる役目も求められる。照度、色温度が変化する光のシーン設定にはそれを実現する目的もあった」と、LPAシニア アソシエートの中村美寿々さんは説明する。

LPA シニア アソシエート 中村 美寿々さん

LPA シニア アソシエート
中村 美寿々さん

膜構造建築の照明は、内外の光のバランスだけでなく、大屋根を支えるフレームの影や照明器具の取り付け位置にも配慮する必要がある。

「膜構造を支持するフレームが複雑に入り組んでいるため、当初はフレームの影やハイライトが強く出ないよう、照明器具の位置や向きを3Dシミュレーションで確認しながらデザインと配灯計画を進めた。最終的には現場で確認しながら調整し、器具のボリュームを抑えるために、グレア(まぶしさ)カットのフードをルーバーに変更するなど、細かな変更を重ねた」。こう話すLPA取締役・シニア アソシエートの窪田麻里さんは、大屋根が内部からも美しく見えるよう細心の注意を払ったという。

変更したルーバーは、パナソニックの担当者と共に最適な寸法と羽根の枚数を現場で検証。羽根が発光点にかぶって光量が減退しないように、LED配列のわずかな隙間に並ぶよう設計した。

LPA 取締役・シニア アソシエート 窪田 麻里さん

LPA 取締役・シニア アソシエート
窪田 麻里さん

夜、電球色に発光する折り紙屋根と、改札からデッキに流れ出たような暖かな光たまりが連なる。落ち着きを感じるユニークな駅舎照明が実現した。

「一般に、色温度が高い白い光のほうが、明るく安全という認識がある。しかし人のサーカディアンリズム(約1日の周期をつかさどる体内時計)と光の関係を考慮するなら、仕事を終えて帰宅する人々が利用する時間帯の駅の照明には、白い光から温かみのある光へと自然に移り変わることが望ましい。単に必要な照度を満たすのではなく、消費電力を抑えたうえで利用者にとって心地よい光環境をどう実現するか。高輪ゲートウェイ駅で実現した光環境が、これからの駅舎照明のベンチマークになることを期待したい」(面出さん)。

電力線を信号線としても使う

ホームの照明の調光調色には、器具の電源線とは別に制御用の信号線を配する必要がある。煩雑化する配線をどう隠してどう収めるか。こうした難題にメーカーとしてチャレンジしたのがパナソニックだった。

複雑化する配線の課題とホーム照明の調光調色は、JR東日本とパナソニックが共同で研究開発したPLC(電力線通信)による照明制御システムで解決を図った。PLCとは、照明器具の電力線に高周波通信用信号を乗せて伝送し、電力線を信号線としても利用する技術。PLCを導入することで、照明制御盤から各器具へ調光調色のための信号線を敷設する必要がなくなり、よりシンプルな配線が可能になる。

しかし、実際に駅ホームで運用するには、さらなる課題を解決する必要があった。
「駅構内では、多種多用な電気機器が使用される上、構内の無線や列車発停車に伴う電磁波など様々な影響が想定されるが、照明制御には誤作動しないシステム構築が求められる」と、JR東日本・東京電気システム開発工事事務所の皆藤貴志さんは説明する。
パナソニックは、実際に駅ホームのノイズなどを測定し、その影響を防ぐ駅舎に最適化した回路を設計した。「導入可能性を探るために、千葉駅のホームの一部を使って2017年7 月~12月にPLCの検証を行って品質を確認したうえで、高輪ゲートウェイ駅に導入した。JR東日本では初めての本格採用となる」と皆藤さん。

JR東日本 東京電気システム開発工事事務所駅開発 大規模駅開発G GL副課長の 皆藤 貴志さん

JR東日本 東京電気システム開発工事事務所
駅開発 大規模駅開発G GL副課長の 皆藤 貴志さん

パナソニックは合計594台のPLC通信部内蔵照明器具を納入。PLC照明制御システムによって、最小限の配線敷設でLED照明の調光調色を可能にした。

ホームにはライン照明がシームレスに連なる

ホームにはライン照明がシームレスに連なる

PLCで制御し、照度と色温度を刻々と変化できる

PLCで制御し、照度と色温度を刻々と変化できる

図:パソコンで中央監視 図:パソコンで中央監視

高輪ゲートウェイ駅では、人工知能(AI)などの先端技術を盛り込んだ未来の駅サービス設備の導入や、検証も行う予定だ。さまざまな試験運用や実証実験を通じて、そこで得られた知見を将来のJR東日本の駅舎の改良工事にいかしたい」と萩元さんは言う。

駅構内と屋外は透明ガラスで隔てており、ホームと街を視覚的につなげる

駅構内と屋外は透明ガラスで隔てており、ホームと街を視覚的につなげる

パナソニックは高輪ゲートウェイ駅で、照明設備以外にも、駅コンコースの喧噪(けんそう)音に合わせて聞き取りやすい放送音量を自動制御する放送システム、統合監視システム、案内コミュニケーションロボット、車いすタイプの移動支援ロボット――などの新技術を試行導入する。デザインと最新テクノロジーが織り成す東京の新しい玄関口がもうすぐ開き、驚きや感動とともに世界の人々を迎え入れるはずだ。

撮影協力:JR東日本

東日本旅客鉄道株式会社 高輪ゲートウェイ駅

メガネスーパー 溝ノ口本店

施設名/高輪ゲートウェイ駅
所在地/東京都港区港南二丁目
構造・高さ/鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造、
地上3階、地下1階・建物高さ 約30m
用途・規模等/総床面積 約7,600㎡、
駅施設(駅事務室・旅客便所等) 約2,400㎡、
店舗(2 階、3 階) 約500 ㎡
大屋根(約110m×35m) 約4,000㎡、
吹抜け(約50m×20m) 約1,000㎡
設計/東日本旅客鉄道(株) 東京工事事務所
東京電気システム開発工事事務所
品川新駅設計共同企業体
[ジェイアール東日本コンサルタンツ(株)・
(株)JR東日本建築設計]
日本鉄道電気設計(株)
隈研吾建築都市設計事務所
[デザインアーキテクト]
(株)ライティング プランナーズ アソシエーツ
[照明デザイン]
施工/品川新駅(仮称)新設工事共同企業体
[(株)大林組・鉄建建設(株)]
日本電設工業(株)

主な設備

●LED投光器※1 ●照明制御システム※2

  • 1 本件名は特注対応でカスタマイズしています
  • 2 PLC(電力線通信)による駅ホーム用の照明制御システムをJR東日本と共同研究開発 プレスリリースへ