現場のお役立ちツール
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた、
既築建築物の脱炭素化を促進する補助金のご紹介
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環境省 地球環境局
地球温暖化対策課
地球温暖化対策事業室 室長
塚田 源一郎 様 -
環境省 地球環境局
地球温暖化対策課
課長補佐
菊池 豊 様
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一般社団法人
環境共創イニシアチブ
事業第2部 部長
伊藤 邦男 様 -
一般社団法人
環境共創イニシアチブ
事業第1部 部長代理
綛山(かせやま) 裕介 様 -
一般社団法人
環境共創イニシアチブ
事業第2部
岩口 真央 様
2050年カーボンニュートラルの実現には、新築だけでなく、既築建築物のZEB化がカギとなります。
環境省は2024年3月より、「業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(脱炭素ビルリノベ事業)」をスタート。
今回、この「脱炭素ビルリノベ事業」を含めた住宅・建築物分野における政策動向や、これまでのお取り組みについて、
環境省地球温暖化対策事業室様、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)様に、解説していただきました。
既築建築物の脱炭素化へ総額339億円の予算を計上
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はじめに、環境省様に、住宅・建築物分野におけるGXに関連した環境省の政策動向について、お話を伺います。
塚田様:GXとはグリーントランスフォーメーションの略称で、政府は脱炭素への移行と経済成長の同時実現を目指して取り組みを進めています。2023年12月のGX実行会議においてとりまとめられたGX分野別投資戦略の中に、くらし関連部門の投資戦略があり、うち住宅・建築物における方向性としては以下が掲げられています。
①既築対策として、断熱窓への改修や高効率給湯器の導入に対する支援を強化する。
②トップランナー規制により、市場に普及する機器・設備の高性能化を図る。
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上記投資戦略に基づく、環境省事業の補助金について、お聞かせください。
塚田様:環境省では、くらし関連部門の分野別投資戦略と整合する形で、2023年(令和5年)度補正予算において2つのGXに関する補助事業の予算等を確保しました。1つめは「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(以下、先進的窓リノベ事業)」で、予算額は1,350億円。2つめは「業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(以下、脱炭素ビルリノベ事業)」で、2026年(令和8年)度までに総額で339億円の予算を確保しています。
2024年(令和6年)度当初予算案においても、ZEH、ZEBの普及拡大に向けた支援事業に必要な額を確保しています。特にZEBについては、建築物の運用時のみならず、ライフサイクル全体を通じて脱炭素化を目指す先導的な取り組みに対して支援を行うメニューを今回初めて計上させていただきました。
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「脱炭素ビルリノベ事業」のねらいについてお聞かせください。
塚田様:国は2021年10月の地球温暖化対策計画において、建築物分野の目指すべき姿と、その対策の方向性を次のように示しました。
①2030年度以降、新築される建築物について、ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されていることを目指す。
②2050年にストック平均でZEB基準の水準の省エネ性能が確保されていることを目指す。
新築の建築物については、ZEBシリーズへの継続的な支援に加えて、今後の建築物省エネ法による段階的な規制強化により、①の達成に近づいていくことができると考えています。
一方、既築の建築物についてはボリュームゾーンでありながら、これまで支援が限定的な領域でした。この領域に対する支援がなければ②の2050年に目指すべき姿の達成は困難と考えられることから、環境省では「脱炭素ビルリノベ事業」を創設することとしました。
「脱炭素ビルリノベ事業」では、外皮の断熱化や高効率空調機器等の導入加速を推進することにより、産業競争力の強化と建築物からの温室効果ガスの排出削減の同時実現を目指しています。2023年(令和5年)度補正予算では1,500棟相当の既築建築物の改修を見込んだ予算をご用意していますので、皆様の積極的な活用をお待ちしております。
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既存建築物の脱炭素化の課題については、どのようにお考えですか。
菊池様:既存の建築物の脱炭素化となると、どうしても使いながらの改修工事になるため、ZEBの認定件数も非常に少ないのが現状です。しかし、既存建築物は膨大な数がありますので、本事業については厳しいレベルの達成を求めず、一定の要件をクリアした案件をご支援する予定です。さらに補助金申請段階でのご負担をなるべく軽減するよう工夫しています。複数年度にまたがる工事も対象としているため、年度またぎのタイミングで工事を一時的にストップしていただく必要がありません。普及啓発に関しては、「ZEBポータル」サイトや脱炭素につながる国民運動「デコ活」で情報発信に取り組んでいます。
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電気工事会社様へメッセージをお願いします。
塚田様:「脱炭素ビルリノベ事業」は電気工事が必要になるケースが大多数で、電気工事会社様のビジネスチャンスが今後も継続していきます。ぜひ住宅・建築物の脱炭素化に貢献していただきますよう、お願い申し上げます。
建築物省エネに関する補助事業の執行と、関連情報を収集・分析・公開するSII
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ここからは「脱炭素ビルリノベ事業」の執行団体である環境共創イニシアチブ(SII)様にお話を伺います。はじめに貴団体の建築物省エネ事業への取り組みについて教えてください。
伊藤様:私どもは2011年度から経済産業省資源エネルギー庁様が進める補助事業の執行団体として、建築物省エネに関する事業の促進に貢献してきました。非住宅建築物分野ではZEB事業に関して推進しておりますが、当団体におけるZEB事業の位置づけは以下の通りです。
①2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において、『2030年度以降に新築される建築物についてZEB基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す』とされた目標に向けて、補助金を活用してのZEB化を支援する。
②ZEB実証事業で収集した建築物のデータをデータベース化し、当団体のHPで公開。それによりZEB導入を検討中の建築主様等にご活用いただき、ZEBの普及促進につなげる。
③ZEBの建築後、1~2年間の建物のエネルギー消費量を収集・分析・公開し、ZEBを検討中・設計中の建築主様・設計事務所様等にご活用いただく。
ほかにも建物用途ごとの「ZEB設計ガイドライン」、建築主様向けのパンフレット「ZEBのすすめ」を公開していますし、ZEBの設計・施工に深く関わるZEBプランナーやZEBリーディング・オーナーの登録制度においても、当団体で申請受付・審査・登録を行っています。
ご登録いただいたZEBプランナー様・ZEBリーディング・オーナー様については、広く周知いただくようHPで公開しています。
SII ホームページ https://sii.or.jp/
ZEB設計 ガイドライン https://sii.or.jp/zeb/zeb_guideline.html
岩口様:「ZEB設計ガイドライン」は当団体のHPからダウンロードできます。事務所・老人ホーム/福祉ホーム・スーパーマーケット/ホームセンター・病院・学校・ホテルの用途別に7種類を用意しており、どうすれば建物をZEBにできるかをご紹介していますので、ぜひ実務設計者様にご参考にしていただければと思います。
「ZEBのすすめ」はビルオーナー様向けに実際の設計事例をわかりやすく紹介したものですが、オーナー様の潜在的なニーズを把握できますので、電気工事会社様にも併せてご確認いただくと、よりイメージしやすいかと思います。
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ZEBプランナーの傾向について教えてください。
岩口様:建設会社様、コンサルティング会社様が多いですが、電気工事会社様にもご登録いただいています。登録されたZEBプランナー様を見ていただくには、当団体のHPにてZEB実績などとともに一覧にしております。ZEBリーディング・オーナー様については、オーナー様名だけでなく、地域区分・建物用途・延べ面積などの実績でも検索できるようにしています。地域ごとに「このような設備を導入すればZEBにできる」という見当をつけやすいのでお役立ていただければと思います。
電気工事会社様がZEBプランナーになると様々なメリットが
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電気工事会社様がZEBプランナーになるメリットとは?
岩口様:ZEB事業にはZEBプランナーの関与が必須ですので、電気工事会社様に限らず、ZEB関連のビジネスが増えることと、ZEBに興味のある建築主様等が当団体のHPからZEBプランナー様を探してご連絡する機会があるかと思います。また、国の政策に貢献し、環境問題に積極的に取り組んでいる企業というアピールになり、企業イメージの向上につながると考えています。
伊藤様:ZEBの設計にはWebプログラム※によるエネルギー計算が必要なのですが、電気工事会社様がWebプログラム計算を行うことにも大きなメリットがあります。
Webプログラム計算ができれば、外注先に依頼することなく自社内で設備の構成や仕様、台数、制御方法を変えるなどの設計シミュレーションが可能になり、建築主様が目標とするZEBのランクに近づけることができます。電気工事会社様自らZEBの仕様を建築主様に提案ができる、これがもっとも大きなメリットです。
また、ZEBの認証を得るためにはBELS認証機関に図面やWebプログラム計算書を提出する必要がありますが、その際、認証機関からさまざまなご指摘を受ける場合があります。
そのようなときも自社でWebプログラム計算ができれば、適切かつ迅速な対応が可能です。さらにこうした経験を積み重ねていくと、ZEBに最適な設備構成・仕様・予算をお客様にご提案できるようになります。新築だけでなく既築の知見も増え、ビジネスチャンスが拡がるのではないでしょうか。
※(編集部注)Webプログラム…国立研究開発法人建築研究所が提供する一次エネルギー計算ツール。
「脱炭素ビルリノベ事業」の特徴とポイント
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「脱炭素ビルリノベ事業」について教えてください。
綛山様:これまでのZEB関連の補助事業では基本的に新築の申請が多く、既築のZEBは非常に少なかったため、「脱炭素ビルリノベ事業」は国が本腰を入れて既築に取り組む初めての事業です。
本事業のねらいは、外皮の高断熱化と高効率空調機器等の導入加速を支援し、価格低減による産業競争力の強化・経済成長と温室効果ガスの削減を同時に図ることにあります。単に普及品を推すのではなく、付加価値品と呼ばれる市場の30~40%を占める上位機種の製品を国が支援することで普及させていくことを目的としています。
2023年(令和5年)度から4年間で総額339億円。国庫債務負担行為と呼ばれる補助金で、切れ目のない複数年度事業に対応できることがポイントです。外皮の高断熱化を実現するためには、足場を組んだり、クレーンを使うなど工事が長期化することが考えられるため、年度またぎで工事をストップする必要のない制度に設計されました。
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複数年度事業とは、例えば初年度に空調工事、翌年度に照明工事と分けたり、初年度は1~3階、翌年度は4~5階というように工期を分けることも可能でしょうか?
綛山様:各年度ごとに予算の上限がありますが、その範囲内であれば可能です。要件に関しては、外皮の高断熱化と高効率設備の導入があります(下記参照)。ここで注意すべきことは一次エネルギー消費量が、現状の数値からではなく、省エネルギー基準からの削減を求めていることです。先にご説明をしたWebプログラムを使って計算していただくことを想定し、Webプログラムの中で規定されている省エネルギー基準から30%または40%の削減が必要ということです。さらにBEMSを導入し、エネルギー管理をしていただくことも要件に含まれています。補助金の詳しい情報については、当団体のHPに随時アップしておりますので、そちらもご参照ください。
既存建築物の脱炭素化は、オフィス環境の向上につながることはもちろん、不動産価値の向上、光熱費の削減など、さまざまなメリットが考えられます。ビルオーナー様になかなかメリットを感じていただくことが難しい分野ではありますが、大規模改修のタイミングなどで国の支援を受け、ぜひ脱炭素へ積極的なお取り組みをお願いしたいと思います。
【脱炭素ビルリノベ事業】業務用建築物の脱炭素改修加速化事業
オフィスビルや商業ビル等の既存の建築物において断熱改修や高効率な空調・照明への更新を行うことで光熱費削減、資産価値や作業環境の向上が期待されます!
設備費と工事費に係る費用の1/2~1/3に相当する定額を支援します
1.外皮の高断熱化
「断熱窓」、「断熱材」の導入により、改修後の外皮性能BPI を1.0 以下にすること。
※なお改修前の外皮性能BPIが既に1.0以下の場合は、外皮の高断熱化は必須ではございません。
2.高効率設備の導入
「高効率空調」、「制御機能付きLED照明器具」の導入により、一次エネルギー消費量が省エネルギー基準から用途に応じて30%又は40%以上削減されること。
※なお改修前の外皮性能BPIが既に1.0以下の場合は、40%または50%以上の削減が必要となります。
補助対象製品と補助金額
種別や性能区分等に応じて設定された補助単価に導入量を乗じた額を補助します。
※なお改修前の外皮性能BPIが既に1.0以下の場合は、40%または50%以上の削減が必要となります。
外皮 | 断熱材 | 1,500円~ 3,200円/㎡ |
窓 | 14,000円 ~ 47,000円/㎡ | |
設備 | 空調 | 12,000円 ~ 29,000円/kW |
照明 | 12,000円 ~ 26,000円/台 | |
BEMS | 1,000,000円 ~ 14,000,000円/台 ※ただし、上記の額がBEMS費用の1/3を超える場合は、 1/3の額を補助します。 |
上限額 :1事業あたり10億円
下限額 :1事業あたり500万円
※本事業では最大3年間、年度の切れ目なく事業の実施が可能です。
公募期間
2024年3月29日(金)~
2024年11月29日(金)
一般社団法人 環境共創イニシアチブ 事業第1部 脱炭素ビルリノベ事業担当
Tel: 0120-102-912
受付時間 10:00~12:00、
13:00~17:00 (土日祝除く)
https://bl-renos.jp/
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