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ライティング機器のパートナーに選ばれることが決まる前の計画段階からVRを使ったシミュレーションを開始。決定後はリアルCGにて配光シミュレーションを行い、大規模な実験によってイメージ通りの光の実現に近づけていった。ゼロからのLED器具開発から演出点灯まで、革新的なスピードで実行する必要があり、パナソニック独自のソフト技術を活用して各プロセスの大幅な短縮を図って開業に間に合わせることが可能となった。
ハード面、ソフト面において、下記のクリアしなければならない数々の課題があった。本特集で紹介するソフト技術および実験によって課題を解決しながら完成度を高めていった。
ハード(機器・制御)の課題
?@光色:CGイメージ通りの色再現
?A光量:100mを照射するハイパワーと配光制御
?B形状:HID投光器設置スペースに納まる形状
?Cグレア対策:上空・周囲住宅へのまぶしさ配慮
?D品質:過酷な環境に耐える品質設計
?E制御:遅延のない点滅制御、チラつき対策
?F保守性:異常を監視するモニタリング機能
ソフト(照明効果)の課題
?@効果予測:実際の光イメージを「見える化」する
ソフト技術
?A配光:明るさ(パワー)・形状(ビーム角)・
視認性確認
?Bグレア抑制:上空・周囲環境へのまぶしさ
抑制確認
?C光色:雅色・粋色の決定
?D演出性:繊細な演出の実現
事業着手決定後、2012年5月スカイツリー開業までのおよそ7年間にわたり、ライトアップだけでなく、周辺環境への影響やお客様動線の検討など、その時々に事業者が抱えていたさまざまな検討課題の解決を、パナソニック独自のVR技術を用いて継続的に支援した。
大石 智久
環境計画VR推進チーム
鈴木 康史
環境計画VR推進チーム
東京スカイツリーおよびその周辺をデジタルモデル化して空間のイメージをつかみやすくし、とりわけお客様動線を検証することが、今回VRを作成する大きな目的のひとつでした。 第1期(2006年)では、既存の街並みの中にタワーの大きさの建物ボリュームが現れたときに生じる周辺環境の変化や、季節時間による影の落ち方などをVRでシミュレーションするなど、事業者による今後のプロジェクト推進における意思決定の材料としてVRをご活用いただきました。 第2期(2007 〜2009年)では、街区部(低層部)、タワー部(主に展望施設)のそれぞれが抱える課題解決のためにVRのデータを更新しました。街区部では、建築外観の大まかなデザインや屋上部分のランドスケープなどをVRで検討。タワー部では、上下2カ所の展望施設の建築内観の構造・デザインの把握や、展望施設からの眺望、地上からシーケンスでつながる一連のお客様動線などをVRで検討。街区部については、建築着工前に再度データ更新し、事業者の内部でのプレゼン資料としてもVRをご活用いただきました。 第3期(2010 〜2012年)では、開業に向けタワー部の展望施設内について、実施設計に合わせてVRのデータを更新しました。内装や展示物についても、想定されていた内容を配置し、事業者の最終的な計画調整、確認にVRをご活用いただきました。また、VRから作成した動画を、開業前のプレス発表時に公開するなどの展開も図られております。 このように、長期にわたる建設プロジェクトにおける、さまざまなお客様のお困りごとに対して、必要なデータ・機能を作成し、課題解決をサポートすることが、パナソニックのVRの特徴です。
器具開発を短期間で実現するために、配光設計を早期段階で決定する必要があった。パナソニック独自のCG解析技術を活用し、反射板CG設計から配光データを作成し、それを用いてリアルCGにより照明効果を事前確認した。試作品製作・再シミュレーションを繰り返すことで開発プロセスを大幅に短縮し、理想の配光設計が可能となった。
井口 美奈子 リアルCGは通常のCGと違って、光の動作が正確に計算でき、2次光以降の相互反射も正確に計算されます。 さらに素材の質感や光沢、映り込みなども表現でき、実際の照明効果とほぼ同じ様子がシミュレーションできます。 今回は、器具開発工程を短縮するための社内検討用にリアルCGを活用しましたが、精度の高いシミュレーションを実施するために、あらゆる情報を計算に組み入れる必要がありました。これだけ大規模な建造物の鉄骨形状や素材などすべての情報を入力する作業は膨大なものでしたが、リアルCG活用により、照明器具設計〜実験工程で、関係者が納得しながら検討を進めることができました。 |
照明コンサルタント、戸恒浩人氏のイメージを忠実に再現するため、コンセプトカラーを定量的に把握し、独自の色再現技術で狙いの色を表現した。また、部位ごとに違う照明器具が同じ色を表現できるように、慎重に調整を行った。
岩井 彌 照明デザイナーがイメージした色を、照明器具で用いるRGB値に変換することが大きな仕事でした。「雅」色は特殊な色で、従来光源ではフィルターを使って不要な色を捨てることで再現しますが、今回のLEDでは青色LEDに赤い蛍光体を被せて再現しています。ロスの多い引き算ではなく足し算で色を再現したことで消費電力を約38%削減することができました。光は実験室で壁に当てても、実際に当てる場合とは違って見えるため、東京スカイツリーで用いられた素材を借りて実際の環境に近づけて色を決めています。LEDによって色のつくり方や調光など、今までにできなかったことが可能になりました。今後、別の色をつ くってライトアップすることもできるし、演出も自由にデザインできます。オールLEDにしたことで、これまでにない光色と特別な演出が可能になりました。 |
さまざまな検討を経て試作した器具の精度を高めるため実験を行った。現場実験はごく限られた機会しかなかったため、パナソニックの施設も使い、イメージする光の再現へ近づけていった。
渡部 哲夫 彦根 修 |
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必要な光を出すための器具をどうやってつくるかが私たちにとっての課題でした。普通のライトアップの実験は、どういう光が出るか分かっている照明器具をどう並べたらイメージ通りの光が出せるかを検証しますが、今回はプロセスが逆で、先に完成形の光の全体イメージがあり、それを実現するのに必要な器具を検討するための実験でした。実験自体、関係者以外に見られてはいけません。一度の現場実験以外は、大規模なものは弊社の門真工場で、それ以外は実験室で行いました。器具の角度を0.1度ずつ傾けるといった地道な作業でした。 これだけのタワーに器具を付けたことは誰もありませんから、何に耐えたら大丈夫という評価項目がありません。弊社にとって安全性は非常に重要で、その基準をつくるところからのスタートでした。2010年時点のLEDはまだまだ理想からは遠い発展途上でしたが、数年後の納入は決まっているので、その間のLEDの進化を想定して必要な仕様を決めました。大きなチャレンジでしたが、想定通りのLEDと器具の開発に成功し、無事にオールLED化が達成できました。 |
光の色だけでなく、動きのある演出もスカイツリーを彩る。演出プログラムの作成には、光の動きをビジュアルで確認できる、パナソニック独自の演出シミュレーションソフト(カラーワークス)を活用した。
飯田 倫子 カラーワークスは元は照明制御のプログラムをつくるソフトですが、今回は器具種類が多く、動きも複雑なためスカイツリー全体の照明の動きが一目で分かるように、リアルCGの画像を加えるなどの変更をして使用しました。照明デザイナーの意図する動きをイメージし、器具ごとの調光を0.1秒単位で組み合わせて演出を作成しました。 通常の演出照明は現場で動きを確認しながら検証するのですが、今回は試験点灯の回数を最小限に抑えるため、カラーワークスによる事前確認が大変役立ちました。 ビジュアルで確認できることで、関係者全体で繊細な光の動きまで共有しながら作り込み、完成度の高い演出をつくることができたと思います。 |