- ウェビナー概要
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5月にウェビナー「人的資本経営とウェルビーイング 人事(制度)×総務(環境)による相乗効果が人材確保と定着へ導く」を開催しました。
人的資本経営といえば、人事領域をイメージされる方も多いかもしれませんが、人事が人材教育の機会をつくり、どんなに社員のスキルを磨いたとしても、働く環境が整備されていなかったら成果を出しようがありません。同時に、総務が社員の働く環境をつくることも重要です。
人的資本経営は人事と総務が手を取り合って成り立つものだといえます。ウェルビーイングの実現には、社員の心身のコンディションを整えるとともに、組織内の社会的安全性も担保することが必要です。人的資本経営とウェルビーイングは密接な関係を持っています。
そこで、人事と総務とWELL認証の専門家にそれぞれの考えを語っていただきました。
本記事では、5月に開催されたウェビナーのテーマ「人材枯渇時代における採用」「人材定着の課題と解決のために人事・総務ができること」「人的資本経営とウェルビーイングな組織づくり」「人的資本経営とWELL認証」について、3名の専門家が語った内容を一部抜粋して公開します。
人材枯渇時代における採用
人材枯渇時代の理由
上林(人事):人材枯渇時代という表現は決して誇張ではありません。2030年には644万人も人材が不足するというデータがあります。リクルートワークス研究所の「労働需給シミュレーション」では、2040年になると人材が1,100万人も供給不足になると見込まれています。
人材不足のなか、新たな採用方法や人材定着への考え方が取り入れられている
上林(人事):どの企業でも採用をどうするのかは、深刻な問題です。最近ではリファラル採用(社員や知人からの紹介による採用)や、アルムナイ採用(一度退職した社員を再雇用する採用)をしている企業もあります。このような厳しい状況から、人事の分野では「入社した社員に長く定着してもらうことが大事」という観点からの施策も多いです。これが人事界隈のトレンドです。
金(総務):2040年といえば、もうすぐです。「人材に長く定着してもらう」観点では、総務にも責任があります。社員が役者だとすると、総務は舞台づくりをする役目です。その舞台とは何かを考えると「いいオフィスをつくる」ことが総務界隈のトレンドです。
ただ、大切なのは中身です。サービスを含め、社員を幸せにするコミュニティや人のつながり、それを総務が演出することが重要です。いい舞台を用意すると、役者はやる気になります。オフィスも工場もそうですが、社員が盛り上がってやる気になる環境やチーム同士のつながりをつくることが大事です。
村上(WELL認証):オフィスとWELL認証の関係から見ると、私たちの調査では「ウェルビーイングの度合いが高いオフィスでは、エンゲージメント(従業員が会社に愛着を持ち、意欲的に仕事に取り組むこと)も高い」という結果が出ています。
WELL認証について、簡単にご紹介します。WELL認証とは、ウェルネス(心身の健康)という視点を取り入れた「空間を評価するシステム」のことです。光や空気、コミュニティ、マインドなど10個のコンセプトで構成され、心身の健康とウェルビーイングに影響を与えるさまざまな機能を、測定・評価・認証するパフォーマンスベースの評価システムです。
この評価システムは、建物や内装というハードの部分が重要視されているように思われがちですが、会社制度など人事・総務に関わるソフトの部分が30%を占めています。人事・総務の領域においても総合的に評価できる意味で、人的資本経営を含めて有効な評価システムだと考えています。
【WELL認証の要件に関する割合】
- 建築工事:30%
- 内装工事:21%
- 人事総務:30%
- ビル管理:19%
グローバルな調査でも「WELL認証を取得したオフィスではウェルビーイングの度合いが全体で26%向上した」ことがわかっています。
人材定着の課題と解決のために人事・総務ができること
近年、離職率が高まっている理由
上林(人事):社員の定着をどう図っていくかが、大事なテーマです。多くの企業が働き方改革に取り組んだ結果、働きやすい会社が増えたといわれています。実態に目を向けると「ハラスメントがきつい」「重労働」というような不満が原因で辞める社員は減っています。一方で、「このままで成長できるのか」「キャリアは大丈夫なのか」と不安になって辞めていく社員が増えています。
リクルートマネジメントソリューションズが取り続けている2013年と2023年のデータを比較すると、この10年で個性を大事にする人が増えていますから、会社に定着してもらうためには、個性を尊重する方向性の取り組みが大事になっています。画一的な施策ではなく、1人ひとりをきちんと見ることが社員の定着を図る1つのキーだと思いますし、社内の関係性をよくすることもポイントです。
人材が定着するために人事・総務ができること
上林(人事):さまざまな個性を持った人がいる中で、人事界隈では「エンゲージメントを高める」ことが重要になっています。エンゲージメントとは、社員と会社が前向きにくっついている状態です。どちらが偉い、前や後ろという関係でなく、対等な関係です。
社員のエンゲージメントを向上させ、会社に定着させるためにも、人事は総務と一緒に従業員体験だけではなく、会社全体でよい感情をつくっていくことが大事です。このあたりが社員の定着を促すポイントだと思います。
金(総務):不安から退職される社員が多いというお話がありましたが、総務のサービスが理由で社員を不安にさせて退職してほしくないです。総務の仕事はリスクマネジメント、イベントマネジメント、オフィスづくりなど多岐にわたり、やり方によっては社員を不安にしてしまうかもしれませんし、それぞれの舞台をうまく設計すれば社員がやる気になって長くいてくれることになります。そういう意味では、社員の退職について総務にも連帯責任があると感じています。
社員のためにやることは多くあります。オフィスだけではなく工場などを含めて、そこに建物があって社員がいたら環境を整えるのは、総務が行う仕事です。総務のやることが阻害要因にならないように、プラスの要因になるように「なるべく一律を避けてお客様である社員をマーケティングし、何が必要かをきちんと理解した上で、それぞれのセグメントに何をしたら喜んでくれるか」を考えることが大切です。
人的資本経営とウェルビーイングな組織づくり
ウェルビーイングな組織づくりは人的資本経営の一環
上林(人事):人的資本情報の開示が義務化され、さまざまな企業が人的資本経営を重視しています。昨今では「有形資産より無形資産の方が業績に与えるインパクトが大きい」というデータがあります。その象徴が人材ではないでしょうか。内閣府は人的資本情報開示で推奨する項目を公表しており、2023年から義務化されたこの情報開示は定着してきたように思います。
「開示項目の例」には、エンゲージメントと呼ばれる社員が前のめりに働く度合いも含まれ、これを開示することで「この会社は今後も人材面では大丈夫だ」ということを示す指標も使われています。人的資本情報の開示をうまくやっている会社は経営戦略と紐づけて、「うちのビジネスはこうだからこういう人が欲しい」という方向性を打ち出しています。
人的資本経営の実現には人事・総務が協力して取り組むことが大切
金(総務):こうした人的資本情報の開示項目を見ると、多くが総務に関連する内容になっています。人的資本経営は総務と人事が連携し、お互いにどの項目に対してどのような責任を持つのかを明確にすることが大切だといえます。人的資本経営を実現するには、バックオフィス全体が一体になって動かなければなりません。そして、総務は人事と連携し、「ウェルビーイング戦略としてこうありたい」という姿を描かなければなりません。
もし会社がそのように動いていなければ、総務が仕掛けるべきですし、仕掛け人は総務であるべきだと思っています。なぜなら、総務は会社全体が見えて雰囲気もわかっていますし、社員に対するマーケティングもある程度できているからです。
人件費を除けば、会社で一番大きな予算を持っているのは総務です。やり方によっては、総務の予算内で振り分けが可能です。実際、アフターコロナでオフィス改革に取り組んでいる会社の多くは、ウェルビーイングに予算を配分しています。オフィスの整備やハードの整備ができると、会計基準が変わってきます。
新会計基準でいうと、2027年4月から開始される新リース会計基準があります。例えば、5年間オフィスを賃貸して100億円支払った場合は、これまで毎年20億円ずつコストとして落としていました。しかし、現在の人的資本経営ではオフィス賃貸もコストではなく、資産という考え方です。「いい投資としてよりよいオフィスをつくり、社員を生かす」という資産の考え方になります。
上林(人事):人事と総務だけでなく、これまでバラバラだったセクションを融合させていくことが大事だと考えています。社員にいかにシナジーを湧かせるかが会社の魅力であり、オフィスの魅力です。シナジーを社員に求めることを考えると、人事と総務とが連携しなければ実現できません。ほかにも、経営企画部やIT部署ともいかに連携するかが大事です。
人的資本経営とWELL認証
人的資本経営とWELL認証の関係性
村上(WELL認証):WELL認証とエンゲージメントにおいて重要なのは、オフィスの中のウェルビーイングを上げることでエンゲージメントを向上させることです。最近では、人事や総務の方が「人的資本の観点からウェルビーイングができているのか」と、経営者から問われる機会が増えているそうです。
そうした課題を解決するのに、WELL認証が役立ちます。WELL認証を取得するとエンゲージメントが上がることが結果に現れてきていますので、オフィスづくりの際にWELL認証を物差しとして活用することが1つの方法になるのではないかと、私たちはご提案しています。
物差しの観点からいうと、WELL認証の評価には100個以上の項目があります。WELL認証の達成度合いを知るために評価項目を1つひとつ確認し、ウェルビーイングのポテンシャルを測るというご依頼も増えています。私たちは、それを「フィジビリティ・スタディ(Feasibility Study)」と呼び、どの程度のランクにあるかを測らせていただいています。
WELL認証でウェルビーイングのポテンシャルを測ったら、その内容を人的資本経営の観点を取り込んでオフィスづくりをサポートしています。私たちは「本当に社員が働きたい、エンゲージメントが高まるオフィスって何だろう」という観点で、WELL認証に関わる支援サービスを実施しています。
WELL認証をウェルビーイング実現の評価指標として活用できれば、社員のためのオフィス環境づくりの具体的な方向性が見えてきます。
本記事はウェビナーの内容を一部抜粋してまとめております。ウェビナーについて、より詳しい情報を知りたい方は、以下のeBOOKをダウンロードください。人材確保のために企業がウェルビーイング実現に向けて投資すべき「働く環境」に関する情報が紹介されています。
- 従業員エンゲージメントの考え方
- 人的資本の情報開示項目の見方
- 総務が持つ予算内でできる投資
- WELL認証とエンゲージメントに関する調査結果 など
パナソニックでは、WELL認証取得支援サービスを実施しています。WELL認証の取得は空間の環境計測から設備改善、申請・審査と対応することが多岐にわたるため、この支援サービスでは測定業務や申請資料の作成など実務サポートも行っています。
創業から100年以上、生活家電など多彩な製品開発を通して、人々が快適に暮らす環境づくりをしてきました。暮らしの快適さを定量的に測り、住空間を改善してきた経験と技術を生かしてウェルビーイングなオフィス空間の実現を支援いたします。
専門家のプロフィール
人事の専門家上林 周平
大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2002年に株式会社シェイクに入社後、企業研修事業の立ち上げ、商品開発責任者としてプログラム開発に従事する。新人から経営層までファシリテーターを実施。 2015年に代表取締役に就任。2017年9月に株式会社NEWONEを設立。2022年7月に「人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書」を出版するなど、幅広く活動している。
総務の専門家金 英範
早稲田大学理工学部建築学科卒。オフィス設計事務所勤務を経て、米国大学院にて「ファシリティマネジメント修士」を取得。帰国後、モルガン・スタンレー・グループ株式会社、ゴールドマン・サックス証券株式会社、メリルリンチ日本証券株式会社、米ジョンソンコントロールズ、日産自動車など、25年以上にわたって総務・ファシリティマネジメント業務にたずさわる。現在は株式会社Hite&Co.の代表取締役社長として戦略総務、ファシリティマネジメント業務に関するコンサルティング、および総務組織の専門性向上やリスキリングなどの業務を受託している。
WELL認証の専門家村上 昌史パナソニック株式会社
エレクトリックワークス社
ソリューションエンジニアリング本部
Well-Being事業開発室 Wellコンサル・サービス推進部 部長
2002年にパナソニック株式会社(旧松下電工株式会社)に入社。環境心理評価のエキスパートとして居住者心理に配慮した省エネ防御システムの開発を行い、その現場評価を担当。国内にとどまらず、アジア地域にも推進している。その専門性を生かし、現在はWELL認証コンサルタントのリーダーとして取得支援とともに、Well-Beingな空間設備のあり方についてさまざまな提案をしている。
WELL認証を詳しく知りたい人はこちらの資料をダウンロード
オフィスは1日の大半を過ごす空間でもあるため、オフィス環境を整備することは従業員の健康維持にも直結する重要な取り組みです。働きやすいオフィスと一口にいってもさまざまな定義や基準がありますが、国際的な認証であるWELL認証を取得することで、ESG経営にも貢献できるでしょう。
オフィス移転や改装を考えている方は、健康経営実現のために、ぜひこの機会にWELL認証の取得を検討してみてはいかがでしょうか。